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『 皿の中に、イタリア』 内田洋子

『皿の中に、イタリア』
内田洋子 2014年 講談社

去る正月、青春18きっぷで日帰り栃木まで旅をした日とともにあった本なので、それも交えて書こうかな~。



各駅停車に揺られ、何となく目に留まって買ったエッセイを開き、旅は始まる。入れ替わる人の気配、足元に寄せては返す冷気、聞き流す車内アナウンス。
ところで私にとって電車の座席は、座った瞬間から絶対領域である。揺られる感覚と合わせてそもそも好きなので、鉄道旅が向いている気がする。

ときおり意識に潜りこんでくる駅名に顔を上げる。見知らぬ土地の聞きなれない地名。鷲宮、雀宮。鳥の名と宮。栗橋、小山、古河。逆に聞いたことはあっても、初めて通りかかる土地。顔を上げると向かいの窓ガラス越しに田んぼと川、申し訳程度にはしる電線。旅情。

旅のお供はイタリアの食を綴るエッセイ。体は北関東を、意識は遠くイタリアを旅する。
宇都宮に着いて餃子に2時間並んだわけだが、その間頭に刷り込まれるはオリーブオイルと小麦の香り立つ料理の数々。

三兄弟の堅実と矜持が伝わる魚屋、毎週金曜の晩餐。
陽光に照るトマトの明るい表情、夏の庭で男も女も集まる水煮づくり。
バールの軽食はあちこちの郷土料理がこぼれるパニーニ、界隈の母たる女性の粋な計らい。
山のイカ、それは新鮮な海産物を夢見て揚げる輪切りのタマネギ。
長いローマの冬の片隅で、愚痴をつぶやくようにふつふつ煮える豆のスープ。
場面を選ばず顔を覗かすフォカッチャ。そう、特にフォカッチャ。塩とオリーブオイルの染み込む様。
村の食堂はそのまま農村の厨房。農家たち大家族の団欒の縮図らしい。サルデーニャ、プーリア、リベリア、ミラノ、ローマ。待ち時間をかけてイタリアが襲ってくる。
餃子どころではないですねえ。

だけど単純な私の胃、シンプルでボリューミーな焼餃子に大喜び。お米も柔らかく、炊き立てが当たったのか?湯気と艶の豊富な粒をよそった、まさにその味がして満足。

それはそうと、帰る道々パン屋に引き寄せられたのは言うまでもない。

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