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Spotify交換日記 その9

アンテナ編集部の中でも典型的洋楽リスナーの阿部とJ-POPをよく聴く丹。一見すると全く趣味が合わないようにも見えるが、そこにはタッチポイントがあるはず。かつて相手の趣味を探りながら「これめっちゃいいよ!」「おお、いいじゃんこれ!」なんてCDの貸し借りをしたようなあれをやりたい。興味さえあればクラスタの枠なんて関係ないはず、そんな気持ちで自分にとって新しい音楽にワクワクしていきたいじゃないですか。YouTubeやストリーミングサービスでなんでも選べるからこそ逆に選ぶことが難しくもなっているこの時代、勧め合う営みの素晴らしさを今一度確かめたいな、なんて。

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阿部 仁知(あべ ひとし)
アンテナの他にfujirockers.orgでも活動中。フェスとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。
好きなアーティスト:Elliott Smith、Radiohead、My Bloody Valentine、中村一義、The 1975、Cornelius、Four Tet、曽我部恵一、Big Thief、ROTH BART BARON、etc...
Twitter:https://twitter.com/Nature42
丹 七海(たん ななみ)
97年生、大阪の田舎ですくすく育った行動力の化身。座右の銘は思い立ったが吉日。愛猫を愛でながら、文字と音楽に生かされる人生です。着物にハマりました。
好きなアーティスト:サカナクション、King Gnu、back number、椎名林檎、ポルノグラフィティ、[Alexandros]、Creepy Nuts、エレファントカシマシ、etc…
Twitter:https://twitter.com/antenna_nanami

はろーべいべーあべです。先日行ったナノボロフェスタでは久々に生の演奏に触れて「やっぱ現場はいいよなあ」なんて思いましたが、まだまだ苦境は変わらない今日この頃。配信やSNSも含めた“現場”という概念の拡張が求められているのかもしれません。さてさて、みなさんはいかがお過ごしですか?今月はロックってことにしてみます。丹さんのMUSEへの反応が面白かったのでそこを起点に。とはいえロックといっても多種多様で、ジャンル的には適さないのもあるかも。でもロックとはジャンルの名前ではなくアティチュードだという、広い目線で捉えてもらえればいいかなと思ってます。めちゃくちゃ思い入れが強いやつばかりなので反応が気になりますね。では、今月の5曲をどうぞ!

Airbag / Radiohead

Radioheadをどこから勧めるかは永遠の命題なのですが、MUSEにハマった丹さんなら僕と同じ道筋でいいでしょう。90sの金字塔『OK Computer』の1曲目“Airbag"です。Radioheadって難解なバンド扱いされがちですが、西洋音楽の3要素といわれるリズム、メロディ、ハーモニーの追求にどこまでも貪欲なだけだと思うのですよね。それが時期によってリズムに比重が置かれたりハーモニー重視だったりもしますが、その3要素がロックのフォーマットで有機的に渾然一体となった到達点の一つが、『OK Computer』でありこの“Airbag"だと思うわけですよ。コリン・グリーンウッドのベースのリズムやジョニー・グリーンウッドが抜き差しする音のマテリアル、そのすべてが完璧な位置関係で配置されていて、かっこいいという以前に美しいと感嘆するのです。なんて小難しいこと言ってますが、結局のところ3本の重厚なギターアンサンブルに打ちのめされるこの曲。サマソニ公演(“Airbag"は00:30:26から)も今見返すとベストパフォーマンスかは怪しいですが、20年近くを経ても色褪せない響きをただただ噛み締めてましたね。Radioheadに関してはうるさいので長くなりましたが、丹さんもぜひ。(阿部仁)

洋楽は全然触れてこなかったのに、名前だけはいつからか知っていたRadiohead。それでも聴く機会が全くないまま22年を迎えてしまっていました。彼らの音楽を真正面から聴くことができたのも、アンテナに加入して良かったことの一つなんです、間違いなく。最近ギターのギャンギャン鳴る音がすごく好きで、そのメロディが一節入ってくるだけで眠気も吹っ飛ぶ気分になります。この曲も例に漏れず、イントロの歪んだようなギターの入りでテンションぶちあがり。そこからの緩やかなハーモニーにゆるゆる体が揺れる感じに、思わずおっ? と声を上げました。僭越ながらRadioheadは、かなりロックに寄った方達だと思っていたのですが、こんなに滑らかな曲も作られているんですね。ギターの尖りと柔らかさ、両方を兼ね備えた音の連なりに思わずうっとりしてしまう、綺麗な曲です。あと、歌詞の音数が少なめなのも面白いです。良くない癖とは自覚しつつも、歌詞至上主義のきらいがある自分。歌詞だけでなく、楽器たちと混じり合ってこそ美しいハーモニーは生まれるのだと、再認識させられました。(丹)

