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Lifestyle|17歳、フィンランドからの手紙 〈13. 春の訪れ〉

小さな頃から森が身近にある日々を送り、いつの日も自然とともに過ごしてきたcocoroさんは2021年の夏、憧れの地・フィンランドへひとり旅立ちました。渡航から1年半が過ぎ、18歳になった彼女は今、何を思い何を感じているのでしょう。まっすぐに見つめたフィンランドを綴ります。

Moi!cocoroです。

長い冬が明け、こちらフィンランドでもようやく春の兆しが見えてきました。私が住む中部地方のタンペレでは、日の入りが15時だった1月から毎日数分ずつ日照時間が伸び、最近では夜21時頃まで太陽が輝いています。

懐かしい陽の光と初春のまだひんやりとした空気。南方からフィンランドへ帰ってきた渡り鳥たちの可愛らしいさえずり。そこら中にできた細い水路から小川へ、小川から湖へと流れる雪解け水のサラサラという心地良い音。屋根や道路脇に積もった雪は解け始め、長く隠れていた地面がようやく顔を出しました。

4月中旬の今朝はマイナス3℃と少し冷え込みました

街ゆく人々の表情もとっても嬉しそう。散歩やサイクリングをする人の姿を見かけることが増えました。朝の気温は0℃前後とまだ冷えますが、冬の厚いダウンコートを着る必要がなくなり、心も身体も軽やかに。タンペレ市街のレストランやカフェでは、店先にあるテラス席が復活。暖かな屋外で食事を楽しむたくさんの人で賑わっています。

北国の長く暗い冬の後、ずっと待ちわびていた春の訪れに思わず小躍りしたくなるようなこの気持ち。今フィンランド中がそんな喜びに溢れていて、この地で2度の冬を越した私も、現地の人々と同じように心から嬉しくて!

町中に設置されている鳥の巣箱


日照時間が長くなることで、少しずつ冬の終わりを感じられるようになるのが、南部地方では2月頃。3月になると晴れの日が一段と多くなり、フィンランドの北地方だけでなく、全国各地でオーロラが観測しやすくなるのもこの時期。ようやく雪が解け、このまま冬が明けるのかと思ったらまた雪が降り、また解けて、そしてまた降り積もり…この繰り返しに、終止符が打たれるのが4月上旬から中旬にかけて。そうしてついに、この北国にかけられた冬の魔法が解けて、何もかもがすっかり元通りに。

朝陽に照らされてキラキラと輝く湖

5月から6月頃になると、雪の下でずっと冬眠していた草木や生き物たちが息を吹き返し、あっという間に辺りはフィンランドらしい緑溢れる風景になります。放課後に友人と森散歩へ出かけ、地面いっぱいのフキタンポポに囲まれながら一緒に花かんむりを作り、湖のほとりでアイスクリームを食べ、おしゃべりに夢中になっていたら、気付くと夜20時過ぎ。去年のそんな春の思い出が蘇ってきました。

去年の6月初めの様子


日本で代表的な春の花といえば桜や梅ですが、フィンランドではpajunkissa(パユンキッサ)、ネコヤナギが春の象徴。その名の通り、猫のしっぽのようにフワフワした銀白色の花穂がとっても可愛らしいこの樹木は、フィンランドの春一番の行事でもあるイースターと深い関係があります。

イースターは、イエス・キリストの復活をお祝いするキリスト教の日。そしてフィンランドではそれに加え、待望の春の到来をみんなでお祝いする伝統があります。

イースター前の日曜日。チャイムが鳴りドアを開けると、そこには可愛らしい魔女や動物に扮した子供たち、そしてその小さな手には、カラフルなちり紙や鳥の羽根で飾り付けされたネコヤナギの小枝。

“Vitsa sulle, palkka mulle!(ヴィッツァ スッレ、パルッカ ムッレ!)”
「あなたへ小枝を、わたしにご褒美を!」

この春のおまじないを言ってネコヤナギを渡すと、小さなイースターエッグやチョコをもらえて、子供たちは大喜び。家族、友人、ご近所さんと春の喜びをみんなで分かち合う、とっても愛らしいフィンランドならではの習慣です。

ヘルシンキでは5月頃になると桜が満開になる
(写真は街のお花屋さんで見つけたセイヨウスモモの花)


そうそう、フィンランドの季節にまつわる話といえば、12の月の名前。ヨーロッパの他の言語とは違い、自然と強い繋がりを持つフィンランドならではの意味が、それぞれの月の名前に込められています。ここでは春の月をいくつかご紹介しましょう。

イースター休みにカントリースキーを楽しむ人

2月はフィンランド語でhelmikuu(へルミクー)。kuuが月で、helmiは真珠や宝石という意味。少し暖かくなってきて、木に降り積もった雪が解け、その枝に付いた雫が陽の光にあたってキラキラと輝いて見えることから、真珠の月と名付けられました。私の友人にもhelmiという名前の女の子がいて、素敵な名前だなといつも思います。

3月はmaaliskuu(マーリスクー)、大地の月。”Maaliskuu maata näyttää”「3月は大地を見せる」という古いことわざもあり、雪が解け始め、冬になってから初めて地面が顔を出す様子を表しています。

雪解け水が小川から湖へと流れてゆく

4月はhuhtikuu(フフティクー)。昔、焼畑農業が盛んだったフィンランドでは、針葉樹や白樺の木を伐採して焼いたその土地をhuhta(フフタ)と呼びました。4月はフフタの月。雪解け水で地面がまだ十分に湿っていたため、火を抑えることができたのです。

こうしてみると、日本の旧暦の月とも似ているように感じます。古くから人々はどのように自然を感じ、どのように自然と共に生きてきたのか。フィンランドの言語や伝統文化にはその深い繋がりが刻まれていて、その意味や背景を知ると、改めて自然の美しさに魅了されます。


春は新しい章の始まり。太陽が輝き、雪が解け、鳥たちが歌い、花や草木が目覚め、新しい生命が生まれる。身近にある自然のおかげで、自分の中にも沸々とエネルギーや原動力が湧いてきます。だから春になると新しいことを始めたいと自然に思うのかもしれません。

「春は冬とは違う香りがするの。きっと懐かしい土の匂いかな。」

一昨年ホームステイでお世話になったお母さんのこの言葉をふと思い出しました。この春、きっとまた彼女は大好きなガーデニングを楽しんでいるでしょう。

去年の6月、森で摘んだ小さなブーケ

フィンランド人は太陽が1日中輝き続ける夏が大好き。春は夏への準備期間でもあり、「さぁ、今年の夏休みはどう過ごそうかな」とすでに計画を立て始めている友人たち。私も夏に日本に一時帰国するので、久しぶりの故郷がとっても楽しみ。夏までのカウントダウンをしながら、フィンランドの美しい春、その一瞬一瞬を心いっぱい楽しみたいと思います。

また次回のコラムでお会いしましょう。
Moi moi!