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Spotify交換日記 その8

アンテナ編集部の中でも典型的洋楽リスナーの阿部とJ-POPをよく聴く丹。一見すると全く趣味が合わないようにも見えるが、そこにはタッチポイントがあるはず。かつて相手の趣味を探りながら「これめっちゃいいよ!」「おお、いいじゃんこれ!」なんてCDの貸し借りをしたようなあれをやりたい。興味さえあればクラスタの枠なんて関係ないはず、そんな気持ちで自分にとって新しい音楽にワクワクしていきたいじゃないですか。自宅でフェスの配信を見ていると、こんな面白い人が! この曲めっちゃ格好いい! みたいにたくさんのミュージシャンを知れて、とても楽しい毎日を送っています。それと同じ出会いを、交換日記でできたら最高ですよね!

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阿部 仁知(あべ ひとし)
アンテナの他にfujirockers.orgでも活動中。フェスとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。
好きなアーティスト:Elliott Smith、Radiohead、My Bloody Valentine、中村一義、The 1975、Cornelius、Four Tet、曽我部恵一、Big Thief、ROTH BART BARON、etc...
Twitter:https://twitter.com/Nature42
丹 七海(たん ななみ)
97年生、大阪の田舎ですくすく育った行動力の化身。座右の銘は思い立ったが吉日。愛猫を愛でながら、文字と音楽に生かされる人生です。着物にハマりました。
好きなアーティスト:サカナクション、King Gnu、back number、椎名林檎、ポルノグラフィティ、[Alexandros]、Creepy Nuts、エレファントカシマシ、etc…
Twitter:https://twitter.com/antenna_nanami

こんにちは、ライターの丹です。先日はフジロックの配信を一日中観ていて、次こそ絶対に行ってやると誓いを立てました。まずモンベルで服を揃えるところから、形から入るタイプなので。さて、最近は配信ライブを糧に生きています。生音を浴びるライブがないこの状況に慣れてきている自分がいて、じわじわとした恐怖と焦燥感に苛まれてしまいます。そんな時は自宅で音楽を聴きましょう。毎日自室のオーディオの電源ボタンを押して、iPhoneとペアリングさせる瞬間が楽しみだったりします。そんなわけで、今回も自分の好みに忠実に選りすぐった5曲です。今回も邦楽がずらりと並ぶラインナップ、阿部さんどんな反応してくれるかな。

しとど晴天大迷惑 / 米津玄師

絶対いつかのタイミングでサブスク解禁はくると信じていて、きっかけがあるとすればアルバム発売だなと睨んでいて、案の定『STRAY SHEEP』発売日に解禁されました米津玄師。ボカロP・ハチ時代から追いかけている古参が通りますよ。今回は“パンダヒーロー”や“マトリョシカ”の系譜を色濃く引き継いだ楽曲たちがずらりと並ぶ、2ndアルバムから選曲しました。ファンの間で「初期米津」とも囁かれている、3rdアルバムまでのチャカチャカ感。“春雷”や“Flamingo”にも受け継がれる、よく聴けば意味不明な言葉が並んだ歌詞。これまでとこれからの米津玄師双方を孕んだ橋渡しの2ndアルバムとして、この曲は集大成なんじゃないかと思います。正気を保ってたらマトモに聴いていられない、頭のネジを外して楽しむような彼の音楽がめっちゃ好きなんです。散々自論を展開しましたが、最新アルバム『STRAY SHEEP』にもチャカチャカ感は生きているし、歌詞のよく分からなさはボカロPの時から変わっていない。ニコ動で動画を投稿していた時から、彼の曲作りの根幹は変わっていないんですよね。一生ついていく。(丹)

そこまでちゃんと聴けてないですが、米津玄師はコアな音楽ファンも唸る高いアーティスト性と、うちの母親も知ってるようなポピュラリティを両立させているのがすごいですよね。あいみょん、Official髭男dism、三浦大知にせよ星野源にせよ、そういうアーティストがトップに居るのはとてもいい時代だなと思っています。さて、よく一緒にカラオケに行く友人がハチ時代の彼を含めボカロの曲を沢山歌うんですが、歌詞にせよメロディにせよサウンドメイクにせよ、型にとらわれないエキセントリックな表現が面白いなとよく思っていて、この曲ももその感じがよくあらわれてますよね。野球のくだりで応援歌にするって、思いつくけどロックバンドはあんまやらない手だと思うんですが、それを気兼ねなくやっちゃう感じ。その上でちゃんとポピュラーソングしてて、丹さんの言う「橋渡し」もよくわかる気がします。あと、Spotifyの歌詞表示機能いいですね。見ながら聴くのは初めてなんですが、確かに「何いってんだこいつ」って思っちゃう。でも個々のフレーズはそうでも、全体としてなんとなくテーマが浮かび上がってくるこの感じはとても好きです。「目に目に」とか「散々」とかけた「many many」ですよね。こういう遊び心がサラッと入るのもおもしろい。やっぱ米津玄師は侮れないなあ。(阿部仁)


