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誰でも挑戦できる場づくりで「起業家的な生き方」のサポートを。 | LAC遠野・多田陽香さんインタビュー

月額2.5万円で日本各地の拠点を利用できる住み放題サービスのLivingAnywhere Commons(以下LAC)。新しい拠点も次々にオープンしており、今注目が高まっています。

その魅力は、安くいろんな場所に泊まれることだけではありません。各拠点では、地域の特色を活かしたプロジェクトが行われており、地域の人や拠点を訪れた人との様々な交流が生まれています。

今回は、拠点をキャンパスに見立て、多種多様な講座やワークショップを開講するなどの新しい取り組みを行っている、岩手県のLAC遠野拠点に行ってきました。

LAC遠野には、宿泊スペースを兼ね揃えた次世代公民館(コミュニティスペース)「小上がりと裏庭と道具U」、コワーキングスペースとしても利用できるカフェ「Commons Space」の2施設があります。

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▲左が「小上がりと裏庭と道具U」、右が「Commons Space」

「地元で何か面白いことが起きている!」と東京からUターンした多田さん

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LAC遠野の拠点を運営するNext Commons Lab遠野(以下NCL遠野)のチーフコーディネーター多田陽香(ただはるか)さんにお話を伺いました。

――さっそくですが、多田さんは遠野出身なんですよね?

はい、遠野で育ち、高校までは遠野に住んでいました。大学で横浜に進学し、その後は東京のITベンダーの会社でシステムエンジニアとして働いていました。

「日本の既存の社会の中では、それなりに大きい会社に入り、ちゃんと稼ぐことが成功、幸せの道なのかな」と当時は思っていて、2000人ぐらい従業員がいる会社に入ったんです。刺激的だし、責任感もあって楽しかったのですが、残業が多く家族との時間がとれない人がいたり、オンラインでできる仕事なのに働き方を変えようと動く人がいなかったり…あまり周りに目指したい人がいませんでした。丸4年ぐらい働きましたが、会社に残念だと思うことが溜まっていました。

一方で、自分の住んでいた遠野が年々廃れていく危機感も感じていて。そういうモヤモヤした気持ちがあったときに、最近遠野が盛り上がってきているらしい!という情報をキャッチしました。

――そのとき、遠野では何が起こっていたのでしょうか?

いま全国に11拠点あるNext Commons Labが最初に事業をスタートさせたのが遠野でした。都市部でスキルや経験を磨いてきた20~50代の人たちが10人前後遠野に移住してきて、それぞれがプロジェクトを持って遠野で事業をつくる、というローカルベンチャー事業をやっていました。その取り組みが注目されメディアにも取り上げられていたので、都内にいても情報が入ってきたんだと思います。

自分の周りにいたら積極的に接したいはずの人たちが、なぜか自分の地元にいる。自分自身は何もないと思っているところに面白そうな人たちが集まって、何が起きているんだろう?と、遠野に気持ちが向くようになりました。

それに、ITの会社にいて仕事はオンラインでできることだったので、ワークスタイルももっと新しくできるんじゃないかと思っていたんです。どこでも出来る仕事なのに、9時に出社して定時に終わる、というルールに違和感を感じていました。時代は変わってきているのに、自分のいるところは追いついていない現実を変えたいとも思いました。

今戻ったら地元でも面白いかもしれない!そう思ってからは早かったですね。「地元だからこそ、自分が貢献できることもあるだろう」と考え、2018年8月に遠野に戻りました。

挑戦の場づくり『つくる大学』

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――現在取り組んでいることを教えてください。

NCL遠野の拠点をキャンパスとして進行しているプロジェクトが『つくる大学』です。つくる大学は、いわゆる市民大学のように、偉い人を呼んできて講演をするわけではありません。主に地域で活動している面白い人たちを講師として、講座やワークショップを開催しています。2019年の7月にスタートし、今年5月にリニューアルしてさらにバージョンアップしました。

