2024年は、AIベンチャーのROI検証の年。Sapphire Venturesの展望
エンタープライズ向けAIスタートアップに対して10億ドル以上の投資をコミットしたサファイア・ベンチャーズ(Sapphire Ventures)のパートナー、キャシー・ガオ氏を迎えてのBloombergのインタビューです。
AI分野におけるベンチャーキャピタルの投資戦略とその見通しが議論されています。2023年はAIの実験の年、2024年はROI検証の年、そして2025年は幅広い企業へのアダプションが拡がる年と位置付け、ミッドステージからレイトステージの企業を対象に投資を継続しているとのこと。大手テック企業との投資競争における差別化戦略なども語られています。
尚、サファイア・ベンチャーズは、1996年にドイツの「SAP」が設立したベンチャーキャピタルで、数多くの出資とエグジットを成功させている有力VCの1社です。(以下は、主なエグジット案件です)
(1)インタビュー
[エド・ルドロー](Bloomberg)
10億ドルというのは大きなコミットメントですよね。
まずは、そのプロセスがどのようなものだったのか、そしてどのように資金配分したのか、お聞かせいただけますか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
この場に呼んでいただきありがとうございます。
Sapphire Venturesでは、B2B企業への投資に注力しており、特にミッドステージからレイトステージの企業を対象に投資をしています。つまり、プロダクトマーケットフィットが確立され、すでに収益を上げている実績のある企業を探しています。
AIについては、非常に多くの革新とアダプションの波がありました。2023年は、主に実験の年でしたが、2024年はROI検証の年となり、多くの人々がこれらのツールを実際に活用し始めました。そして、私たちは2025年が企業が幅広くAIを採用する年になると確信しています。
そのような中で、私たちは2024年も非常に積極的に活動し、すでにいくつかのAI投資を行っています。
[エド・ルドロー](Bloomberg)
ベンチャーキャピタルと大手テック企業の間に、緊張感を感じており、何かしらの競争があるのではないかと思っています。大手企業も、非常に似たような投資を行っており、また、自ら技術を開発していたりしますよね。例として、かつてのポートフォリオ企業であるMuleSoftについては、最終的にSalesforceに買収されましたが、これは非常に興味深いエグジットだったと思います。次のMuleSoftのような企業、特にAI分野では、どのように見つけ出すのでしょうか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
生成AI企業について議論するのはとても興味深いことだと思います。というのも、SalesforceやMicrosoft、Amazonといった既存の大手企業は、どこも積極的に若いAIスタートアップに投資しており、彼ら自身の未来にAIを組み込もうとしているからです。
私たちが投資家として注目しているのは、独立した素晴らしいビジネスを展開し、IPOまで進む可能性のある企業ですが、M&Aについても出口戦略として考慮しています。そのため私たちは、大手テクノロジー企業が戦略な立場を占めていると思われる企業についても注意を払っています。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
2024年にすでにいくつかの投資を行ったとおっしゃっていましたが、現在の市場でのバリュエーションはどのような感じでしょうか? バリュエーションは上がっているのでしょうか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
素晴らしい質問です。結論から言うと、「はい」です。バリュエーションは上がっています。現実として、AIは非常に幅広く支持されているため、評価額が非常に高くなっており、投資するには難しい時期とも言えます。つまり、完璧なディールには完璧なバリュエーションが必要ということです。
Sapphireでの私たちのアプローチ、そして私自身のアプローチとしては、差別化された投資方法を取る必要があると考えています。そして今はまだ、様々なタイプの企業にAIが採用される初期段階であることから、ある程度は思い切った行動を取らざるを得ません。
私の場合、データとリサーチに基づいて判断しているのですが、過去、歴史的にテクノロジーの導入が遅れていた業界が、今後一斉に採用するだろうと考えています。
具体例としては、製造業、建設業、ヘルスケア、法務といった業界です。これらはまだ紙とペンや古いコンピュータで運営しているところが多いです。もう一つは、中小企業です。米国企業の80%以上は従業員10人未満の小さな企業で、これまで最新技術にアクセスするのが難しかった業界です。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
