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[9/6]雇用統計の評価:イールドカーブとデュレーションに着目(ゴールドマンサックス・債権ストラテジスト)


 9/6に米国の雇用統計が発表された直後に収録されたゴールドマン・サックスのポッドキャストを紹介します。同社の債権マクロストラテジストが今回の雇用統計に対する見解を述べており、雇用統計のFRBの利下げ幅や市場への影響、ECBの金融政策や投資戦略についてコメントしています。


[主なトピックス]

  • 雇用統計は予想をやや下回る結果。労働市場の減速を示し、FRBの金融政策の緩和を加速する可能性ある

  • 9月のFOMCでは、0.25%の利下げがベースシナリオだが、50ベーシスポイントの利下げについても議論される可能性がある

  • ECBの利下げは、FRBよりも緩やかなペースで進む

  • 金融緩和に向かう中、イールドカーブがさらに急傾斜化。デュレーションを積極的に組み込もうとする投資家の動きにつながり、2年から5年の債券に有利に働く


以下、ご参考下さい。


(1)インタビュー


[クリス・ハッシー](Goldman Sachs Research)
 
本日発表された雇用統計では、失業率が10ベーシスポイント低下しました。これが投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか?

 本日は、ゴールドマン・サックスのアセット・マネジメント部門、債券マクロ戦略ヘッドであるサイモン・ダンゴーをお迎えしています。サイモンさん、お越しいただきありがとうございます。

[サイモン・ダンゴール](Goldman Sachs)
 お招きいただきありがとうございます。

[クリス・ハッシー]
 データが発表されてから30分後に収録しています。数字を見てみましょう。非農業部門の雇用者数は14万2,000人増加し、失業率は4.2%に低下しました。サイモンさん、このレポートについてどうお考えですか?

[サイモン・ダンゴール]
 厳密に言うと、期待値からするとやや失望させる内容です。ヘッドラインの雇用者数が16万5,000人の予想を少し下回り、過去のデータ修正が約10万人減少したこともあります。但し、特に7月の数値懸念からすると、少し安心できる報告とも言えるかもしれません。
 全体的に労働市場の状況を見ると、確かに減速している兆しはあります。3か月前の3か月平均の雇用者数は、現在より約10万人多かったですが、雇用創出の水準は決して悲観的なものではありません。また、急激な減速が進んでいるという明確な証拠も見られません。

[クリス・ハッシー]
 市場は多少動いたものの、大きな変動は見られません。金利も発表前とほぼ変わらない状況です。現時点での市場の反応については、どうお考えですか?

[サイモン・ダンゴール]
 市場の反応は、最初の強いラリーを考えると少し意外でしたが、すでに戻ってきています。我々が特に納得しているのは、イールドカーブが急になったことです。労働市場の減速と失業率の低下が進む中で、全体的な経済状況は悪くないものの、FRBの数年に渡る厳しい金融政策が一層早く緩和されていく可能性が高いと考えています。その結果、イールドカーブがさらに急になることが予想され、これは理にかなっていると思います。

[クリス・ハッシー]
 イールドカーブの急傾斜化についてもう少し詳しくお話しいただけますか?具体的にどういう意味なのか教えてください。イールドカーブが急になることは、投資家にとってどんなメッセージを伝えるのでしょうか?

[サイモン・ダンゴール]
 イールドカーブの急傾斜化はいろいろな意味を持つことがありますが、今回の場合、明らかにFRBがもはや厳しい金融政策を維持する必要がないことを示していると思います。過去数四半期にわたり、イールドカーブは逆イールドの状態が続き、10年債の利回りが2年債の利回りを大きく下回っていましたが、それが徐々にフラット化してきています。現在のマクロ経済の状況を考えると、FRBはこの非常に高い金利水準から比較的速やかに緩和に動けると考えています。その結果、イールドカーブはさらに急傾斜化するはずです。
 もちろん、私たちの基本シナリオではないですが、もしもっと弱いデータが出た場合には、カーブがさらに急傾斜化する可能性もあります。現在の状況では、FRBが利上げから撤退するペースが加速する余地がまだ残されており、それに伴う急傾斜化も見込まれます。そのため、こうしたエクスポージャーに魅力を感じています。

[クリス・ハッシー]
 リスナーの方々のために、今回の状況が経済やFRBについて何を示しているのか教えてください。多くの人がリセッションリスクについて話してきましたが、特に7月の雇用統計の後にその懸念が出てきました。今回のデータはリセッションリスクへの懸念を和らげるのでしょうか、それとも逆にリスクを高めるのでしょうか?

