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2月、冬の光、花の旋律

朝、息を吸って吐くと白い痕が風になってすうっと消えていく。目を閉じると銀世界にいるような静けさと、外の通りを行き交う車や人々の喧騒が混ざり合って、また、1日が始まっていく、と感じさせる。

目を閉じると、飛行機で十数時間かけて行った、天空の城のようなあの月世界で感じた広さを感じる。行ったら、きっと帰っては来れないような、肌に触れゆく風の柔らかさが瞼の裏をすり抜けていく。

目を開けると、黄金色の光がわたしを照らしている。眩しすぎて、眩しすぎて、わたしには、もったいないと思う。空の中で一面の麦畑が風にそよいで揺られているよう。この、もったいないと思うような光の愛しさを、ひとつひとつ花束にして遠くの誰かに渡したい。そんな気持ち。

なんてあたたかくて、鼻にツンとくる静けさだろう、とベランダの柵に肘をついて、どこに焦点を当てるでもなくずっと眺めている、どこか、遠くを。

桃色、黄色、水色、さまざまな色の光と花々がだんだんと咲いてきそうなこの日々の中で、まだ置いて行かれているわたしの身体が、心が、一体になってふわりふわりと寂しげに広がる地面の上を飛んでいくのを、わたしは眠ってしまったほんと数分間でずっとずっと夢見ている。

ボタンをうまくかけられなくて着るのに手間取るけれど一つかけ始められたら、その後もするりとかけられて、やっと、わたしは日常の断片を拾えるようになる。

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眠れない夜に

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