先ほどおっしゃっていた「ROI検証」について、とても共感しました。今、まさに投資に対するリターンを検証する段階にあると思うのですが、まだ十分な結果が見えていないように感じます。あなたが支援しているスタートアップでは、そのリターンを確認できていますか? また、それをどのように測定しているのか教えていただけますか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
それは的を射た質問です。実際、そのフェーズにはすでに突入していると思います。例を挙げると、Sapphireは最近、「EliseAI」に投資しました。「EliseAI」はシリーズDラウンドの企業で、主に潜在的な入居者や既存の入居者と住宅ビルとのやり取り全体をエンド・トゥ・エンドで管理するソリューションを提供しています。
彼らの多くの顧客は、洗練された住宅不動産企業であり、内部で独自のベンチマークを行うことが一般的です。「EliseAI」の提供するベンチマークだけに頼らず、社内でもデータを分析しています。そしてそのデータは、精度の大幅な向上や実際の成果、特に顧客満足度の向上を示しています。
[エド・ルドロー](Bloomberg)
最近のニュースでは、OpenAIが非常に高い評価額で大規模な調達を行ったという話がありました。また、Anthropicも新たな動きを見せているようです。私が見た報道によると、OpenAIのラウンドでは最低でも2億5000万ドルの出資が必要だという話もありましたが、こうした大規模な調達が、あなた方にどのような影響を与えるとお考えでしょうか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
今の質問、もう少し詳しく説明していただけますか?
[エド・ルドロー](Bloomberg)
そうですね、今は多くの人が限られた有名企業に群がっていて、SPV(特別目的会社)を通じた投資も増えています。そういった状況は、逆にあまり注目されていないスタートアップにアクセスしやすくなっているのでしょうか? それとも、「成長段階にあるこのラウンドに出資すべきか」といった悩みが生まれているのでしょうか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
素晴らしい質問です。最終的に、私たち投資家の仕事は、ファンド構成において資本を適切に配分することです。そのため、どのテーマに投資するかが重要になります。常に素晴らしいディールは存在しますが、私たちは自分たちの戦略に基づいて、資本を最も効果的に使える場所を見つけなければなりません。
Sapphireのような企業にとっては、それは大きなチャンスだと思います。他の投資家たちは、超レイトステージの巨大なディールや、収益がまだそれほど多くないAI関連のハイプに乗った超初期の企業に追いかけ回されています。その結果、私たちのようにミッドからレイトステージの実績ある企業に注目する投資家には、より多くの未開拓のチャンスが残されるのです。
そして、これはAIに限った話ではありません。生成AIに特化していない素晴らしい企業もたくさんありますが、多くの投資家がAI企業にばかり注目しています。私たちにとっては、それもまた有利に働く点だと思います。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
では、生成AIとは関係ないもので、参画できてワクワクした、あるいは少なくとも分析して面白かったスタートアップを1社挙げていただけますか?
[キャシー・ガオ](サファイア・ベンチャーズ・パートナー)
そうですね、広範なAI戦略を考える際の興味深いアプローチは、生成AIを活用している企業に着目することだと思います。例えば、Sapphireのポートフォリオ企業である「Medable」は、その好例です。「Medable」は、臨床試験を分散型で行うためのソフトウェアプラットフォームを提供しています。生成AIに特化した企業ではありませんが、実際には生成AI技術を積極的に活用し、導入時間を大幅に短縮しています。
「Medable」は世界最大のライフサイエンス企業と協力していますが、その導入には複雑さゆえに時間がかかることが多いです。しかし、生成AIを活用することで、千ページにわたる試験書類を自動化し、技術的な専門知識がない人でも設定できるようになったことは、業界にとって大きな変革をもたらしています。
(2)オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloombergより
(Original Published date : 2024/09/25 EST)
以上です。
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だうじょん
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