[サイモン・ダンゴール]
 現時点ではリセッションについて大きな懸念は抱いていません。我々が受け取っているデータ、特に米国の状況を見る限り、低めではありますが、安定した水準で経済が推移しているように見えます。具体的には、成長率は約2%かそれを少し下回る程度です。今の状況としては、昨年から増えた労働力供給に対して十分な数の新規雇用が生み出されておらず、その結果、失業率が少し上昇しています。
 しかし、これはFRBが厳しい金融政策を続ける必要がなくなったことを意味します。利上げを緩和し、金利をより中立的な水準に戻すことができれば、住宅市場のような金利に敏感な分野も再び活発化し、経済が安定した成長を続けるでしょう。そのため、金利引き下げが比較的速やかに進む余地があると考えています。一方で、非常に弱い成長が続くシナリオについては、あまり心配していません。クレジット市場などを考慮しても、比較的前向きに捉えています。

[クリス・ハッシー]
 ありがとうございます。それでは、次のFRBの動きについてですが、もしFRBもリセッションをあまり懸念していないとしたら、25ベーシスポイントの利下げの方が50ベーシスポイントよりも可能性が高いとお考えですか?

[サイモン・ダンゴール]
 次のFOMCについては、判断が難しいところだと思います。重要なのは、現在の金利水準が非常に高いという点です。FRB自身の見解では、政策金利は中立的な水準を250ベーシスポイントほど上回っていると考えているようです。長期的な中立金利と短期的な中立金利についての議論はありますが、今は確実に厳しい金融環境にあります。
 もし、FRBがFOMCごとに25ベーシスポイントずつしか利下げしないと決めた場合、この厳しい状況から抜け出すにはかなりの時間がかかります。ですので、利下げサイクルのどこかの時点で50ベーシスポイントの利下げが議論に上がるのは間違いないでしょう。ただ、それが9月になるかどうかはまだ不透明です。今日がブラックアウト期間前の最終日ですが、ウィリアムズ総裁の発言では25か50かについて明確なシグナルはありませんでした。今日遅くにウォラー理事からの発言がありますので、そこで何が出てくるかを見守る必要がありそうです。
 9月に50ベーシスポイントの利下げがあるかどうかは分かりませんが、次の数回のFOMCでは50ベーシスポイントの利下げが実施される可能性が十分あると考えています。これは、経済の見通しが非常に悲観的だというわけではなく、単に現在の高金利から中立的な水準に戻すための過程を反映したものです。
 

(訳注)この日の午後、ウォラーFRB理事は、「大幅利下げの可能性にオープンマインド」と言及しています。


[クリス・ハッシー]
 来週にはECBの会合も控えていますが、今回のデータがECBにどのような影響を与えるとお考えですか?また、ECBに関してはどのような見解をお持ちですか?

[サイモン・ダンゴール]
 FRBの動きがECBに影響を与える主な要因は為替レートです。ECBは、FRBとは異なる状況に直面しています。ヨーロッパでは成長がかなり弱く、今日発表された第2四半期のGDP修正も国内成長が特に弱いことを示しています。ECBにとっての課題は、インフレや賃金の伸びが依然として粘り強く続いている点です。ただ、これらは今後数四半期で緩和されると予想しています。
 ECBは今年の残りで比較的ゆっくりしたペースで動く可能性が高いです。来週は25ベーシスポイントの利上げが予想され、10月の会合は見送る可能性が高いです。9月と10月の会合の間隔が短いため、よほど大きな経済的な変化がない限り、10月は動かないでしょう。そして12月に再び利下げが行われると見ています。しかし、今後を見据えると、ECBは市場が織り込んでいる以上に利下げを進めるリスクがあり、その背景には弱い成長見通しと、ヨーロッパ経済が貿易政策に対して比較的敏感である点が関係しています。特に選挙後、貿易政策が問題化する可能性も考えられます。

[クリス・ハッシー]
 では、これらを総括すると、投資家にとってどのような意味をもたらすのでしょうか?どこにチャンスがあり、具体的な投資戦略はいかがでしょうか?

[サイモン・ダンゴール]
 大局的に見ると、各国の中央銀行が利下げに向かう中で、特に9月のFRBの動きが注目されます。インフレの懸念から成長の懸念へとシフトする中、債券やデュレーションの役割がポートフォリオでより明確になってきています。今後もデュレーションをポートフォリオに追加する強い需要が続くと予想されます。
 カーブのどの部分が有望かという点では、2年から5年の期間が最も恩恵を受けやすいと考えています。このセクターは、金融政策の引き締めが加速する中で特に有利であるだけでなく、我々が予想する比較的緩やかな景気減速よりも悪化する場合にも最も良いパフォーマンスを示すでしょう。
 カーブの長期部分については、今後数年間で増加する政府債券の供給によってある程度支えられると見ています。そのため、次のサイクルでは比較的急なイールドカーブが形成される可能性が高いです。したがって、現時点では2年から5年の部分が最も魅力的な投資機会と考えています。

[クリス・ハッシー]
 サイモンさん、今朝はお時間をいただきありがとうございます。感謝します。



(2)オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Goldman Sachs Podcastより
(Original Published date : 2024/09/06 EST)

[出演]
  Goldman Sachs
    サイモン・ダンゴール(Simon Dangoor)
    Head of Fixed Income Macro strategies
    Asset Management Div.

  Goldman Sachs Research
    クリス・ハッシー(Chris Hussey)



以上です。



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だうじょん


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