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カメラマン稲垣純也に撮影オファーが殺到する理由 #羅針盤のつくりかた

カメラマン 稲垣純也さん。

編集者や企業からの指名が絶えず、雑誌・WEB問わずに1日に複数本の撮影を行なっています。学生時代は自主映画製作に没頭していたため、「カメラを持ったのは働き始めてから」。約6万人はいると言われているカメラマンの中、なぜ彼の元には仕事が絶えず舞い込んでくるのでしょうか。

カメラマンを目指した経緯、そして支持されるカメラマンであり続けるための理由について伺っていきます。

#羅針盤のつくりかた ー このシリーズは、LA BOUSSOLEと共にお仕事をしてくださるクライアントさんやクリエイターのご紹介を、記事にしてお届けしています。
< profile >
稲垣純也(いながき・じゅんや)
1970年愛知県生まれ、東京在住。雑誌やWebを中心に活躍するカメラマン。篠山紀信氏に師事し、2002年に独立。人物写真を得意とし、アイドルからビジネスマンまで被写体は多岐に渡る。「光の中の影、影の中の光に心を奪われる。」趣味は読書と映画と音楽。 

誰がために、写真を撮るのか

ーー稲垣さん、本日は取材をお受けいただきありがとうございます。よろしくお願いします!

稲垣さん(以下:稲垣):僕、5000回ぐらいこういうインタビューにカメラマンとして立ち会っているんですけど、出る側って緊張しますねー。

ーー今日も撮影をされてこられたんですよね。1日何本くらい撮影されているんですか?

稲垣:ありがたいことに、1日2〜3本の撮影をさせていただいています。今日も帰ってから写真のセレクトです(笑)。

ーーフリーのカメラマンで、どうしたらそんなに引っ張りだこになれるんでしょうか?

稲垣:どうしてでしょうね…僕としたら一生懸命仕事をしているだけなんですけど…カメラマンとして独立して最初の仕事は雑誌が多かったので、その時の編集者の方からいただくお仕事や、その繋がりで知り合った編集者の方からの依頼などが続いている感じでしょうか。最近ではTwitterからの仕事依頼も増えていますね。

ーーリピートが多いんですね。ラブソルも稲垣さんとお仕事をご一緒していて、「これは稲垣さんにお願いしたい!」とお願いする機会が多いので、依頼される皆さんの気持ちはわかるような気がします。

稲垣:そう言っていただけると嬉しいです。一つ心がけていることといえば、「相手が何を喜ぶか」を常に考え続けていることかなぁ。サプライズに近いですよね。

例えば雑誌の編集者さんだったら「いい写真」を「早く欲しい」。想定しているスケジュールよりも早く僕が写真を送れば、編集者さんは助かるじゃないですか。そう思うから、出来るだけ早くセレクトして送る。そういう良い意味での驚きは、意識してきたかもしれないですね。

ーーなるほど…。確かに、そのあとに作業する人含め、みんながとても喜びますよね。

稲垣:こんな風に言ってしまっては聞こえが悪いかもしれませんが、僕が写真を撮ることで喜んで欲しいのは一緒に作る編集者さんやライターさんなんです。「その人たちが喜んでくれるものを撮る」ことが僕が大事にしていることで、読者のことはあまり考えていないかもしれない。

今仕事をご一緒させていただいている方々は本当に素晴らしい方ばかりだし、僕は大好きだから喜んでもらいたい。その気持ちが届いているから、またお仕事をご一緒できるのかもしれないですね。


写真の撮り方は、背中から学んだ

ーー稲垣さんは篠山紀信さんに師事していらっしゃいましたが、どのようなことを学んだんですか?

稲垣:教えてもらったというよりは、背中を見て学んだという方が正しいと思います。アシスタントをしていた4年11ヶ月の間、雑用から始めてフィルムの交換をできるようになり、1stアシスタントになった頃には先生がシャッターを押す以外のことを全て任されるようになりました。先生がどんな光を求めていて、この現場にきたら何を言うだろうかと想像力を働かせながら、同時に自分の腕も鍛えられている感覚でしたね。

仕事が終わったあとは先生の写真を見るために残業をして、実際に世には出なかった「セレクト外」と呼ばれるものまで、何十万枚という写真たちに夢中になる毎日。あの頃はフィルムでしたから、倉庫にこもってビューアーと呼ばれる下から光を当てた大きなテーブルの上にフィルムをのせて、ルーペを覗き込みながら一枚一枚。帰るのが遅くて奥さんには申し訳なかったけど、ものすごく幸せな時間だったなと思います。

ーー何十万枚ですか…誰もが見られるものではないですものね。すごく贅沢な経験だったんですね。

稲垣:歴代のアシスタントの中で、僕ほど先生の写真を見た人はいないと思います。それがこう活きているという言語化は難しいのですが、あの時とにかく見続けたことが今の僕が撮る写真に影響しているなと思うことは多いんです。

ーーそれだけ尊敬していた篠山先生のもとを離れるのは、寂しかったのではないですか?

