『ドビュッシーはワインを美味にするか?』(ジョン・パウエル)を読んで
ビートルズの「Hello, Goodbye」を聴けば日曜の朝(「ボクらの時代」)を思い出すし、ケイト・ブッシュの「嵐が丘」を聴けば恋の名言を連想(「恋のから騒ぎ」)するし、ペピーノ・ガリアルディの「ガラスの部屋」は=自虐ネタの雰囲気(ヒロシです)。
どうやらこれらは、音楽が感情を生みだすメカニズムでいうところの「評価的条件づけ」と「エピソード記憶」が合わさった影響です。詳しくは本書を。
早川書房といえばミステリーのイメージですが、ダン・アリエリーの行動経済学や脳科学的なアプローチの本もけっこう出している。「音楽が生活者に与える心理」という点で本書もその流れにあるように感じました。
著者はイギリス在住の物理学者兼ミュージシャン。イギリス流のジョークをちょくちょくはさんでいて、おもしろく読めます。
むずかしいことをやさしく伝えようという姿勢が垣間見えます。逆にいうと、音楽理論などにも触れていて高度な内容も出てきます。
まさに行動経済学
わかりやすくまず興味を惹かれるのは邦題でもある「ドビュッシーはワインを美味にするのか?」のテーマ。
結論からいうと、音楽には心理的に美味しく思わせる力があります。
ある実験でワインを順番に試飲してもらい、ワインごとにBGMを変えます。
ドビュッシー「月の光」が流れている時に飲んだワインは「メロウで滑らかな口当たり」と評価。
「ワルキューレの騎行」に変わると「力強くヘヴィーな味」と評された。
もちろん、同じワインです。
「美味しい」とは環境要因が多分に影響するってことがわかる事例ではないでしょうか。
家でひとりさみしく(ひとり好きなら別)高級お肉をつつくよりも、わいわい外で食べるバーベキューの肉が安くても美味しいっていう感覚。まちがっていない。
またこんな実験はどうでしょう。
ドイツワインとフランスワインを同じ場所で販売します。ドイツのクラシック音楽をかけるとドイツワインの売上は2倍に、フランスの場合は売上が5倍に。
おそらくですけど、買った当人からすると無意識で無自覚なんですよね。ここが恐ろしくもある。
ちょっと前の『水曜日のダウンタウン』でこんな説がありました。「打ち合わせ中、隣の部屋からカレーの匂いを送り続けたら、その後全員カレー食う説」。
芸人さんたちはまんまとカレーを食べるわけですが、スタッフに「なんでカレー食べたんですか?」と聞かれるとポカンとする。だって、私がカレーを食べたいと思ったのは私の意思なんだから!
BGMのチカラ
映画音楽は大変な仕事です。そのシーンに合った音楽(場合によってはオーケストラ)を極めて短い期間でつくらなければなりません。目立ち過ぎてもダメ。かといって、個性がまったくないと大きな評価は得られない。
それとは別におもしろかったのがじつは人は「画と音がマッチするように脳が処理している」って話。試しに映画の音を消して、適当に音楽を選んでかけてみて、といいます。
これ、実際にやってみました。本当に、だんだんと画と音がシンクロしてくるんですね。いや「シンクロするように見よう」としている感覚。脳はシンクロによって労力をおさえているのだとか。
他にも音楽の才能は先天的ではなくて「練習している時間」がその正体であるだとか。
モーツァルトの音楽で頭がよくなっているのではなく「前向きな明るい音楽には勉強をはかどらせる効能がある」ただそれだけだとか。
知的好奇心をくすぐる一冊です。
というわけで以上です!
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