生活 / syrup16g

僕の中で「syrup16gを聴くかどうか」は結構大きい要素になっていて、すごく仲の良い人は不思議とみんな好きだったりするんですよね。そしてその人達は多くの場合BUMP OF CHICKENも好きだったりするので、丹さんもどうかなと思って勧めてみます。Radioheadとも共通するんですが、ザラッと無骨に鳴らすギターの裏のベースのニュアンスが好きなんですよね。この音源は旧メンバー佐藤さんの演奏なんですが、ライブに行くたびに現ベースのマキリンに釘付けになる僕がいます。そしてsyrup16gといえばなにより五十嵐の歌とギターにあらわれるやりきれない焦燥感でしょう。彼らの音楽は特に何か解決するものではないですが、聴くたびに「こんな気持ちを抱えててもよかったんだ」と感じて、居場所のなかった感情に光が当たるような気持ちになるのですよね。Radiohead同様「暗い」とか「ダウナー系」とか言われることが多い彼らですが、決してそれだけではない。syrup16gの表現は僕の希望なんですよ。(阿部仁)

バンド名何て読むんや……英語? 造語? 頭を捻っても分からなかったので、Wikipedia先生に聞きました。もっと柔軟に文字を捉える力が必要だな、と痛感。阿部さんが仰っていた「彼らの音楽は特に何か解決するものではない」。この言葉とても興味深かったです。私自身、ポジティブな言葉や明るく元気な曲調だけが人を救うものではないという考えは持っています。そう思っていても、音楽のみならず小説やドラマをみて「ああ、自分も頑張らなきゃ」と奮い立たなければならない、みたいなズレた状況に陥ることが多々あって。無理やりギアをかける必要、ないんですよね。あの人の言葉に感動したから、あの人の生き方に感銘を受けたから、無理やり背中を押されるのは、どこか息苦しさも感じます。だからこそ、今の私をただ肯定してくれる、受け入れてくれる存在は大きい。どうしようもなくなった時に側にいてくれる音楽があるのは、とても幸せなことなんです。

Same Thing (feat. Superorganism) / 星野源

この曲は去年の紅白でも歌ってたので多分知ってると思うんですが、Superorganismの側からレコメンドしようと思います。とはいえまず星野源ですよ。作詞作曲が彼なんですが、最初からSuperorganismが作ったようにマッチしてて、星野源のプロデュース能力に脱帽したものです(このEP収録のfeat. PUNPEE / feat. Tom Mischの曲も名コラボです)。奇想天外でアンニュイなポップセンス、そしてちょびっと毒が混ざり込むオロノの歌唱。何度かライブを観てるんですが、Superorganismの表現は僕らの「こういうことだろ?」という固定観念をあっさり刷新する現代のパンクスだと思うんですよね。そしてそれこそがポップミュージックの本懐なのです。サビのフレーズが禁止用語なので紅白で差し替えられたときは「マジでなんもわかってねえな」とげんなりしたものですが、星野源が書いてオロノが歌うからこそ意味があるとても健全なコラボレートのあり方をこの曲には感じるのです。丹さんもぜひ。(阿部仁)

星野源だ!メジャーアーティストだ! と思ったら、フィーチャリング側からのアプローチでやっぱり私の知らない音楽の話だった。もちろん紅白は見ておりましたが、そんなことがあったんですね……。ほんまに何もわかってないなと憤りつつ、教えてもらうまで全く知らなかった自分自身にも腹が立つ。星野源のとんでもないところって、洋楽も邦楽も全てごちゃ混ぜにして作った音楽を、何のやっかみも障壁もなく「日本の大衆」から受け入れられているところだと思うんです。SuperorganismもPUNPEEもTom Mischも初めて聴くアーティストなのに、曲を聞き終わった後に彼らも聞いてみよう、と思わせる不思議な魅力。それがおそらく、阿部さんのいうところのプロデュース能力でもあるのでしょう。Superorganismのバックグラウンドも知らず、どんな洋楽の要素が使われているのかも分からないのに、万人から「めっちゃ良い曲やん!」と思わせる星野源の手腕よ。いやほんと、この曲めっちゃめちゃ楽しいですよね。

