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読書レビュー 「滑走路」

これも職業病の一種かなぁと思いながら、この手のタイトルは自然と書棚に手がいってしまう。帯のキャッチを読んで衝動買いをした1冊。

3人の人生が代わる代わる出てくるストーリーだ。


1人は中学生の学級委員長。いじめの標的になっていた幼なじみを助けたことで自分がいじめの標的になってしまう。母子家庭に育つ筋の通った少年。


次の1人は厚生労働省で激務をしている25歳。霞が関に「働き方改革」という文字はないのだろうか、と思ってしまう。


最後の1人は30代後半の女性で切り絵作家。夫との関係性や将来への不安を抱きながらも自分の仕事を愛している。


厚生労働省の青年が、仕事の中で手にしたリスト。
NPO団体から提出された非正規雇用が原因で自死したと思われる人々のリスト。その中の自分と同じ25歳の青年に関心を抱くようになったところから、3人のパラレルな人生の点と点が徐々に一直線上に並んでいく。


本は195ページあるのだけど、わたしは64ページあたりで胸がザワっとした。でも確信はない。だから「ザワっ」なのだ。


もしかして、そうなのだろうか?
いや、そんなはずがない。
でもそうだとしたらこれは一体…


そんな気持ちが渦巻きながら結末まで一気に読んでしまった。


そういえばこの本、購入するときに書店でも気になっていたのだが、小説本の隣に「歌集 滑走路」という本も並んでいた。


パラパラめくってみると短歌集だったが小説が読みたくて歌集は購入しなかった。


歌人でもありこの小説の元になった原作者の萩原慎一郎氏は1984年生まれの男性だったが、2017年に自死していた。


彼の半生をネットで調べた。小説「滑走路」と重なった。


小説は確かにフィクションなのだけど、その事実を知ったときに一気にノンフィクションに変わり、そして今でもなんとなく彼の半生に想いを馳せている。


わたしのオットと同じ年に生まれた原作者は、2017年に自死している。
そして今日わたしはこの本と巡り合った。
このことさえも、点と点が線に繋がっている気がした。


誰の心にも滑走路はある。滑走路は探すものじゃない、生まれた時から既にみんなが持っている。その翼でどこにでも飛んでいけるんだ。そう思った。

今度は歌集を読んでみたいなと思った。


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