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『本へのとびら』(宮崎駿)を読んで

『本へのとびら』を読みました。

あの宮崎駿が岩波文庫から50冊を選び、紹介文とともに推薦していく一冊です。冒頭の写真をみると、すべての紹介文をいちど紙に手書している!とにかく熟考されたようです。

ジブリの原作という意味でももちろん選書されており『思い出のマーニー』、『ゲド戦記』。文学として名作とされる『星の王子様』『三銃士』『トム・ソーヤーの冒険』なども。さすがのラインナップ。

少年文庫なので子供への目線もありますが、やはり大人がもう一度じっくり味わおうというコンセプトかと思います。なので読者対象は幅広く、これは好きな本だなあと。

後半は、宮崎駿のコラムです。なかでも本に対する日本の価値観の話が興味深く感じました。

僕が学生のころ、戦前世代の先輩たちに聞くと、「親に隠れて読んだ」とか、「読む本がないから隣のおじさんから立川文庫を借りてきて片っ端から読んだ」とかそういう話ばかりでした。
大人のほうの考え方が変わったのは、戦争に負けたのが大きなきっかけになったと思います。
本を読むと情操教育になる、価値観を豊かにするためには本を読まなければいけないとごく一般的に言われるようになったのは、まさに戦後だと思います。

これにちかい話をどなたかがしていたのを思い出しました、どなただったかなあ。そういえば色川武大は戦中、雑誌を読んでいたことが原因で学校を退学になりました。その当時は、思想という観点で規制が働いていたかとも思いますが。

明治の頃もその前の頃からも、学問として、楽しみとして字を読む人はいたけれど、ここまで本に囲まれるような生活ではなかったと。そういう意味では戦後の読書キャンペーンは成功なのかもしれません。

モームが「教養はときに自惚れを発生させる」と『サミング・アップ』で言っているように、どこか読書のススメが浸透していくにあたって、ズレていたところもあったのではないかなあと思うこともあります。

千冊の書物を読んだのと、千の畑を耕したのと、どちらが高級かというと、差などない。モームはこう言ってます。その通り。

どこか本や読書体験が過分に高尚なものへとなってしまったといいますか。これは落語や歌舞伎など伝統芸能にもいえることかもしれません。

本書のようにいろんなとびらを開け、風通しをよくすることってたいせつだなあと思う次第です。

というわけで以上です!

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