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光文社古典新訳文庫『文学こそ最高の教養である』(駒井稔)は極上の読書案内

「教養としての〜」というワードでAmazon書籍検索をすると、そこそこのヒット数が出てきて、たとえば投資・ワイン・アート・落語・プログラミングなど幅広い。

なかには「ヤクザ」まで存在する(担当編集が知り合いなのですが、そこそこ売れているらしいです)。一般的な了見・価値観に寄せることで新しい化学反応が生まれています。

よくもわるくも教養ブーム

「教養」というタイトル付けがそれなりにブームになっているのは一定の世情を反映しているわけで、知的好奇心をスッと満たしてくれる良著もたしかにある。

「眠れないほど面白い〜」という入門書の共通ラベルしか思っていないけれど、タイトルの言い回しこそ違えど、とうとう「文学」から教養シリーズが登場しました。

本書は「いま、息をしている言葉で。」というキャッチで誕生以降、たしかな存在感のある「光文社古典新訳文庫」編集部が送る、分厚い(光文社)新書です。

光文社古典新訳文庫

共通性のある抽象的なデザインを凝らした表紙、ちょっと大きい文字、丁寧な注釈・解説。井上ひさしの「むずかしいことをやさしく」のようで、キャッチの通りいま読むことに注力した翻訳。

このレーベルは個人としても大好きです。

Twitterの本好きな界隈で話題になっていたのを拝見し、まずは買っておそるおそるページをめくると、そこに温かい世界が現れました。

愛に溢れたトークがベース

06年の創設・十年にわたって編集長を務めた駒井氏(ホスト)×担当翻訳者による、紀伊國屋書店でのトークイベントの内容がベース。

これらを書き起こし、再編集し、国・地域でキュレーションしたもので構成。対談形式なので口語調ですし、ボリュームの割に読みやすい。

光文社古典新訳文庫が扱うのは基本、名作中の名作。そして新たに翻訳を担当するのは言うまでもなくプロフェッショナル。とはいえ、知られている名作はすでに何種類もの翻訳が世に出ています。

だからこそ、なぜいまあらためて光文社古典新訳文庫の新訳として出版する必要があるのか。

翻訳者からすれば「なぜこの作品で新たにチャレンジしたいのか」。

それ相応の理由があるわけです。イベントではこうした翻訳にいたった背景・ストーリーを駒井氏が聞き出します。著名人だと誰が影響を受けているとか、そのあたりもぬかりない。

縦横無尽のトーク

内容は多岐にわたっています。『ソクラテスの弁明』の裁判のやりとりは、耳で聴いても違和感のない翻訳にしたお話だとか、

『すばらしき新世界』を『一九八四年』と比較したうえでのディストピア論だとか、『失われた時を求めて』のマドレーヌの位置づけであるとか。

なぜ『ロビンソン・クルーソー』がイギリスで支持され続けているのかだとか、読み終わりの記憶から断片的に取り出してますが、翻訳者視点のお話はおもしろい。

本書に登場する翻訳者の方って、専業かどうかは置いておいて、文学が好きでプロになっている印象でとても愛があります。

極上の読書案内

『これからの本屋読本』では、本屋のかけ算としてB&Bではおなじみの書店のトークイベント事例が紹介されていました。その回のテーマとなる本はそのときにグッと売れます。

いや、わかるんです。自分が生活者として古典の本を買いつつ、イベントでその背景を頭に入れることで読書体験をより豊かなものにしたいという気持ちは共感できます。

その意味では、過去に駒井氏の古典案内の本は読んだことがあるけれど、本書はライブ感のある、極上の読書案内といえるのではないでしょうか。

『すばらしき新世界』を早く読みたいのと、本シリーズで積読となっている『アンナ・カレーニナ』と『嵐が丘』にそろそろ手を付けたい…。

というわけで以上です!


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