外国人観光税(インバウンド税)導入を

コロナ禍が終わり、外国人観光客が戻ってきた。しかし京都では、コロナ禍以前から問題になっていたオーバーツーリズムが何の手も打たれないまま再現している。市民の観光客嫌悪は進むばかりだ。私はこれに対処するために外国人観光税(インバウンド税)を提案したい。

オーバーツーリズムとは何か。


観光客が集まりすぎて交通渋滞やゴミ問題など、市民生活の悪化が引き起こされることである。従来の観光なら、違う県の日本人が訪れるので、そこまで多くの観光客が集まりすぎることは少なかった。しかしインバウンドでは、日本の人口が減る中、相対的に多い海外の人たちを呼び込むので構造的にオーバーツーリズム問題が発生する。例えば100万人の人口の都市に、インバウンドで100万人観光客が訪れると、都市の道路や地下鉄などの交通基盤、ごみ処理やゴミ処理や下水処理施設などは100万人分しか想定していないので、観光客が使う分、地元住民の利用に支障が出る。国内観光客程度ならそこまで数は増えないので観光客が行政サービスにただ乗りしても問題になりにくいが、インバウンドでは最初から日本人観光客だけでは有り得ない数の外国人観光客を呼び込んで売上を上げるから、インフラ不足によるオーバーツーリズムは必ず起こる。

京都市の場合


京都市は、元々一国の首都だったので、電気、ガス、水道などのインフラは早くから整備されている。観光客が押しかけて水不足や電力不足になることはない。むしろ広域関西圏全体に言えるが、元々人口、産業の中心として整備されたので都市の規模以上にエネルギー供給能力がある。
食料などの物資も、京都は古くから集散地であったため、観光客の大量買いで商品が枯渇することもない。地方の中小都市では大型客船が寄港するとエネルギー、水道、物資の供給能力に問題が起きて、ゴミや下水処理が追いつかないという事態も起こるが、京都市は大都市のためこの辺りは問題ない。
しかし京都市の一番の問題は、交通である。
京都市内は道路が狭い上に、地下鉄は2路線しかなく、バスが中心である。これは地方の人口が少ない県庁所在地とあまり変わらない構造である。地下鉄2路線では、市街を網羅せず、東西南北に通過する、地方のJR線とバスの関係と何ら変わらない。地下鉄よりバスに旅客が集中するのは地方の中小都市と似ている。これは、元々京都は職住近接で、烏丸通、五条通都市言った中心部のビジネス街にたくさんマンションがあり、人口密度も高い。国勢調査でも、京都市は徒歩通勤や自転車通勤が多い特徴からも公共交通機関への依存が少ない。交通機関のダイヤを見ても、通勤より観光優先なのも地元住民があまり公共交通機関を使わない理由だろうと推測する。これらの事情から京都市は都市規模に比べて公共交通機関が貧弱と言える。
その貧弱な交通機関に、溢れかえる外国人観光客が押し寄せれば、地元のお年寄りなどは乗れなくなる。これが京都市内でのオーバーツーリズムである。
大都市だから、それなりに通勤客もいるし、通勤ラッシュだってあるから大したことないと思う人もいるだろう。しかし観光客は、大阪や名古屋など近場の日帰り観光客でなければだいたいキャスター付きのバッグを持って乗る。特に外国人は、長期旅行になるので大型のスーツケースを持って乗る。欧米など遠方からの観光客は、大型スーツケース2台を引っ張っている人もいる。日本人でもアジアは短距離だから短期間、荷物も少ないが、欧米は長距離で長期間だから荷物が増えるのと同じことだ。
インバウンドの前は日本人観光客が中心。それも一番数が多いのは大阪や名古屋など近場からの日帰り観光客だったから、手ぶらに近い観光客が多かった。手ぶらの観光客なら100人バスに乗れても、スーツケースを持った観光客なら、30人くらいしか乗れなくなる。だからインバウンドでは人数以上に混雑感が増す。これが地元住民からの苦情になる。

ゴミ問題

京都市はゴミ処理は有料である。市内でゴミを捨てるには、市の指定の袋を買って捨てる。指定の袋は高く、高い分がゴミ処理費用に充てられている。
京都市では一般ゴミ、資源ゴミ(缶、瓶、ペットボトルとプラスチックと小型金属の3種類に分かれる)、紙ゴミに分けられている。紙ゴミは自治会で集めて民間業者が集めることがほとんどだ。業務用のゴミの場合。油脂。生ゴミ、魚のあら、割り箸など木材も専門の業者が回収してリサイクルしている。京都市野清掃工場は大規模で、分別しなくても金属やガラスも全て燃やして土にできる高性能な設備がある。日本の大都市は、どこも似たような工場がある。それでもリサイクルが盛んで、新聞紙やダンボールは、ほとんどリサイクルされている。飲食店などでは生ゴミ、魚のあらを業者に売り、飼料にリサイクルしている。割り箸も再生紙にしている。
飲食店やホテルなどの大量に食事を提供する施設では、生ゴミ、魚のあらを完全分別して業者に売却しているが、それを知らない外国人は大量に残飯を出す上に、中に紙ゴミや爪楊枝、アルミホイルなどを混ぜるので使い物にならなくなると言う。飼料ゴミの場合、このような異物を食べた豚が死ぬので、提供施設、養豚業者それぞれ大損害となる。それを防ぐために施設職員が人力で生ゴミから異物を取り出している例もある。これらの費用を払う、外国人に日本で行われるリサイクル徹底に理解を求める啓発活動も必要である。

医療サービスただ乗り?


