物語形式の妙!『これからの生き方。 自分はこのままでいいのか? 問い直すときに読む本』(北野唯我)
職場の人間関係に悩む人への処方として、3円のベン図を描いて天才・秀才・凡人のタイプ分けをしてみせた『天才を殺す凡人』の著者・北野唯我さんの一冊。
本書は、ワークよりもライフに焦点が当たっています。そもそも仕事と生き方は、キレイに分けられなくなっている現代。
そこでワークアズライフとしてとらえ、そのうえで「生き方」のヒントを与える。だから、共感を呼ぶのだと思いました。
著者にとって本書は同世代の30代へ贈る応援ソング。一言でいえば、ちがいに気づかせて、では、あなたはどうする?と背中を押してくれる本です。
世の中にはいろんな価値観を持った人がいます。会社とはビジョンがあって、それに共感した人が集まっている組織といえるけれど、それぞれの人を見れば価値観はそりゃあちがう。
でも、いつの間にか視野が狭くなって感性が年を追うごとに鈍くなっていく。
そこで著者は、物語という手法を用いながら大きく3つの要素で本書を構成しています。
・漫画編(モデルケース)
・ワーク編(いろんな価値観ある気づき)
・生き方編(あなたは?と投げかけ)
オリジナリティのあるフレーム
ワーク編のフレームでいえばドナルド・E・スーパーの「14の労働価値」をアレンジして漫画の登場人物たちがどんな価値観を持って働いているのかを明らかにします。自分と照らし合わせて「ここは主人公と似てるなあ」など気づきがあるはず。
次はキャリア戦略として、それぞれの価値観に基づく「知恵」「情愛」「意志」といった項目に紐づくレベルを振り分けます。
そこから意志型・スキル型・チーム型・バランス型といった型を導き、それぞれの働き方へヒントを与えます。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、上記の項目は渋沢栄一に由来するもの。こういったタイプ分けにもオリジナリティを感じるのが著者の特徴です。
物語という方法
著者にとって物語の価値とは、生き方のパターンを認識し、そこから自分の人生への学びに転化させることができるといいます。ちなみに『天才を殺す凡人』は小説仕立て。
物語形式+フレーム分け+言いたいこと。著者が大事にしているスタンスは、その著者らしさといった独自性にちゃんと昇華されている。
余談ですが、巻末付録には本書の漫画に登場した人物への5年後インタビューが収録されています。これまた面白い試み。
ちがいへの気づき=感性
著者は後半、感性を磨く必要性を繰り返し説いています。それはつまり、自分だけでなく客観的に観察し、「ちがい」に気づいていくこと。
やりたいことを実現できる人、キャリアで成功できる人というのは、まず自分のことをよく知っています。
自分自身の強い面と弱い面の両方とたくさん向き合ってきた分だけ、自分が一番心地よい状態、一番得意な戦い方を理解しているものです。
そのためには、いろいろな考えや、話、体験を通じながら、自分との「差分」に気づいていくものです。
主観的に体験したことを、客観的に分析する、この繰り返しです。この繰り返しこそが、感性を磨くものだ、と私は思っています。
感性を磨くことのメリットはさらにいえば、自分の人生に熱中するものを見つける確度を上げること。上手に自分の生き方を問うタイミングをつくっていく必要があるのですね。
タイムリーという点では、ブックディレクターから蒸留家に転身した『ぼくは蒸留家になることにした』の江口宏志さんがパッと頭に浮かびました。
というわけで以上です!