FOLLOW ME / andymori

僕の世代の青春の象徴であるとともに僕がもっとも嫉妬する男、それが小山田壮平でありandymoriです。だってなんなんすかこのサウンド。疾走感とそれだけではごまかしきれない焦燥に、初めて聴いたときどれほど「僕がこれを鳴らしたかった」と悔しく思ったことか。僕の大好きな中村一義にも共通するのですが、彼らの表現に感じる「酸いも甘いも噛み分けて、噛み分けられない無力さや愚かさも見つめながら、それでもなお純粋な少年性を諦めない」みたいな部分に僕はどうしようもなくやられちゃうんですよ。でも比較しようもない遠い遠いスーパースターなんかではなく、彼らの表現は常に僕の目の前で鳴らされていて、だからたまらなく悔しく思ったりもするんだろうと思います。僕はその感情がいつだって明日への活力だし、ひどく青臭くなっちゃったけどそういうことなんですよ。福岡の単独公演は抽選外れちゃいましたが、音博が楽しみです。(阿部仁)

すごく爽やかな青春の香りに、爽やかさとは無縁だった学生時代が蘇って悲鳴を上げてしまいました。うちの大学には軽音サークルも音楽研究会もなかった、羨ましい。それはさておき。小山田さんの歌い方がずるいですね。どこか生き急ぐような、急くような歌い方。将来に待っている漠然とした不安や恐怖から、必死になって逃げている様が思い浮かびます。どれだけ走っても隠れても逃げきれなかったことを知ってしまった今だからこそ、彼の失われない青い音楽に恋い焦がれるのかもしれません。一番最後、“かくれんぼも終わりの時間だよ"で学生時代の懐古も思い出も全部消し去って、今に呼び戻してくるのも残酷。現実はいつだって残酷なんですよ。読み返したらめっちゃ恥ずかしいこと書いてるやん。多分5年後ぐらいに後悔する。いやでも青さって感性としてすごく重要だから、一生大切に持っておきたいです。

The Steps / HAIM

今回は思い入れのまま書き殴ってる感がありますが、最後はそんな気持ちがとびきりデカいHAIMの“The Steps”。多分僕の今年のベストトラックになると思うし、目下世界最強のバンドは彼女たちなことになんの疑いもありません。Lo-Fiなカラッとしたサウンドを切り裂くように炸裂するギター、苛立ちもこもった早口のリリックの中で、あまりにも晴れやかに響く“Do you understand? You don't understand me, baby”がすべてを物語っているように思えてならなくて。彼女たちは所謂「女性的な表現」をすることにまったくなんの億面もありませんが、社会からの(つまり男性からの)要請としてそうあるのではなく、純粋にもっとも自分らしい表現としてそうあるように思うんですよね。だから「声を上げる女性」というバイアスも飛び越えて純粋に「かっこいい表現」でしかない。それでも僕は男性なので、どこまでこの捉え方が妥当なのかは常に自問自答していますが、アルバムタイトルの『Women in Music Pt. III』だって単に3rdアルバムという意味ではなく「ちょっとマシになった君のジェンダー感もまだ先があるぞ」と示しているように思えるのです。丹さんはどう思う?ぜひ聴いてみてください。(阿部仁)

自分も少なからずその考えを持っているので人のこと言えないのですが、女性的、男性的、中性的ってカテゴライズするのもどうかと思うんですよ。別に「◯◯的」の枠に嵌まりたいとは思っていない。フリルのブラウスも右ボタンの柄シャツも、私が着たいから着るだけ。古着屋さんでレディースとメンズ区切るの、横断しにくいからほんとやめて欲しいです。そんな風に日常生活でごにょごにょ悩んでいるもんですから、性別を超越した自分らしさを表現する方は本当に格好良いと思うんです。私にとってその人が椎名林檎さんであるように、阿部さんにとってはHAIMなんでしょうか。女性の私(この冠つけるのも変な話ですが)から見て、素敵だと感じたMVのポイント。寝起きの姿で映る、色が濃いめの口紅をつける、下着のまま泳ぐ。もちろん、フィルターがかかりまくった感想でしかないんだろうけど、音楽をベースに「これが私だ」と宣言する彼女は、とても格好良く感じます。スッピンで外出るなと怒られたり、ケバい化粧って指摘されたり露出の多い服ははしたないとかそんなん自分で決めさせてごにょごにょ。うーん、女性っぽい表現を書き連ねていると、なんだかむずむずしてきます。

あとがき

音楽を通して生き方を語る。月並みな表現ですが、やはり音楽の魅力の一つですよね。5曲目なんて、感情が昂りすぎて書き殴ってしまいましたが、それほど音楽と人生、日々の営みは直結しているのではないかと。ただレコメンドされた音楽の感想を書くのではなく、その音楽を通して別の角度から切り込むのも面白いですね。こういう書き方、またやってみたい。それではまた来月、お会いしましょう!

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