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誰でも毎日、言葉に出逢う。

冷凍庫に鯛焼きが入っているとなんか安心する。あんこ、いや和菓子全般は心強い私の味方。

夜中にふと目が覚めて、あ、雨の音がする、ってタオルケットにくるまりながら、眠たい頭で気づく瞬間が好き。


6月中旬。本を読むペースがゆっくりになる月間に突入した。大抵私には、がぶがぶ水を飲むように読書に励んでしまう時期と、あっついお茶をちびちび啜るように毎日数ページずつしか読まない時期(今の私ね)が交互に来る。昔からこういう性格なので、慣れたものだけど、ちびちび読み期間は、え、私って本当に読書が趣味なのか、と疑心暗鬼になるくらい読むのが遅い。でも、まぁ、完全に何も読まなくなるわけではないし、読む速さや読書量を気にしても楽しくないから、いっか、というところに毎回落ち着く。

本は数ではない本は数ではない本は数ではない本は数ではない本は数ではない本は数ではない本は数ではない本は数ではない。
何度も唱えつづける必要がある。

青山南「本は眺めたり触ったりが楽しい」

この本、とても面白い。わかるわかると頷きながら、笑ってしまう。積読、拾い読み、本を眺めたり、歩きながら読んだり、バスの最前列の席で本を読んだり…本がまた読みたくなってくる。

私がどんなペースで読書に向き合っていても、新しい言葉の世界は私の目の前でどんどん広がっていく。新しい知識、新しい感情。終わりがない。毎日のようにある新しい出会い。

千早茜「さんかく」のこの一節に出会った時は震えた。伊東くんが元旦のイノダコーヒーで朝食をとっている老夫婦を見て、高村さんに訊ねる場面。

でも、あの二人、幸せそうに見えませんか。ぼくには見えます。最終的に恋愛とか性欲とか関係ないところに落ち着くのなら、どうしてそういうものが必要なんですかね。

千早茜「さんかく」

何度も反芻してしまう。傷ついて、傷つけて、笑って、泣いて。それを通り過ぎないと、落ち着いた関係、平穏な心は得られないのかな。燃え上がる情熱のようなものに突き動かされて進んでいくのが若い、ってことなんでしょうか。はー。こどもだから、わかりませーん。(テレビのジョーン)


情熱と言えば、フランスの作家アニー・エルノー「シンプルな情熱」のこの部分も好き。恋の情熱について淡々と告白、そして分析していく、小説というよりか、日記に近い作品。

Sometimes I wonder if the purpose of my writing is to find out whether other people have done or felt the same things or, if not, for them to consider experiencing such things as normal.

Annie Ernaux "Simple Passion" translated by Tanya Leslie

私がこうやって文章を書いているのは、誰かが共感してくれたらいいというちょっとした願望か希望か期待かが、多分、言葉を紡ぐのが好きだという思いと、同じくらいの大きさで存在しているからだと思う。私の投稿を読んで、なーんだ、こんな風に考えていたのは自分だけじゃなかったのか、と気が楽になってくれたら、私はきっと舞い上がって鼻血が出てしまう。だって、こんな風に考えているのは自分だけなのかも、とうんうん悩みながらも、今、パソコンに向かっているのは、他でもない私なのです。ある意味、文章を書いて発信することで、自分自身の立ち位置を確認しているのかも。

英訳は様々なバージョンが出てるのだけど、Fitzcarraldo Editions版が個人的に一番好き。潔い!

すいぶんほきゅう。


ジュンパ・ラヒリの作品は安定して美しい。うん。長い散歩!海の緑!重たげな満月!文字から感じられるこのぬくもりよ。

とはいえ自殺したくはなかった。世界を、それに人々をあまりにも愛していた。午後遅く、自分を取り巻くものを観察しながら、長い散歩をすることを愛していた。海の緑、黄昏の光、砂の上に散らばる小石を愛していた。秋の赤い梨の香り、曇間で輝く冬の重たげな満月を愛していた。ベッドのぬくもり、一気に読んでしまう良質の本を愛していた。これらを味わうためなら、永遠に生きていてもよかった。

ジュンパ・ラヒリ 中嶋浩郎訳「べつの言葉で」

英訳も素敵なので、載せとこ。

And yet she didn't want to kill herself. She loved the world too much, and people. She loved taking long walks in the late afternoon, and observibg her surroundings. She loved the green of the sea, the light of dusk, the rocks scattered on the sand. She loved the taste of a red pair in autumn, the full, heavy winter moon that shone amid the clouds. She loved the warmth of her bed, a good book to read without being interrupted. To enjoy that, she would have lived forever.

Jhumpa Lahiri "In Other Words"

「べつの言葉で」はラヒリがイタリア語へ宛てたラブレター。ひどく強く愛せるものがあるって素晴らしい。彼女がイタリア語で執筆した作品をちゃんとイタリア語で読めるようになりたいのよね。


みんなが最近出会って忘れられない一節があったら教えて。


先週。蔵前にある「Frobergue」へ。
店内に足を踏み入れた瞬間、
古書の匂いに包まれて、
私はただただ満たされたよ。


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