稲垣:寂しいですよ。ものすごく寂しかった。撮影も毎回楽しかったし、もっともっと先生の写真を見ていたかった。独り立ちした最初の仕事なんて緊張しすぎて2時間も前に現場入りして、震えながら始まるのを待ちましたもん。
怖かったな、カメラマンなんて目指さなければよかったと思いました(笑)。

ーー独り立ちするにあたって、師匠からの言葉はあったのでしょうか?

稲垣:それがね、作品を持って先生の所に行ったら開口一番「写真は普通だな」って言われたんですよ! 「でもお前は人柄がすごくいいから、それを大切にしなさい」と。驚いたけど、「あぁなるほどなぁ」と思って、それから僕は自分のこの性格を活かしていこうと決めました。あとはね、ずっと覚えている言葉があります。僕が「どうしたらカメラマンとして成功しますか?」と尋ねた時の言葉。

「たくさん撮れ。それだけです。」

僕はあの日から、ずっとこの言葉を胸において今まで走り続けてきたような気がします。

移りかわる時代を、しなやかに生きる方法

ーー稲垣さんのように、師匠の元で雑用から学ぶカメラマンというのは少なくなっているのではないでしょうか? 業界の移り変わりを見て、寂しくなることはないですか?

稲垣:確かに、SNSの普及によって誰でもカメラマンになるチャンスは増えたし、師匠のもとでアシスタントから修行して…というスタイルは少なくなってきたかもしれません。でも僕ね、それを寂しいと思わないんですよ。

全ては流れだと思っているので、何かがなくなってもまぁいいかなーって思っていて。時には僕と別れてしまう仕事仲間もいるかもしれないけど、しょうがないなって。流れるものは止めないし、流れていくならそれを知りたい。

ーーTwitterでの発信も積極的に行なっていらっしゃいますもんね。写真をあげている方たちとの交流もよく見かけます!

稲垣:最初は「Twitterを頑張ろうかな」と思い立って、フォロワーを増やすため、僕を知ってもらうために始めたんです。でも人の写真について語ると勉強もできて、かつその人と友達になれるので写真仲間が沢山できてすごく楽しいんですよね! プロがアマチュアを相手にするなと怒られることもありますけど、楽しいから続けているんです。プロとかアマチュアとか関係なくて、自分が好きだと思えば好きなんですから。もちろん、その写真の中でも「これが本質だ」って思えるものを選んでいますよ!

ーー本質…。稲垣さんにとっての写真の本質というのはどのようなものなのでしょうか?

稲垣:綺麗な写真とかじゃないんですよ。作り込んだりすごくよく撮れているとかそういうものではなくて、嘘のない写真。僕の中では、フィルターがかかっていたり、女の子の目が大きくなったりというのは違うかなぁ。

ーー稲垣さんの写真は写真と実物を見比べた時に、ギャップはないんだけどその中でも一番綺麗な瞬間を切り取ってくれるというか。ラブソルがプロフィール写真を撮っていただいた時にも、あまりにさって撮るからこちらは笑った覚えもないくらいで。

稲垣:瞬間で撮れば、撮れるんですよ。テストを重ねてさぁ撮りますって、引きつっちゃうでしょう。篠山先生の言葉である「風のようにきて、風のように去る」、そのまんまなんです。

ーーなるほど、「まさに!」な言葉ですね。仕事をする時の稲垣さんなりのルールは、他にもあるんですか?

稲垣:うーん、「仕事は断らない」「ギャラの交渉はしない」「現場では怒らない」ということでしょうか。僕、スケジュールが空いていれば仕事の内容も聞かずに受けてしまうので、当日撮影現場に行って見たら雑誌の表紙だった! みたいなこともありますよ(笑)。

ーーあえて事前情報を入れないということですか?

