京都で滝を見た

新しい畳の匂いがする部屋に入ると、視界に“青”が飛び込んできました。

床の間に、群青。

大徳寺 聚光院に納められた、千住博さんの障壁画、『滝』を見たときのことです。

床の間の壁一面に塗られた群青の鮮やかさに、息を呑みました。

恥ずかしながら、壁画のことをなんにも知らずにその和室に入った私は、青い床の間が現れるとは予想もしていなかったのです。床の間の正面に進むと、青の中に一筋の滝。静かに、でも勢いよく、床の間に落ちる滝。飛び散る水しぶき。

「うわああ…」思わず声が漏れました。

隣に続く和室には、ちょうど向かい合う形でもう1つの床の間があり、そちらにはゴウゴウと流れる幅広い滝が描かれています。近付くと、頬に水蒸気を感じるほど。水が流れる音まで聞こえてきそうです。

絵とは思えない、水の勢い。ヒヤッと涼しくなった気がしました。静けさの中で、どうどうと落ちる水の音が頭の中に響きます。しばらく床の間の前に座り、流れ落ちる滝をじっと見ていました。静謐な時間が流れました。

聚光院の本堂には、狩野松栄・永徳の襖絵が納められています。その国宝と並ぶ大作を作るため、1000年経っても残る作品を作るため、この『滝』は構想から完成まで16年の歳月を要したそうです。

狩野松栄・永徳の襖絵と共に、この滝を見るだろう何百年後かの誰かのことを考えました。私が今立っているこの場所に立ち、この絵を見て、未来の誰かも同じように衝撃を受けるのでしょう。大昔にこの滝を描いた千住博を思い、何百年も残り続けた青の重みを感じるでしょう。

もっと、ずっとこの滝を見ていたい、と思いました。

それから和室でお茶会が行われる時のことを想像しました。滝の前のお茶会。滝の前に正座する和服の人々。真っ白な水しぶきの前に、女性の着物がよく映えそうです。ここで飲むお抹茶は、どんな味がするのでしょうか。

聚光院を出て大徳寺の境内を歩き、お庭に咲く色鮮やかなツツジや牡丹を見ながらも、頭の中ではさっき見た滝がずっと流れていました。

あの青、あの白。

いつか絶対、軽井沢にある千住博美術館に行って、千住博さんの描く滝の前にもう一度立ちたい、と強く思いました。

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