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『読む力 現代の羅針盤となる150冊』(松岡正剛・佐藤優)を読んで

佐藤優という人物を知りたくて「まずは対談本から」と手に取りました。著者の本といえば、表紙か帯に氏の腕組の姿か顔が載っている(そんなイメージ)。自身のグッと力の入った表情が印象的。

ところがです。本書の帯には氏の笑顔が!対談相手の松岡正剛とのツーショット。照れ笑いにも見えるような、だけど現場の和やかな雰囲気は伝わってきます。

松岡正剛の連塾のゲストや主催のシンポジウムなどを通じて、交流を持ってきたふたり。まったく別の分野でありながらも「異質な者同士」という「共鳴」がありました。

本書は、タイトルにあるように、まあ幅広いです。『中央公論』の創刊130周年を迎えたことを端に発した企画とのこと。編集部から東西の論壇130を振り返って、その読み方を話してくれと。

*新書という紙幅からして多少の外観や見取り図もいる

*ただ、論者や著書を列挙することではつまらない

*読み方に言及するために、自分がいつどう読んだかに言及する

結果としてふたりの読書歴が語られていきます。ちなみに第一章は「子どもの頃に読んだのは」というテーマです。

「ないもの」を探す

話は多岐にわたります。いい意味で脱線してはまた戻りながらの語り。「読み方」としておもしろかったところがココです。

松岡:書評をするにしても、私は一介の読み手であり、研究者のような仕事をしたいと思っていないので、例えば丸山眞男や岡潔の著作でもなんでもいいのですが、ある本を褒めようと思ったときに、この本の中に足りないものはいったい何だろう、丸山眞男の中にないものは何だろうと考える。そこから見なければ、新しい丸山眞男も岡潔も見つからない。そういうふうに仕事をしてきたのです。

褒めるときにあえてその対象に「ないもの」を探してみる。

思想にも「伝えたい相手」が必要

雑誌の不調は読み手の顔が見えていないことに起因するというお話から、佐藤優氏の苦労と打開策がフツーにおもしろかったのでクリップ。

『文藝春秋』で「交渉術」について書く仕事があったのだが、読者像がまったく見えなかったというくだりで。

佐藤:吹っ切れたのは、別の出版社の仕事で、壱岐の島前・島後に行ったときでした。島の公民館のようなところに『文藝春秋』が無造作に置かれていたのです。それを見て、はっとした。「そうか、地方の小中学校の校長先生を思い浮かべればいいんだ」という鮮烈なイメージが、突然降りてきたのです。

ペルソナとか「N1」とかいいますが、具体のイメージを思い浮かべられるかは、何かを届けるうえでやっぱり大切。

佐藤優氏は「内村鑑三が嫌いだ!」と斬ってからそれをなぜだかちゃんと語るし、松岡正剛に「加藤周一をどう思うのか?」とズバッと聞くこともありますし、おもしろく読みました。

「これはついていけない話」ばかりですが好奇心を刺激します。また対論の各章のまとめとして下記のテーマに沿った本の一覧リストが掲示されます。

・日本を見渡す48冊
・海外を見渡す52冊
・「通俗本」50冊

侮れないのが「通俗本」という切り口。「通俗本こそ大切だ!」というくだりは内田樹が「入門書」を大事にするのとちかいものを感じました。最後に全体から「これははやく読もう!」と思った本をメモして終えます※順不同。

*日本人とユダヤ人

*プリンキピア・マテマティカ序論

*生命とは何か―物理的にみた生細胞

*ヘーゲル読解入門―『精神現象学』を読む

*情報とエネルギーの人間科学―言葉と道具

*パサージュ論

*オリエンタリズム

*レイテ戦記

*プロパガンダ戦史

*中空構造日本の深層

*読書のしかた

というわけで以上です!



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