稲垣:全く入れないという訳ではないですけど、持っていたイメージと僕が撮ったものでイメージが違うことが多いんですよね。やっぱり会ってみて、撮ってみないとわからないですから。

ーー自分の目で見て撮ったものを信じるという感覚でしょうか。「ギャラの交渉はしない」、「現場では怒らない」というのは?

稲垣:来る仕事は全部それが僕の評価だと思っているので、ギャラの交渉はしません。あとは、カメラマンってプライドが高い人が多いので撮影中でも怒っちゃう人が多いんですよね。「俺の作品にどうして口出しするんだ!」って。そういうことは言わないように決めています。

ーーなぜそこまで出来るんでしょうか?

稲垣:篠山先生がそうだったからです。仕事は全部受ける。はっきり言って超危険な仕事のご依頼だとしても絶対に受ける。世間的にはNGだと言われたとしても、その本質を見つめて、撮りきる。時には相手が怯んでしまうほどです。でもやっぱり、そこまでして撮った写真には心を奪われてしまいますから。

ーーそれはすごいですね…。稲垣さん自身が、撮影をしていて楽しい!と思うのは、どんな瞬間なのでしょう?

稲垣:その人の心が動く瞬間を撮ることでしょうか。すごく言葉にしづらいのですが、心の池に波紋がハラハラって広がる瞬間、瞳の奥の方が揺れる時。恋している女性のような、虹彩が開いていく瞬間。それを捉えられると、写真を撮っていてよかったなと幸せな気分になります。

ーーその一枚が、稲垣さんにとっての本質なんですね…。

稲垣:いい写真とは、母親が子供のふとした瞬間を撮ったものだと言われているんです。それって技術やテクニックではなく、相手を思っているかどうかなんですよね。この愛情に勝るものってない。 才能よりも肩書きよりも、好きだと思う気持ち、情熱だと思うんです。

僕ね、男性女性関係なく撮っている相手のことを、大好きになっちゃうんですよ(照)。

ーー稲垣さんの撮影を見ていると、相手への愛情をすごく感じます! もし今かつての自分と同じように「どうしたらカメラマンとして成功しますか?」と質問を受けたら、なんと答えますか?

稲垣:そうですね…自分に正直に、自分がいいと思う写真を大事にしたらいいと思うんですよね。「直感を信じろ」ということでしょうか。直感ってね、正しいんですよ。

ーー直感、ですか?

稲垣:勘とは少し違うんですけど…。仕事中は撮影でも写真のセレクトでも、瞬間で「良い・違う」の判断を繰り返していくんです。でもその時に信じられるのはやっぱり自分の感覚ですよね。

ーー直感と言っても当てずっぽうではなくて、これまで培ってきたものがあるから判断できるんですよね。

稲垣:あの時膨大に見た写真や、背中を追い続けた日々は、繋がっているんです。自分の中の「好き・嫌い」くらいは、自分の目で見たものを信じてもいい。

あとはそうですね、「とにかく撮り続けろ。」

その一言に尽きると思います。


ーーー

「直感を信じる」この言葉の裏で「今までの自分を信じていいんだよ」と聞こえたようで、取材中にも関わらず涙が出てしまいました。

いつでもニコニコと柔らかく、心に深い愛情を持った人。なぜ彼の仕事が絶えないのかと問われれば、「愛と情熱が並大抵ではないから」そんな答えに行き着くのではないでしょうか。


インタビュー前のサムネイルの撮影中、キョロキョロと周りを見渡しては「ここで撮ろう! 次はここ!」ととっても楽しそうな稲垣さん。光も角度も瞬時に判断するプロ力は、何十万枚と見続けた情熱の賜物なんですねぇ…。


< portfolio >

提供:グラン山貴 
モデル:山中シェリー
ラブソルのアライアンスメンバー、児島大さんがディレクションを務めるレディースアパレルブランド、RESPEC , Nerińe , anni plus , 3つのブランド全ての撮影を担当している。オンラインストアはこちら

提供:株式会社CINC MaketingNative
こちらの写真が使用された記事はこちら→『マーケターこそ知ってほしい!「バズを生む男」箕輪厚介が語る「熱狂的なムーブメント」の起こし方』
柴山が秘書を務める箕輪厚介さんの記事。稲垣さんから柴山を通してのオファーがあり、実現した。

モデル:司 @m21thukasa
稲垣さんの作品撮りの一枚。フィルターをかけずも自然で美しく、目の前に存在しているようなリアルな姿。“盛りすぎていない”自然な美しさを引き出している。


取材・執筆:柴山由香  ,  柴田佐世子
撮影:池田実加



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