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ルール減らし大富豪とその要素分解

この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2021の9日目の記事として書かれたものです。

はじめに/自己紹介

こんにちは、わんど @wand_125 です。
ゲームの仕組みを知ることをライフワークにしており、
ここ2〜3年ほどは1人用、収束型のよりPrimitiveなゲームデザインとして、
ペンシルパズルを嗜んでいます。

今年は、ルール推測型のオリジナルペンシルパズル集 Instructionless Grid をリリースしたり、
オンラインボードゲームとしては、2020年にはダイスソリティアゲーム『セクスタプル』をリリースしました。

また、パズルのルールの要素分解、一枚謎の要素分解、行列推理の要素分解など、ルールの抽象化とその分類に取り組んでいます。

今回はルール減らし大富豪を通して、ルールの要素と除去を
「ルール減らし大富豪はルールの何を減らしているのか」を考えていこうとおもいます。

ルール追加大富豪とは

ルール追加大富豪とは、ローカルルールの多い大富豪で、どのルールを採用するかという問題を解決するため、
シンプルなルールから始めて「大富豪になった人が次のゲームのルールを一つ追加できる」というラウンド間ルールを追加したものです。

2014年頃にTwitter数学クラスタで流行り始め、

その後2015年頃の学生謎クラスタでもルール追加大富豪が流行り始めました。

togetterのタイトルにもあるよう、ゲーム性としては本質はルール追加で、
大富豪を目指すというよりも、ライブゲームデザインと言えるようなものですが、
一方で、「大富豪」のシステムがルール変化耐性やプレイ時間等の面でちょうど良くフィットしているとみることもできそうです。

ルール減らし大富豪

ルール追加大富豪を遊んでいるうち、花岡さんによって、ルール減らし大富豪という概念が提唱されました。

ルール減らし大富豪という電波を受信しました 午前0:19 · 2016年4月1日

ルール減らし大富豪は「2枚出し」「パス」などの簡単に削れるルールから減らしていって、だんだん「カードを出すという動作」「場札」「手札」「ゲームの終わり」などの概念が削れていき最終的に完全なる無をエンターテイメントするカルト宗教に到達する 午前0:42 · 2016年4月1日

鍵垢で提唱されたにも関わらず、やりたいやりたいとわんどが言いまくっていたら、謎解き関係の学生の集いである、謎大に持ち込まれ、開催されたそうです。
参加することは叶わなかったのですが、その後プレイ記が公開されました。

ルール減らし大富豪プレイ記

パワーワードしかない。

ルール減らし大富豪が減らすもの

今日はこの「ルール減らし大富豪」の分析を行っていこうと思います。
一見に向かって全力で収束していくかのように見える、ルール減らし大富豪、
ルール追加大富豪と違って誰がやっても同じようなゲーム展開になるように思えますが、そこにクリエイティビティを混ぜる余地はあるのでしょうか。

この記事では先のゲームをもとに、ルール減らし大富豪の減らし方を

  • 操作の除去

  • 制限の除去

  • 選択肢の除去

  • 簡易化

  • 道具の実体の除去

  • 概念(構成要素)の除去

  • 取り決めの除去

の7種類に分類します。

操作の除去

ゲーム中の処理の一部をスキップするものです。
フローチャートの長方形(処理)の部分を取り除くイメージです。
特殊効果をなくすものから、取り除いてもゲームを進行できる操作までが取り除かれ、
先のゲームの中では、

  • 7渡し

  • Jバック

  • 10捨て

  • 大貧民→大富豪にカードを渡す

  • 富豪→貧民にカードを渡す

  • 8切り

  • シャッフル

  • カードを渡す

が該当します。

選択肢の除去

ゲーム中、プレイヤーに選択が委ねらているところで、その選択肢の一部を取り除くような減らし方も存在します。
フローチャートの平行四辺形(入力)から伸びる矢印をなくすイメージです。

先のゲームの中では

  • スペ3

  • 階段

  • 3枚以上出し

  • (カードが出せる時の)パス

  • JOKERのワイルドカードとしての使用

  • 2枚出し

  • 1枚出し

の除去が該当します。

制限の除去

逆に、ゲーム中で○○はできない、という制限がルール減らしによって除去されることがあります。
先のゲームの中では

  • 数字縛り

  • スート縛り

の除去や

    • どこに捨てても良い

  • 手番

    • 自分の手番でしかカードを出すことができない

といったものが除去されています。

選択肢と制限の補完関係

ここで、選択肢の除去と制限の除去は対になる概念であることに気付きます。

例えば、先のゲームでは{1枚出し, 2枚出し,... }のルールが1つずつ削られていきましたが、1枚出ししかできない状態になったところで、
「カードは1枚ずつしか出せない」というルールを除去することで
もとのルールに戻すことができます。
この関係については、alg_d氏によって当日指摘がありました。

簡易化

より単純なルールに置き換えるようなルール減らしもあります。
ルール減らしではなく、ルール変更だという指摘もありますが、
「複雑さ」が減っているのでルール減らしだと考えられ、プレイされたものだと考えられます。
先のゲームでは以下のような簡易化が行われています。

