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Design&Art|デザインを覗く 〈11.青い光の街〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。


“the blue of our lakes and the white snow of our winters”

フィンランドの色彩を綴ったひとつの詩。
これは、青い十字の国旗を表す言葉でもあるそうです。

ヘルシンキの街には、青い風景が溢れています。

陸地に点在する湖はもちろん、南のバルト海や頭上に広がる大きな空。ひと言で定義することのできない美しい青のグラデーションが街の風景を彩ります。

水平方向に広がる水の青と、垂直方向に広がる空の青。広大なふたつの「青」を日常的に観測できることは、水の都ヘルシンキの魅力のひとつだと言えるでしょう。入り組んだ海岸線は人と水の距離を縮め、高層ビルのない市街地では視界いっぱいに空が広がります。冬の空が、空気が、重くどんよりとしているからこそ、夏のブルーはいっそう輝いて目に映るものです。

夏至を越え、刻々と秋へと向かう夏の暮れ。今回は、フィンランド滞在中に目にした多彩な青の風景をお届けします。


光り輝く、青い海。

海が青いのは、太陽光のうち波長の長い赤色が水に吸収されて、青色のみが海底で反射・散乱するためです。海の「青」とは、宇宙からやってくる光と地球の物質のぶつかり合いによって生まれるドラマチックで刹那的な色(現象)なのです。


青に染まる、海と空。

光と水の衝突で生まれる海の青に対して、空の青は光と大気の現象です。赤色よりも散乱しやすい青色は、空気中で四方八方へと散ってゆき、昼の空を青く染め上げます。

空を反射する穏やかな海や湖では、そのようなふたつの青の移り変わりを視界いっぱいに眺めることもできます。フィンランドならではの、「青」の楽しみ方です。


雨の日の、微かな青。

雲に覆われた雨の日には、うっすらとした光が、青が、感じられます。雨のなか森の高台へ行くと、そこには霧で霞んだ地平線が広がり、一帯には雨粒が木々の葉とぶつかり合う心地よい音が響き渡っていました。澄んだ空とはまた少し違った、日本的とも言える「青」の表情です。


夜へと向かう、薄明の青。

昼のようで夜のような、日没前後の薄暗い時間には、どこか憂いのある青が空に広がります。昼の青天から一転、空は徐々に徐々に色彩を失いながら、夜へと向かってゆきます。


ひと時の青、ブルーモーメント。

時に、日没後の空がいっそう青く染まることも。ブルーモーメントとも呼ばれるこの青の世界は、緯度の低い北欧諸国でよく見られるものです。日本でも日没後のわずかな時間に見られることがありますが、北欧の夏の夜(特に夏至付近)ではそれよりもずっと長い時間、この青の世界を楽しむことができます。


青い夜、月の光。

うっすらと明るい夏の夜をさらに明るく照らすのは、地球をまわる月の光です。およそ1ヶ月の間で満月と新月を繰り返すこの天体は、高度によって若干色が異なって見えます。地平に近いと赤っぽく、高くなるにつれて黄色へと、そして最終的には白い光で輝きます。黄色いイメージが強い月ですが、それは青い夜空が補色の黄色をいっそう引き立てているからかもしれません。


空の旅、宇宙まで続く青。

海や空の風景をじっくりと眺めてみると、地球の多くが「青」でできているのだと実感します。地上から天を見上げれば、そこには果てしなく続く広大な青が広がっていて、また飛行機から下の世界を見下ろすと、そこにはやはり広大な青が広がっています。

そして、不思議なことに地球の「青」には形も境界もありません。水平線ははるか彼方へ、空の青は宇宙まで。


遠くの空を眺めていると心が澄むような気持ちになったり、海辺で波の揺らぎを眺めていると日常のあれこれを忘れてしまうのはどうしてでしょうか。海も空も、原理は違えど青く輝くのはなぜでしょう。

どれほど科学が発展しても、或いは科学的に正しい答えが世の中に存在していたとしても、何かを純粋に不思議に思う気持ちや、純粋に美しさを感じる時間はかけがえのないものです。あらゆるものが新しく変わってゆくこの時代に、太古から変わらない「青い風景」が今なお人の心を動かし続けているとするならば、それはとても素敵なことです。

ヘルシンキの街は今日も変わらず青く輝いていて、人々は空を、海を眺め、そして湖の青にさまざまな思いを馳せていることでしょう。


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