日本の医療費は安い。よくアメリカで医者にかかると、日本に帰国して病院に行った方が交通費を考えても安いと言われる。国民皆保険制度もあるが、自由診療や、保険が効かない医療を使っても安くて良心的な価格である。しかしそれでも在日外国人、外国人観光客、医療ツアーなどでの医療費未収金は、9400万円にのぼる。法改正で、日本人の医療保険を食い物にする外国人医療ツアーはできなくなったが、救急車の問題が残る。
日本では救急車は行政サービスと考えられ、原則無料。これは世界的に珍しい制度だ。よく外国人が倒れていて日本人が救急車を呼ぶと断られるが、彼らの国では通常救急車は有料だから、旅行中に払えなくなるかもしれないと考えるからである。
東京都消防局によると、救急車1回の出動に45000円の経費がかかると言う。これらは全て税金で賄われている。
観光庁の目標通り、2030年に6000万人の観光客、1人2泊、売上15兆円を目指すなら、単純に毎日16万人の外国人観光客がやってくる。外国人観光客が平均4泊するなら60万人ほどが常時日本に滞在することになる。平均1週間滞在なら、110万人にもなる。これは2030年現在の仙台市の人口に匹敵する。この人数なら、救急車出動件数の1%は外国人観光客の急病や事故と考えられる。現在全国の救急車出動件数は、総務省によると約723万件だから、今の利用状況からすると、2030年には7万件程が外国人観光客の利用になる。この経費は32億円になる。日本人利用の救急車でさえ財源が足りず、有料化が検討される中、何らかの形で救急車出動費用や日本人の健康保険にあたる費用負担を外国人観光客にも負担してもらう必要がある。
日本は少子高齢化していて高齢者が多いから外国人観光客に当てはまらないと言う人もいるが、外国人観光客も高齢者が多い。
近場の東アジア、特に中国や韓国は、日本以上に少子高齢化が進んでいるし、欧米人も、日本観光に訪れるのは、距離が遠く時間がかかることもあり、金銭や時間に余裕のある高齢者が多い。おそらく医療機関や救急車を必要とする割合は日本人と同程度だろう。

財源をどうするか


現在インバウンド税に相当するものに、宿泊税がある。これは東京都で一泊1万から1万5000円未満の部屋で100円それ以上の部屋で200円。一番高い京都市で一泊2万円未満の部屋が200円、2万円~5万円未満の部屋が500円。それ以上は1000円。大阪府が一泊7000円以上1万5000円未満が100円、1万5000円以上2万円未満が200円、2万円以上が300円。
多くの外国人観光客がこの3都市に滞在するので、東京に1週間滞在するとしても1000円強しか納税していない。日本の行政サービス水準からしたら安すぎる。
次に、OECDが発表した2021年の平均年収を見ると、日本は4万ドルに対し、英国は5万ドル、米国は7.5万ドルである。もちろんG7最下位だが、台湾や韓国にも抜かれている。
海外旅行、特に遠い日本まで来る人は、時間や金銭に余裕がある。そもそも余裕のない人が観光旅行をしない。金銭的に来るしければ、行楽は真っ先に切り詰めるはずだ。
いくら安い国日本と言っても、日本に来るまでの航空運賃は、出発国の通貨と相場で払うから、決して安くない。欧米発なら下手な日本人の月収に相当する額だろう。外国人観光客は担税能力は高いのである。

税金について調べると、日本の所得税率は、それほど高くない。先進国では標準的だ。アメリカやイギリスは最低税率がもっと高い。
消費税率を見ると、多くの先進国では20%が標準的だ。日本は所得水準が低いだけで所得税率は標準的、消費税率は安い。
これを外国人観光客には消費税の免税制度があるが、これを廃止し、消費税の名目を外国人観光税にすれば良い。かつての物品税のように、外国人が購入する高額品には税率を上げることも検討すべきである。
外国人観光客に課税することで、日本の行政サービスを使うことへの日本人、外国人双方の抵抗がなくなる。また、インフラ不十分によるオーバーツーリズム問題、特に道路や港湾などの問題では多額の費用がかかる。東京に次いで外国人観光客が多い京都市は、元々財政基盤が脆弱だ。市街地は資産価値の低い木造や中低層建築物が多く、寺社など固定資産税の対象にならない建物も多い。郊外も国有地が多く、住民は担税能力の低い大学生の割合が高い。それでも政府の進めるインバウンド目標を到達させて経済浮揚を図るなら、より多くの道路や鉄道整備が必要だ。しかし京都市の財政でこれ以上のインフラ整備は不可能である。外国人観光客の消費活動に課税して財源にすればかなり解決できる。

免税制度を廃止するデメリットはないのか?
外国人観光客の消費活動を増やすための免税制度だが、日本は免税制度が無くても十分に安い国である。今まで免税だったものを、そのまま外国人観光税にしても、日本の安い物価で価格競争力は落ちない。何しろ今どき1000円以内でランチを食べられる国は先進国には存在しないし、アジアも経済成長、物価高で日本より高くなりつつある。東南アジアからの旅行者さえ日本の安い物価に驚くから、免税で外国人観光客を呼ぼうという考えは古い考えだ。それはバブル時代、円高で海外の資産を買いまくっていた時の発想で、現状にあてはまらない。
この安い国は、賃金の安さ、年金の安さが原因で、簡単に物価を上げられない。だから政府はコロナ禍でもエネルギー価格が上がらない工夫をしている。今の日本で物価上昇は、割合として多い年金生活者や低所得者の生活を奪う。
それなら相対的に高所得者の外国人観光客に税負担をしてもらい、安い国日本を楽しんでもらうのはどうだろうか?


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