MOTTO / back number

テレビや雑誌で失恋ソング特集やら恋人と歌いたいカラオケ特集にしばしば取り上げられているback numberから、彼らの真骨頂を紹介すべくベースがめちゃくちゃ格好良いこちらの曲を。アルバムを発売したら収録曲の半分以上に恋やら愛やらのキーワードが出てくる勢いですが、彼らの曲の中で恋愛が成就してハッピーエンドを迎えたのは、ほんの一握りしかないんですよね。私はそこに、清水さんが描くラブソングの妙が隠れているのではないかと。自分は自分で貴方は貴方、繋がりたいと思ったらお互い傷だらけになりながら手を伸ばさないといけないし、届かなければそれまで。私と貴方は他人なんだから、個の境界線を溶かす方法はある訳がない。あれだけ「私/僕/俺」と「君/貴方/あの人」を克明に歌っていながら、超えられない一線を引いている。非情なまでの生々しさ。他人と溶け合うことはできないからこそ、結ばれた時の幸福感はひとしお。ハッピーでスイートだけじゃない、リアリズムに徹した恋愛模様も彼らの魅力の一つなのではないでしょうか。(丹)

back numberって僕の中で女子高生御用達のバラードを歌う人たちってイメージが(偏見が)強かったんですが、こういう感じなんですね。思ったてたよりハード。そして恋愛の幻想を否定するようにちょっと刺々しい。ちょうどナノボロフェスタで観た須田亮太(ナードマグネット)の“僕は知らない”や家主の“家主のテーマ”、あるいはこの前アルバムが出た小山田壮平の“雨の散歩道”とか、「君のことはよくわからない」を前提とした表現が好きで、彼らもそれに近しいものを感じました。あんま僕に恋愛語らせないでほしいんですが、結構痛い思いしてきた経験からいってもそこからしか始まらないと思うんですよね。あと「女は美しい だけどあまりに儚過ぎて」がビビッときた。今ってこういう主語の大きな属性をくくった物言いは忌避されると思うんですが(上の女子高生云々とかまさにですよ)、こう「私 / 貴方」と歌ってたところに「女」に視座を上げられるとすごくハッとするなと。見方によっては皮肉っぽくも聞こえたりすごく多層的だなと感じます。(阿部仁)


夏夜のマジック / indigo la End

真夏の蒸し暑い匂いにむせ返るこの1曲。昨年末のレディクレで聴いて、生音でグルーヴにのる感覚にハマりました。無尽蔵に音楽が湧いて出てくるのかってぐらい楽曲を生み出し続けている川谷さん、歌がうまいとか作詞作曲スピードが人外だとかはさておき。川谷さんはステージで生歌を奏でて、場の空気を音楽を以て支配する力が半端ない。それも彼らの場合はドカンと一発盛り上げるとか、会場を熱気に包み込むとかそういう類でもない。静まった会場に歌声が響き、緩やかにサウンドが追随する。ゆったりと緩やかに紡がれるグルーヴに揺られていると、寒風に震えていたインテックス大阪が夏の真夜中の公園に様変わり。真夏独特の、じめじめとした草木の匂いにハッとさせられたのを覚えています。五感ごと音楽に乗っ取られる奇妙な感覚は、あれ以来味わったことがありません。あの体験はCDを流そうと配信ライブを何度見ようと、味わえるものではないんですよね、間違いなく。書いていたらすごくライブに行きたくなってきた。(丹)

これどっかで聴いたことある!川谷絵音さんは複数のバンドをこなしたり僕はどっか商才の人としてみてたんですが、こうじっくり聴いてみると10代20代に沁みる情感が滲み出てますね。例えば僕の世代にとってフジファブリックの“若者のすべて”が夏の終わりを象徴する曲であるように、丹さんの世代はこの曲なのだろうなというのがありありと想像できました(もっとも僕が一番夏の終わりを感じるのは一番はOasisの“Champagne Supernova”ですが。確か[Champagne]の由来だから聴いてみ、いや失礼、関係ないな)。ほとんど夏らしい夏を感じられなかった2020年ですが、ちょうど夏の終わりの空気感に触れるような川谷さんの息遣いがなんだかとても切なくさせます。バンド活動をしてたときよく「足し算じゃなくて引き算や」と話してたものですが、indigo la Endのサウンドはすぐに終わってしまうこの時間をゆったりと名残惜しむようなおおらかな空気が流れていて、だからこそよりいっそう夏の終わりの情感が響くんですよね。(阿部仁)

