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【ショートショート】完全アウェイゲーム

意識が朦朧とする。

ぼやけながらも、かろうじて耳に届くけたたましい歓声は倒れる寸前の僕を前に最高潮に達しているようだ。

汗も出ない程に身体から水分が干上がり、口の中は粘ついている。

強烈なライトに照らされて目の前の相手もよく見えない。
しかし、相手は恐らくピンピンしているだろう。
周りの歓声に後押しされるかのように、むしろ力を増しているのではないかと錯覚するほどだ。

「不利すぎるだろ...」

立っているのがやっとだった脚は痙攣を始めた。
手の感覚はとうにない。

もうダメか。

「おいっ!」

倒れる寸前に自分のことを鼓舞してくれるかのような声が聞こえたが、身体は言うことを聞かない。
全身を打たれるような衝撃とともに、目の前がブラックアウトした──。

「おお、目が覚めたか。」

自分の目には何かが映っていて、音も聞こえていることは無意識に理解しているが、思考が追いつかない。

「大丈夫か?」

聞き馴染みのある声のする方に顔を向けると、そこには良く見知った顔があった。
先走った感覚を追い越すかのように思考が働き始め、自分のいる場所が病院であることに気がつく。

「僕は負けたのか...」と思わず口にしてしまっていた。

「なに意味わかんねーこと言ってんだよ。お前運ぶの一苦労だったんだからな。」

示し合わせたかのように一斉になくセミの声が、その言葉をかき消す。
けたたましい音が聞こえた方に目を向けると、強烈な陽の光が網膜に差しこんできて、あまりの眩しさに反射的に目を閉じてしまった。

窓の外は快晴だ。空も雲も見えていないが、快晴に違いない。
今、この場所の涼しさのせいで、あの場所も同じような気温なのではないかと錯覚してしまいそうになるが、一歩外にでればそんなのは幻想だとすぐに分かるだろう。

「俺は現場戻るからな。小学生じゃねーんだから、ちゃんと水分補給して気分悪かったら休めよ。」

そう言って去っていく先輩は、ファン付きのベストタイプの作業着を着ていて、ただでさえガタイのいい身体がさらに大きく見える。

「僕もアレ買わないとな...」

どうやら僕は『夏』に敗北したようだ。

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