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【私小説13】祖父と動物の事

私は物心ついた頃からずっと、母、父、姉、祖父、祖母、私の6人で暮らしていた。ちびまる子ちゃんの家と同じ家族構成なのだが、テレビで見るそれとは天と地程の差があった。祖父は酒を飲んで暴れるタイプの人間だった。数年前に漸く死んだ。

幼い頃、大次郎という犬を庭で飼っていた。
冬の寒い日に死んだ。おそらくフィラリアだった。
共に暮らした動物が死んだ一番古い記憶だ。今考えると本当に可哀そうな育て方をしてしまった、外で暮らした犬の事を考えると今でもとても心が痛む。

小学校4年生の時、わが家に再び犬がやってきた。ペットショップの売れ残りだ。桜の季節にやってきたから、名前は桜。今思えば私の親がペットショップで動物を購入してしまうような愚かな人間であったという事がとても悲しいけれど、その当時は現代のように保護犬や保護ネコを迎え入れるシステムがあまり浸透していない時代でもあった。いずれにしても、命をお金で購入してしまう親が育てた私がなぜここまで動物寄りに針の振れた人間になったのか、そのきっかけはおそらく祖父にある。

私は桜の事を本当に大切にしていた。今思えば上っ面だけだったんだろうけど、本当に愛していると思ってた。
その頃迎えたお正月。朝っぱらから酒を飲んで祖父が暴れていた。
桜がそれに向かってものすごい剣幕で犬歯をむき出しにして吠えた。すると祖父は激高しどこからか植木鋏を持ち出してきて桜を刺そうとした。私は無我夢中で桜を抱え、思いっきり祖父を蹴り飛ばした。これが私が人生で最後に振るった暴力だ。

その時は父が騒ぎに気が付き
「正月から何子供に見せてるんだ!」
と祖父を抑えつけてくれた。
(いやいやあんたもかなり色々見せてくれたけどね)
とにかく私は、祖父が酒を飲んでは大声出したり暴れたりする人間だったので、一時期酒に嫌悪感を抱いていたが、酒を飲むようになったのはこの時助けてくれた父もまた酒好きだったからだ。今では毎晩晩酌してるよ。

桜。あの時桜は私を守ろうとしてくれたのに、あなたの最後の時一緒にいてやれなくてごめんね。本当にごめん。許さなくて良いので、生まれ変わったら必ず幸せに生きてください。

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