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Lifestyle|森と暮らしと手仕事と 〈01.織り機が繋ぐコミュニケーション〉

フィンランド東北地方の小さな村、タイバルコスキ。2015年に家族4人でこの村に移住してきたという、クーセラ麻衣実さん。大きな森とともに昔ながらのフィンランドの知恵で楽しく暮らす毎日は、現代の私達が忘れかけている大切なものを思い出させてくれるといいます。今回は、この村に伝わる織物文化についてお話いただきました。

我が家は、タイバルコスキの中心部からさらに30kmほど離れた地域にあります。小高い丘に寄り添うように、10軒ほどが立ち並ぶ集落で、丘には100頭ほどのトナカイが飼育され、すそ野には65の島々が浮かぶ美しい湖が広がっています。今日は、集落一の織り手と名高い、80歳のリトヴァおばさんの家を訪ねました。

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玄関先には、リトヴァさんのお母さんが織られたという、伝統的な波模様のマット。大切な品かと思うのですが、リトヴァさんは青い色が苦手で家のインテリアに馴染まず、玄関マットとして落ち着いたんだそうです。

ところで、玄関ドアの前に、デッキブラシが立てかけられているのにお気づきですか?これは田舎ならではの風習で、「留守です」という意味なんです。最初に聞いた時には、なんて不用心な!と感じたのですが、わざわざ玄関口まで歩かせない気遣いなんだそうです。それもそのはず、この辺りでは、車道から家まで数十メートル離れているのが普通。優しい習慣ですね。

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というわけでリトヴァさんはお留守だったため、また別の機会に…。帰りがけ、ふと気づくと、雪上に2本の線。スキーに出かけてらっしゃったんですね!

タイバルコスキの村では、人口4000人の半分が中心部に、半分が私たちのように郊外に住んでいると言われています。郊外では地域ごとに町内会があり、我が家のあるヨキヤルビ地区では、様々な活動が行われています。町内会館はヨキヤルビ小学校の旧校舎。館内には、手芸好きが集まるこんな部屋もあるんです。

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昔は各家庭にあったものの、時代の流れの中で、出番が少なくなってしまった織り機。場所の確保が難しく物置に仕舞ったままになり、組み立て方や経糸の張り方など忘れてしまったけれど、いつかまた始めたい… そんな想いの住民が意外と多く、じゃあ町内会館に集めてみんなでやってみよう!と始まったのが、このヨキヤルビ町内会手芸部です。

ルールはただ一つ、「誰も前の人を急かさない」。趣味はマイペースで楽しむのが心地よいこと、みんな知っています。フィンランド人のさりげない心遣いが、こんなところにも見え隠れします。

今日はアルヤさんが麻布を織りに来ていました。

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経糸は麻50%・綿50%、緯糸が麻100%で、キッチンクロス数枚とテーブルランナーを織る予定だそうです。機織りのどんなところが楽しいのか伺ってみたところ、一人で織るときは、日常のあれこれを忘れて、今この織る作業だけに集中できること、とおっしゃっていました。まさにマインドフルネスですね! そして仲間がいるときには、おしゃべりはもちろん、手仕事を通じた温かい雰囲気そのものが好きなんだそうです。

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そうこうおしゃべりをしているうちに、汗をぬぐいながらレイラさんがやってきました。今日は2月らしい、寒くも明るい空。お天気に誘われ、機織り前にスキーで湖を一周して来たんだそうです。

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せっかく私が来ているとのことで、秋に私が織ったマットを織り機から外す作業を手伝ってくれました。織ることは一人でできますが、経糸を張ったり、作品を織り機から外すのは、共同作業の方が楽だし楽しいのです。お互い褒めたり反省点を見つけたり、こんなひと時が冬の一日を彩ってくれます。

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森のなかにたたずむ町内会館。ここから、凍ったヨキヤルビ湖畔に向けてスキーコースが伸びています。手仕事とスキー。東北フィンランドの長い冬を乗り切る術が、ここにあります。

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