『単純な脳、複雑な「私」』(池谷裕二)を読んで
脳科学から「心」の構造を覗いてみよう!
意識・無意識、記憶、私とは何か、多彩な題材が扱われています。
驚くほど巧妙な脳のつくりに常識がひっくり返り、その一方で脳のデタラメでお茶目な面も見えてくる!
本書は講演・講義をまとめた一冊です。
脳科学者の著者が母校で講義をしようと提案してから数年。まずは全社講演で反応をみてから、興味のある少人数制の特別講義へ。母校愛に溢れています。
後半は生徒たちといっしょに講義をつくっている印象で、とにかく楽しく読める一冊です。
驚きの脳のシステム
なかばオカルトとされているような出来事も、脳科学からみれば立派な脳のシステムと見えてくる。
よく知られる「つり橋効果」であるとか「女性の第六感」の話だとか。
「勘」って科学で説明できるんですね。
説明のできる「ひらめき」に対し、
説明できないけれど確信のある「直観」
経験を積むことで「直観」は鍛えられることがわかっています。山口周さんはビジネスにおいて「ロジックよりも感情」と言っているけれど、それはごもっとも。
あとびっくりなのが脳のある部分を刺激すると、幽体離脱(体外離脱体験)を引き起こすということ。
自分を外から眺める俯瞰能力が人間には必要で。脳がそういう回路を用意しているんですね。
他にもサブリミナルでやる気が上がるだとか、いくらでもおもしろい話があるのだけど、最後にリカージョン(再帰)についてふれておきたい。
リカージョンが人間たらしめる
脳がどうなるかを考えるときに「脳が脳を考えている」その奇妙な姿勢に気が付きます。
この構造は「入れ子構造」と呼ばれ、英語だとリカージョンと呼ばれる。
脳がリカージョンできることで人は数を数えることができる。(計算は構造的には入れ子)
チンパンジーも一階層くらいのリカージョンは理解できるけれど、ずっとは続けられない。
それはつまり、人間がリカージョンを通じて「無限」を理解できることを意味する。
逆説的に「有限」を理解することができるわけで、著者いわく、それは人間特有の能力だといいます。
命、資源、食料、時間。
有限というメタ認知が人を人たらしめている。
リカージョン自体は言語の文法がまさに入れ子構造を表すように、言語の獲得によってもたらされたのではないかと推測しています。
ちょうどいま読んでいる『「縮み」志向の日本人』では、まさに助詞「の」を多用=入れ子構造を使って「小さく」表現する日本文化の独自性が語られています。
おもしろかった!
というわけで以上です!
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