NCLは、既存の経済のシステムに依存するのではなく、同じ価値観や共感で集まった人たちが相互扶助しながら生きていけるコミュニティをつくることを目指しています。

その最初のフェーズが「つくる人を育てる」ことで、立ち上げ当初から、新しく来た人が地域に入りやすいようにサポートしたり、新規事業を形にするための支援をしたりしていました。ですが、「市外から移住してくる人へのサポートに限らず、地域の人にも挑戦の場作りができないか」ということで始めたのが、つくる大学です。

「たいしたことない」と言うけれど、実はすごい技術や知恵を持っている人が地域にはたくさんいます。そういう人たちに表舞台に立ってほしい、やっていることに誇りを持ってほしい。そんな想いでこのプロジェクトをスタートさせました。つくる大学を通して、住民と外の人、地方と都市部など、いろいろなマッチングをして、新しい関係性が生まれたらいいなと思っています。

――これまで講師をされた方にはどんな方がいらっしゃいますか?

何度もお呼びしているのは、養蜂と猟師をされている30代の男性です。猟師は担い手が減少し、年齢層も上がってきていますが、若手として活躍されています。家にお邪魔すると、熊の皮が普通に置いてあったり、熊肉や鹿肉を出してくれたりするんですよ(笑)。

その方が、熊脂をつくっているんです。熊脂は人肌に温度が近くて染み込みやすく、昔は火傷の薬として使われていたそうです。その熊脂をつくるワークショップを「小上がりと裏庭と道具U」で開催しました。

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他には、移住してきて、フリーランスで山仕事や農作業を手伝いながら職人の技術を継いでいる女性をお呼びしたことがあります。その方は、木を削ってスプーンやナイフなどをつくるのがとても上手なんです。本当にびっくりするぐらいクオリティが高いんですよ!それで「ぜひ講座にしませんか?」とお声がけさせてもらいました。

当日の「手づくりする木の雑貨」講座では、大人たちが黙々と木を削って思い思いの作品をつくっていました。何でも買ってただ消費するんじゃなくて、手を動かして自分でつくることができるというのを楽しく発見する講座だったと思います。

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――普段は表舞台に立つことがなくても、地域には面白い技術を持った方がたくさんいらっしゃいますね。自ら「講師をしてみたい!」とチャレンジされた方はいますか?

今は基本的にこちらからお願いすることが多いですが、最近自ら企画を提案してきてくれた子がいました。ふだんからコミュニティスペースを使いに来ている中学生の男の子なんですが、その子の提案で「大人の自由研究会」という企画が立ち上がったんです。

この企画は、「学校で教わることだけじゃなくて、素朴な疑問を調べてみたい!大人もそうなんじゃない?」というところから生まれ、彼と地域の大人たちが集まって、自分たちで決めたテーマに沿って研究する、というサークル活動になりました。前回は商店街の人にインタビューしたりして、疑問を解決したようです。

こんな風に、自分からやってみたいと言ってくれる人が今後も増えたら嬉しいです。そんな風土をつくっていきたいと思います。

――本当にユニークな講座ばかりですね!県外からは参加できませんか?

オンラインで入れる企画がほとんどなので、県外からも参加可能ですよ!今は月に5~6本の講座を開講しています。これまでは単発講座が多かったので、シリーズものもしたいと考えているところです。興味がある方はぜひご参加ください!

▼つくる大学の詳細は、こちらをチェック

「学び合いの文化」を受け継ぐ『クリエイター・イン・レジデンス』

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――つくる大学では他にどんな取り組みがありますか?

つくる大学の一環で、今年の7月から、『クリエイター・イン・レジデンス』の受け入れを開始しました。全国各地から集まったクリエイターに、LAC遠野に滞在しながら、つくる大学で講座を開催、もしくはキャンパスに作品を展示していただくというものです。

まずモニター的に募集して7人の受け入れが決まりました。ほとんどの方が都内で活動されている方で、メディアアーティスト、フォトグラファー、インスタレーションで表現するアーティスト、雅楽奏者など多様なクリエイターの方にご応募いただきました。

――この企画は、都市部から来た人が講師になり、地元の方が参加者になるわけですね!

