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まわるメリーゴーラウンド

毎年ゴールデンウィークの時期は実家に帰省している。
今回は子供と二人、初めての新幹線での帰省に挑戦してみた。
キャリーバッグと、ベビーカーと大きなバッグと小さなバッグが一つずつ。
子供を抱っこし、仕事用のノートPC一式を詰め込んだ重たいリュックを背負う。
うん、無理!
私は吉田沙保里じゃないんでね。

どう考えてもキャリーバッグとベビーカーは共存しちゃいけない。
我が子は今年5歳になる。
普通の子供なら自分の足でずんずん歩いてくれるだろうが、我が子はダウン症をもって生まれてきたボーイなもんで。

福太郎もずいぶん長い距離を歩けるようになったものの、その日その時の気分によっては一歩たりとも歩くもんか!となってしまう。
そうなったらテコでも歩かぬもんで、今回の旅は抱っこ移動を前提としていた。

到着駅でごく短い停車時間内に子供と大荷物を無事降ろせるか…
念のため到着ホーム、私の乗っている車両の出入り口付近には両親にスタンバイしてもらっていたが、この世には優しい人がいるものだ。
新幹線車内で息子を抱っこしたままベビーカーを降ろす準備をしていたところ、素敵な初老のおじさまが「お手伝いしましょう」と、重たいベビーカーを抱えて下さったのだ。

壊れたおもちゃのようにペコペコと頭を下げる私に、目じりを細めて「私の孫もちょうど同じ歳くらいでねぇ」と言うおじさまの表情はどこまでも柔らかで、普段から孫を溺愛している様子が滲んでいた。

困っている時にタイミングよく救いの手が差し出される時、なんだか神の采配のような神聖なものを感じてしまう。
私も誰かにすっと躊躇いなく手を差し出せる生き方をしたいと思った。

さて、息子は基本的には気分さえ乗っていれば自分の足で立派に歩けるのにわざわざ重たいベビーカーを運んできたのには訳がある。

帰省中に私の両親が、福太郎を動物園に連れて行きたいと熱く所望したからだ。
調べたところベビーカー貸し出しの対象年齢は7ヶ月~24ヶ月ということで、立派な4歳児の息子は対象外だった。

そんなわけで今年のGW最大のビックイベント、動物園へ行ってきた。
とてつもない内弁慶、加えて人一倍慎重派の福太郎は慣れない環境に終始固い表情ではあったものの、私と両親は念願の動物園に揃ってテンションがうなぎのぼりの浮かれポンチ状態となった。

孫を全ての遊具に乗せてやろうと財布のひもがガバガバになる父。
小さなメリーゴーラウンドに福太郎を乗せ、落ちないように傍で支える私。
ノスタルジックな音楽とともにゆったり回りだすメリーゴーラウンド。

父と母の前を通り過ぎるたびに私は手を振る。
くるくると両親の前を通るたびに年月が巻き戻る。
小さかったあの頃、私と妹が同じようにこの場所で両親に向かって手を振っていた。
母は満面の笑みで手を振り返し、父はカメラを構えていた。
今と全く同じように。

ノスタルジー

動物園で一組の家族に声をかけられた。
70代くらいの品のいいご夫婦と、40代だという娘さん。
娘さんは福太郎と同じダウン症の先輩だという。
マスクを付けていたため、そういわれるまで気づかなかった。

まれに息子と歩いていると、同じダウン症の子供を持った方に声をかけられることがある。
そのご夫婦は3人子供がいるけど、ダウン症を持ったこの娘が一番親孝行だと笑って話されていた。

今日の思い出に、お土産売り場で動物柄の子供用カップとスプーンを購入して帰路につく。

楽しいGW。
「きついことがあったらいつでもママたちが迎えに来てあげるからね。」
母の言葉が沁みる。
負けず嫌いな私は両親の前で、本当にきつい時こそ何も言わず平気なふりをする。
それを知ってか知らずか母はいつも最適のタイミングで一番欲しかった言葉をくれる。
神の采配。

「いつでも迎えに来てあげる」の言葉だけでこれからも踏ん張れる気がする。

何歳になっても私は父と母の子供なのだという真実ひとつを大切に抱えて日常に戻る。

まだ心があたたかい。


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