  • カードを1枚ずつ順に配る

    • 【変更後】カードを人数分の束に適当に分けて配布する

  • カードを手に持つ

    • 【変更後】カードを場に公開する

  • カードの強さ

    • 【変更前】3→4→...→Q→K→1→2→Jo

    • 【変更後】 そのカードにかかれている記号の数

  • カードを配る

    • 【変更前】カードを人数分の束に適当に分けて配布する

    • 【変更後】捨て札をテキトーに重ねたものから好き放題取っていく

こちらもalg_dさんによる指摘がありました。

道具の実体の除去

ゲームに使う道具自体をなくす減らし方も考えられます。

  • (実体+概念の除去)道具の存在をゲーム中から消し去る

  • (実体の除去)道具をなくすが、ゲーム中では存在することにする。

前者について、例えばゲーム中に「4〜9のカードをなくす」という減らし方が行われた場合、おそらく、それらのカードは存在しないものとして扱われそうです。

一方で、後者については、ゲームのルールに影響を与えるものと与えないものが存在しそうです。
ボードゲームでは、盤面の状況をゲームの状態がわかることがエレガントだとされているため、状態を示すだけのマーカー類も一般に存在しますが、
これがなくなっても、状態の管理が大変になるだけでルールは変化しません。
例えば麻雀から起家を示す札がなくなったところで、ゲームのルールには影響しないでしょう。

先のゲームでは、最後から4つ前に「トランプ」が使われなくなっています。
ランダマイザや非公開情報はゲームのルールに影響を与えていそうです。

ツイートでは言及されていないのですが、 理論上、カードを出す瞬間まで所持カードが確定していない、ルールとしては「量子将棋」のようなものに変化したのではないかと考えられます。

将棋ったーβ - 量子将棋 のルール

概念(構成要素)の除去

先のゲームでは

  • 強弱

  • 手番

といった概念が消失しています。
また、変更後のルールは「どこに捨てても良い」「何を出しても良い」「いつ出しても良い」と、制限の除去の適用されたルールとなっています。

これは単なる制限の除去ではなく、概念を除去しているように思えます。

ここでの概念とは、
「ルール中で参照される、定義付けされた、独自または共通の用語」
と言えるかもしれません。

明確に区別するのは難しいのですが、同じゲーム中の用語、構成要素でも「親」が含まれて「7渡し」が含まれないのはルール中で参照されるかどうか、の違いで区別しています。

また、ルール減らし大富豪では、最後に「大富豪」というゲームを消失することで終わりを迎えています。こちらも概念の消失の一種と言えるでしょう。

ゲームの最後には「忘れる」という表現がでてきます。

まるで、存在が抹消された上で辻褄が合うように処理されるストーリーのような、概念・構成要素の除去は現実世界における「忘れる」に相当する操作と見なすことで直感的に処理できたのでしょう。

しかし、ゲームの最後には「大富豪を取り除くことは大富豪を忘れることではない」という気付きを得ています。あくまで、ルールから消し去っただけで、実際に忘れたわけではないということに気付かなければなりません。

取り決めの除去

ここまで、いろんな除去について検討していき、減らすといいつつある程度自由にゲームをデザインできるのかも、と思ったところ、大変な裁定を見つけました。

最後から3番目、
「使用するカードは1セット」という取り決めを除去する際、
「使用するトランプのセット数はプレイヤーの合意によって決める」
というルールに変化しています。

ルールにないことに関してはプレイヤー間の取り決めで決める

という暗黙のルールがあり、「ルール減らし大富豪」を使って悪さをしたい人は、このタイプの除去を利用し、
「大富豪」は「大富豪」で遊ばないといけないという取り決めの
(暗黙の)ルールを除去することで、任意ゲーム実行RTAを行うことができます。

まとめ

『ルールズ・オブ・プレイーゲームデザインの基礎』の、ルールの性質の項目の、ルールの特徴の1つ目には

  • ルールはプレイヤーの行動を制限する

とあります。たとえ、選択肢が書かれていたとしても、「それ以外のことができない」という形でルールが規定されているため、
実はなんでもできるようになるルール減らしの本質といえるかもしれません。

最後に

ここまで読んでいただきありがとうございます。
最後に参考の形で出典と関連する情報の紹介を行っていきます。

参考・出典

ペンシルパズルの構成要素

ペンシルパズルのルール種の中で出現する固有の概念についての説明もあります。

「無」の話

ルール減らし大富豪プレイ記のほたるさん(@hotar_nazoneko)の昨年の記事です。(ルール減らし大富豪についての言及はありません)

存在の消失

まとめ

ちなみにルールの特徴の4番目は「ルールは固定されている」で、「ルール(追加|減らし)大富豪」は一見満たしていない用に見えますが、メタゲームについて変化させる際の暗黙のルールの範疇があると言えるのかもしれません)

Board Game Design Advent Calendar

追記

ほたるさんより、体感した者として、「私の中でのルール減らし大富豪とは何なのか」についての考察が書かれました。


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