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『幅書店の88冊』(幅允孝)を読んで

『幅書店の88冊 あとは血となれ、肉となれ。』を読みました。

ブックディレクターとして著名な幅允孝さんがオススメする88冊の本。本書は「初めての雑文集」というふれこみ通り、カチッとフォーマットが定められた書評ではありません。

瞬間レビューもあれば、じっくり長いもの、ビジュアルや文章のレイアウトの置き方など、工夫が凝らしてあります。読んでて飽きません。

「はじめに」のところでグッと掴まれました。本の効用とは何か?というお題に対しての幅さんの回答をクリップ。

「救われよう」とか「なにかを得よう」と思って本を手に取る人が多い中、僕が覚えていて欲しいのは、本の遅効性だ。

目を背けたくなるようなタフな現実からなんとか自分が持ち堪えるための耐性を、その抽き出しの中にある小さな経験は授けてくれる気がする。

だから僕は、本を読むと「救われはしないけれど、耐えられるかもしれない」とは言える。まだまだ少ないが、今までの自分の全読書体験を懸けてもいい。

読書体験の記憶は、時間の経過でたちまち数%しか残らない、そんなようなデータを見たことがあります。生きていれば、読んだ本が脳内にクリアな状態で常にキープされるなんてまずない。だから、備忘録で残そうとする。

でも幅さんの言う通り、本の特徴は遅効性。読書経験は、地層のようにじっくり重なってゆくもの。同じ本でも捉え方は人それぞれ。読書経験の多層的な積み上げはまちがいなくその人のオリジナリティ。かんたんにはマネできません。

最後に、岡崎京子の『東京ガールズブラボー』の書評をクリップして終えます。短い文章の中にエッセンスが見事に凝縮されていると思います。

暴力と、セックスと、優しさと、のらねこと、学校の屋上と、裏切りと、ちょっとした下心と、ザマアミロと、自転車置き場と、宝物と、食欲&性欲と、臆病と、セイタカアワダチソウと、無頓着と、スコップと、僕らの短い永遠と、河原のヤブと、妊娠と、団地と、血液と、現実感と、UFOと、嫉妬と、得体の知れないものと、孤独と、死。に関する物語。
僕たちは「短い永遠」をホッチキスでつなぎ続けながら、この1994年に描かれた漫画を読み継いでいる。それは、震災が起こっても、地球に小惑星が衝突してもかわらないと思う。

短い永遠をホッチキスでつなぎ続けながら、っていう表現が好きだなあ。というわけで以上です!

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