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日本語が論理的思考に向いていない件について、翻訳者の方々からいただいた反響が面白かった

こんにちは。
先日のこの記事、たくさんの反響がありました。

一部、ご紹介します。まずはコメントから。

米国のテック企業で働くには自分の考えを論理的に説得力をもって説明できないと致命的なんですよね。。。大事な場面でフワッとしたことを書いたり言ったりすると、「どうしてその結論に至るのかもう一度説明してくれ」と詰められたらむしろいいほうで、大抵はスルーされてなかったことになります。(kel0tanさん)
英語のエッセイの宿題を添削されると、必ず厳しいダメ出しで、事実を言ってるだけで考えがないよー! とか、どうしてもそう思うの? 主語がないよ~!と先生に毎度ギャーギャー言われました😅
少し、あー私ってそんなに深く何も考えてないのかなと思ったきっかけでもありましたが、古代の文明では人間は言葉を使わずにテレパシーで話してたらしいので?! そう思うと、私たちは空気を読むという点で古代からある人間の素質をまだ使ってる国民なのかも…と前向きに思ってみました😅
(Tamichon Malamaさん
)

ツイッターでも。

実は松井さんの一冊目の本「僕がアップルで学んだこと」の編集者は私です。ごめんなさい。

翻訳者の方々の話が面白すぎた

そして意外なところから反響をもらいました。


プロの翻訳家の方々です。

さらに、特許翻訳者のみ・カミーノさんからいただいた意見、とっても考えさせられますので紹介します。

今日の記事は、特許翻訳者の私には、そうそう!それです!となりました。

私は日→英の翻訳がほとんどなんですが、日本語で主語がない、これホントに正しい?と思うような論理接続詞の使い方、抽象度の高い単語ばかりを使いたがるという特許業界の習慣があり、英語に訳すときに非常に困ることが多いんです。

面白いですよね。詳しく聞いてみます。

法律の条文や契約書、お役所の手続きなどもそうなんですが、わざと難しい単語を使い、長文で複雑な係り受けになるように書いて、意味が分からないようにしている、と私は思っています。
なぜなら、そのほうが賢そうに見えますよね?ドエライことが書いてある、ひぇぇぇー、専門家っぽいって、周りの人が思うんですね。
特許業界でもその傾向が強く。 元々の日本語のあいまいさに加えて、専門家の威厳を出そうとして書いてるんじゃないかな。

これ実は文章サークルでのやりとりなのですが、この時点で、他の業界の方からも「あああ、あるある」という声が。

なぜ日本語が複雑怪奇になるのか?


私は日本語の一部の業界で、複雑な係り受けや、言葉を使いたがるのには、2つ原因があると仮説を立てています。

1つは「責任回避」です。

政治家の答弁なんて、本当に曖昧です。
わかりにくくして、「言質を取らせない」作戦もあるのでは?
いざってときに逃げられるように、曖昧にしているのかも??

もう1つは言葉を簡単にすると、専門家の価値が落ちることです。

私も司法試験受けたのですが(落ちました)、難解な法律文書が読めるのは士業の大きな価値でした。

英語でも、アカデミック文書や法律文書は硬い表現を使います。
TPOもあるのかも。

特許翻訳者がなぜ苦しむのか?

話を特許翻訳に戻します。またカミーノさんの言葉です。

それで苦しむのは翻訳者で、日本語の長文を切って分けて翻訳したりすると、すっきり明快になるんです。だけど、弁理士さん、知財部、発明者の人たちが、それはちょっと待て、それだと専門家っぽくないよねと考える、そういう風潮があります。明快な文章だと重みがない、と思っているフシがある。
英文を読んだときに論理的になるように訳すと、日本語を書いた弁理士さんの中には、「翻訳者のくせにそこまでしなくてもいい」と快く思わない人もいるんです。日本語で書いてあるとおり1語1語を忠実に訳せばいい、みたいに。
その場合、弁理士さんの言っている忠実さ(言葉に対して忠実)と、翻訳者の私が考える忠実さ(意味等価、論理に対して忠実)が違っているんです。

これは多分特許翻訳以外でもあるのでは? 私も海外でPRやっててニュースリリースの翻訳してたころ、日本語をそのまま訳すとお客様から「意味不明。長すぎる。こちらの時間を無駄にしないでくれ」と言われ、英語っぽく簡潔にすると、「そんな訳は頼んでない」と日本側から怒られる、って感じでした。

もうこれが本当にやっかいで、英語として論理的な文章にしようとしても、それを阻まれることがあるんですね、多方面から。日本語1語1語に忠実であれ、みたいに。 そうなると、欧米の特許庁の審査官のあいだでは、日本企業の出願する英語の明細書は3Cを満たしていないから分かりにくい、ってなるんです。審査官は技術内容を審査したいのに、そもそも英語の明細書が分かりにくいので、技術内容がきちんと伝わらないんです。それで、特許取得までめちゃくちゃ時間や費用がかかったりするんです。

3つのCとは、簡潔性(Conciseness)、明確性(Clarity)、正確性(Correctness)のことだそうです。

うーむ、全然違う言葉で全然違う思想がぶつかっている。

特許翻訳の大変さ、想像を超えていました。
み・カミーノさんも同じテーマでnoteを書かれています。面白いのでよければ読んでみてください。

私が大学にいた頃は、「難しい文章を読める」ことが「賢さ」の基準でした。社会に出て、大衆雑誌の世界に入ったら真逆で「1文はできるだけ短く」「主語と述語の関係性を明確に」「凝った修辞を使うな」「誰にでもわかるように書く」と言われました。

英語勉強し出したら、今度は「結論から論理的に書け」って言われ、アカデミック・ライティングでは「シンプルな言葉を使わないように」って言われます。

言葉が変わると思想も変わる。業界が変わると言葉も変わる。
面白いな、と思います。

みなさま、大変興味深いお話をありがとうございました!


それではまた。

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