はい、そういうことです。

昔、遠野が城下町として栄えていた頃にも、同じように外から来た人と地域の人が共に学び合う仕組みを持った宿がありました。「文武修行宿」と呼ばれる宿で、絵師や文人など技術を持った人たちが宿代を払う代わりに、地域の人に技や知識を教えていたようです。そういうスキルを共有したり、学び合ったりする文化を、今の遠野でもつくっていきたいと考えています。

LACの会員で遠野に来てくださる方も、つくる大学に参加者として参加したり、講師として今持っている特技を試してみたりしてほしいと思います。

遠野出身の多田さんが思う遠野の魅力

――ずばり、遠野の魅力とはなんでしょうか?

正直リゾート地みたいな魅力はありません(笑)。LAC遠野の拠点があるのも街中ですし。でも、この土地に“入り込む”みたいな面白さがあると思っています。

遠野を歩くと「遠野物語」にまつわるいろんなお話があって、それを辿ることで、行く予定のなかった場所にたどり着いたり、パワフルな人に出会えたり。飲み屋街に行くと一気にコミュニティが広がります(笑)。

遠野は人を受け入れる素地がある気がしているので、与えられるのではなくて、自分から探っていく楽しさ、入り込んでいく面白さを体感してもらいたいです。

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▲夜のBARに集まるパワフルな人たちと撮ってもらった写真。フォトグラファー、デザイナー、ライター、スナックのママなど、ユニークな方ばかりです。

それから、地元愛が強くて、「もっとこうなってほしい」という熱い想いを持って行動している人がたくさん思い浮かびます。それって凄いことだと思います。遠野に戻ってくるまでは、若い人で地域のビジネスをつくっている人なんて一人も知らなくて、「遠野はもうだめだ」と思うこともありました。でも実際は面白い人たちがたくさんいて、一緒にいろんな知見を共有しながら仕事をつくることができる。これも魅力の一つだと思います。

LAC遠野拠点で目指す、関係人口づくりと「起業家的な生き方」のサポート

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――今後の構想はありますか?

地域に継続して関わっていくハードルを下げるようなもっとライトな関係人口づくりを実現したいと思っています。LAC遠野拠点が都市部の人と地域の人との中間地点になって、ここにしかないものに出会えるとか、新しい取り組みに自分もちょっと参加できちゃうとか。そういうハブ拠点になっていけばいいなと思います。

また、私たちが目指しているのは移住者だけによらない「起業家的な生き方」の実現をサポートすることです。起業家的な生き方というのは、自分で自分の未来をつくる意欲をもって、失敗を恐れず行動する生き方です。決して会社を設立してほしいということではありません。そういう生き方ができる人を増やしたくて、つくる大学をはじめとした様々なプロジェクトを走らせ続けています。

生き方を自由に選択し、挑戦し続けられる場所

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遠野に滞在した1週間、予定していなかった面白い人や場所に出会えることが多かったように思います。まさに“入り込む面白さ”がありました。出会った人がまた新しい人に出会わせてくれて、気づけば毎晩違う方と食事をしていました(笑)。

多田さんのお話や様々な方との交流を通して、生き方は自分の意志で自由に選択できるもので、私自身、型にはまらず新しい生き方を模索していこうと思えました。遠野には、挑戦する場が用意されていて、それを共有したり、共に創ったりしてくれる人たちもいます。

旅人でもフリーランスでもアドレスホッパーでも、新しいことに出会いたい!自分のスキルを試したい!一緒に挑戦してくれる仲間がほしい!という皆さん、ぜひLAC遠野を訪れてみてください。

《ライター・知恵里(ちぇりー)

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