何なんw / 藤井風 

岡山の田舎出身の父曰く「ベタベタのキッツイ岡山弁」、妹曰く「センター試験より聞き取りやすい英語」。漫画だったら設定の詰め込みすぎで編集者にイチャモンつけられそうなSSW、藤井風をピックアップ。『HELP EVER HURT NEVER』はあまりに名盤すぎてどの曲を選ぶかめちゃめちゃ迷いました。が、ここはストレートにリード曲“何なんw”をセレクトしました。初手の「あんたのその歯にはさがった青さ粉に ふれるべきか否かで少し悩んでる 口にしない方がいい真実もあるから」。恋愛ソングで散々使い古された「I Love You」を、こんな言い方できる人おるか? いや、おらん。彼じゃないと絶対に書けないですよ、こんな台詞。田舎の土臭さにまみれた歌詞と、洗練されたジャズのテンポ。これまでジャズを意識して聴いたことがなかったのですが、彼の音楽はラジオで初めて聴いた当時からストンと耳に入ってきました。要するに、ジャズとかロックとかフォークとかの違いを壁と思うなってことです。これは自戒。大サビ手前のスキャットの色気もたまらんので、是非。(丹)

待ってた!いやはや侮ってました。結構話題になってたので存在こそ認知してたんですが、「何なんwってなんなんよ」とイロモノっぽく見えるやつは敬遠しちゃう僕の悪い癖が出て聴いていなかったんです。しっかし聴いてみるとすごくいいですね。R&Bでよくある「Na Na Na」を「何なん」に置き換えるセンスは脱帽です。僕は日本語の方言で歌ってもご当地ソングかネタみたいにしかならないだろうと思ってたんですが、どう考えてもジャジーなエレガンスと対極に思えるその田舎の言葉が彼固有のフィーリングやドライブ感をこれでもかと引き出していて、目からウロコでした。だって僕が思ってたようなイロモノ要素抜きにして単純に響きとしておもしろいもん。めっちゃ言語表現の可能性を感じます。それだけにSUPER SONICは本当に観たかったな。来年来るかな?その時はぜひ一緒に観ましょうではありませんか。(阿部仁)


Violet Snow / 結城アイラ

毎度お馴染みアニソンの時間がやってまいりました。今月のレコメンドはこちら、京都アニメーション制作『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』から”Violet Snow”です。そもそも主題歌ではなく挿入歌として作中1度しか流れなかったこの曲は、しかし間違いなくアニメを見たすべての人の耳に残って消えない。繊細で美しい作画に寄り添う柔らかいメロディ、ピアノ旋律に溶け込む結城さんのゆらぎ、そして作中で曲が流れる完璧なタイミング。歌詞を解読してわかる、この曲は主人公・ヴァイオレットの世界の全てだった彼が、彼女に宛てた手紙だったということ。アニメで泣くことは滅多にないのですが、13話の終盤、この曲が流れてきた瞬間、初めて聴く曲だというのにボロ泣きしてしまいました。今も書きながら聴いていると、じわじわ感情が込み上げてきて泣きそう。それほど美しくて優しくて、人の心に寄り添う歌。(丹)

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は友人が勧めるのであらすじは知ってましたが、この曲はとても合いそう。なんか最初なんの気なしに聴いた時に「ディズニーかなんかの曲?」って思ったんですが、それくらいのエヴァーグリーンな普遍性を感じるメロディと歌い回し。それでいて変に扇情的でもなく、優しく抱き寄せるようなタッチには、「なにも心配しないで」と言われているような安心を覚えます。ちょっとこれが流れる場面めちゃくちゃ気になるじゃないですか。丹さんは知らないのに泣いたといいますが、僕は知ってるがゆえに泣くかもしれない。劇場版じゃなくてアニメの方?ネトフリ?単純にこの曲を聴くために観たいです。いい出会いをありがとう。(阿部仁)


あとがき

丹さんが意図したかは知らんけど、今回は僕の偏見を解きほぐすような選曲だなと思いましたね。back numberにせよ藤井風にせよ、こういう機会じゃなきゃ僕から積極的には聴かなかったと思うんですよ。それで妙なバイアスがかかった見方をずっとしてたんじゃないかと。そういう意味でこんな風に勧められて聴くという営みの尊さを改めて思い知った気持ちです。いやー、これ続けててよかったね丹さん。それではまた来月。なに選ぼうかな。楽しみに待っててください!

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