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田辺さんはマウントをとりたい

おはようございます。
仕事は忙しいし、世の中では信じられないようなことが起きるしでなかなか落ち着いて記事を書く気持ちになれずでした。

が、相変わらず私は元気です!


さて、タイトルが安いラノベみたいになってしまったが、そして実際に田辺さんはバリバリのマウントをとるのだが、今日はマウント体験について書いてみたいと思う。

「マウント」という言葉を聞くようになったのって割と最近な気がする。
少なくとも私が高校生の頃にはまだなかった。
しかし、当時私はこの目でこれ以上ないほどの明確なマウントの現場を目撃していた。

度々記事に登場している私の親友Kには子供のころからのコンプレックスがあった。
てんぱ、つまり天然パーマである。
それもかなり強めで、腕白、強情なタイプのてんぱの持ち主だった。

Kは度々高校を卒業したらその足でストパーをかけにいくのだと半ば夢を見るような目で語っていた。
そして常々私の直毛の髪を見て羨ましい羨ましいと言っていた。
まあ、私はKの抜けるように白い肌がめちゃくちゃに羨ましかったのだが、お互い無いものねだりであったのだろう。

あれは冬の日のことだった。

放課後、クラスメイトの田辺さん(仮名)が、帰る支度をしていた私とKの元に近づいてきて、唐突に盛大なため息をついた。
「もうさ~、私の髪の毛直毛すぎてほんと困るんだよねー!」
突然何を言い出すんだ田辺!
田辺さんもKがてんぱに悩んでいることは重々承知していたはずだ。

私は内心困ったことになったぞと思い、ちらりとKの様子を窺った。
Kはこの時点ではにこやかにしとやかにほほ笑んで大人の対応であった。

Kの代わりに私が慎重に口を開く。
「なんで?私は困ったこと別にないけど」

先に述べているが私も直毛の髪を持って生まれた民の一人である。
正直に言って直毛だからといって困るようなことは、高校生時点ではほとんどない。
あったとしてもどうせ取るに足らない些末なことだ。
そんな些末なことを仰々しく、本気でてんぱで悩むKの前で話すでない!

そんな思いを込めて田辺さんにじっと念をおくる私。
田辺さんは直毛で困ると称す自身の髪を指にくるくると巻き付けながら「だってさ~」と続ける。
「だってさ~、私の髪直毛すぎて髪の毛結んでもゴムが落ちてくるんだよ!?」
笑止!
落ちにくいゴムは山ほど存在する。探せ。

「それにさ~、可愛いピンを見つけても髪に付けるとするする~って落ちてきちゃうんだよ?」
贅沢!私は唸った。

おい!Kはな、可愛いピンで髪を飾る余裕なんてねーんだぞ!?
無骨な黒のアメピン山ほどさして髪のボリューム必死で抑えているんだ。

そもそも髪をピンで飾る発想自体Kは持ちあわせていないのだ。

とにかく髪の毛の存在感を消したいKにとって、自分の頭部および毛髪に注目を集める行為は絶対的な禁忌であった。

髪を飾る気持ちの余裕がある人間がKの前で軽々しくため息をつくでない!

そっとKの様子を窺うと、口元は微笑みの形で固まっていたが、目が死んでいる。
これ以上聞いちゃいられねえ!
田辺さんに速やかにご退出を願わねば。
私が頭をフル回転させこの会話を終わらせる算段をしている時、追い打ちをかけるように田辺さんは口を開いた。

「いいよね~Kちゃんは。Kちゃんのてんぱ羨ましい」
思わず私は立ち上がりかけた。
田辺!それはないぞ!!
確かにてんぱの民の中にも恵まれたてんぱを持つ者がいる。

しかし、あからさまにKは違うだろ!
親友の私がひいき目に見てもKの髪質およびてんぱの具合は非常にハードである。
頑固!
強情!
腕白!
根性悪!
そんな邪悪なワードが次々と想起させられる、Kのてんぱとはそういうてんぱだ。

ここにきて初めてKが口を開いた。
「私は直毛の二人が羨ましいけどね」
Kの静かな怒りが伝わってきて私は内心震えていたが、田辺さんは全く動じず明るい口調でなおも食い下がる。
「えーそうかなぁ?Kちゃんのてんぱクルクルして可愛いよ~」

「可愛くねーよ!!!」
思わず叫びそうになって慌てて口をつぐんだ。
Kの気持ちを慮っての義憤から出そうになった言葉ではあるが、口に出したらただの悪口である。
あぶなっ…
冷や汗をかく私。
さっきから私一人で何と戦って空回りしているのだろう。

田辺さんは言いたいことを一方的に吐き出しニコニコ顔で帰っていった。

「私のてんぱが可愛いわけないじゃんね」
独り言なのか、私に向けられた言葉なのか計りかね、聞こえないふりをしようとした私に目を向けるK。
ああ…返答を求められている…

「そ…そうかなぁ…」
気の利いた一言が思いつかず私は今度こそ鞄を手に取り立ち上がった。
「…肉まん食べて帰らん?」
冬の寒さ厳しかったあの日、私たちは無言でしゃにむに自転車を漕ぎ、コンビニの熱い肉まんを腹に収め、そしてようやく肩の力を抜いた。

卒業後、Kと私は一緒に美容室に行き、Kはストパーをかけた。
つやっつやで、サラッサラになった髪をキラッキラの目で眺めて喜びを爆発させていたKの姿が目に焼き付いている。

マウントなんて言葉がない太古の昔から、人類はマウントを取り合って生きてきたのだろう。
人もまた動物、ある程度致し方ない部分もあるのかもしれない。

だが私は言いたい。
意識的にしろ無意識的にしろ、マウントとるのはめちゃくちゃダサイぞ。

どうせならスネ夫がのび太にするみたいに、正面切って自慢しようよ。
そしたら聞いてる方も「けっ、またスネ夫の自慢かよ」って言えるしね。



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