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Spotify交換日記 その2

アンテナ編集部の中でも典型的洋楽リスナーの阿部とJ-POPをよく聴く丹。一見すると全く趣味が合わないようにも見えるが、そこにはタッチポイントがあるはず。かつて相手の趣味を探りながら「これめっちゃいいよ!」「おお、いいじゃんこれ!」なんてCDの貸し借りをしたようなあれをやりたい。興味さえあればクラスタの枠なんて関係ないはず、そんな気持ちで自分にとって新しい音楽にワクワクしていきたいじゃないですか。朝の目覚まし、お昼時の眠気、夜のお休み前。日常を彩る音楽が少しでも華やかになれば、人生がもっと楽しくなるに違いない。そんな訳で第二回、始まります。

前回はこちら

第二回となる今回は私、丹から阿部さんへオススメ5曲をレコメンド。何を選ぼうかな、第一回では私の知らない音楽ばかりだったから、阿部さんにも同じ衝撃を与えたいな。その前に、改めて自己紹介を。

阿部 仁知(あべ ひとし)
アンテナライター。アンテナの他にfujirockers.orgやLIM PRESSでも活動中。フェスとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。
好きなアーティスト:Elliott Smith、Radiohead、My Bloody Valentine、中村一義、The 1975、Cornelius、Four Tet、曽我部恵一、Big Thief、ROTH BART BARON、etc...
Twitter:https://twitter.com/Nature42
丹 七海(たん ななみ)
97年生、大阪の田舎ですくすく育った行動力の化身。座右の銘は思い立ったが吉日。愛猫を愛でながら、文字と音楽に生かされる人生です。着物にハマりました。
好きなアーティスト:サカナクション、King Gnu、back number、椎名林檎、ポルノグラフィティ、[Alexandros]、Creepy Nuts、エレファントカシマシ、etc…
Twitter:https://twitter.com/antenna_nanami

丹から阿部へのレコメンド

Aoi / サカナクション
阿部さんのレコメンドを引き継いで歌詞のお話を。痛々しくて青臭い青春時代をとんでもなくオシャレに落とし込むのがサカナクションです。この曲に限らず、山口さんの書く歌詞は言葉数こそ少ないけれど一文字一文字の意味が重たい、ずっしりきます。「青」というワード1つをとってもカラーの青だけじゃない。海、青春、若さ……。さらにこじつけ感を感じさせず、すんなり耳に入ってくる「青」を彩る言葉たち。「深く青いという 絶高の世代」のワンフレーズだけで青春を連想させる山口さんの歌詞センスに脱帽。一生ついていく。

oI / SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
歌詞を語る上で、個人的に外せないのがこちら。澤野さんが紡ぐ歌詞は、意味が分からないことが往々にしてあります。[nZk]で初めて聴いた“A/Z”も日本語だか英語だか分からん歌詞だったのですが、まぁこれはアニソンだし……。ところがどっこい。oIも例に漏れず、何を言っているのか全く分からない。「ticktack-last-1│so what│alt-esc-Command」や「壊すとword│ENC-ode」など、口頭で説明できない音の羅列ばかり。“スマトラ警備隊”とは別のベクトルでの意味不明さを持った[nZk]をよろしくお願いします。

五月の魔法 / Kalafina
もう1組、外せないのがKalafina。彼女たちのアンサンブルは賛美歌かってぐらい美しいので、ぜひ音源を聴いてほしいです。さて、梶浦さんの幻想的でありながらも、剣と魔法のファンタジーにはならない世界観は唯一無二のものではないでしょうか。冒頭の「水色の夜明けは夢見てた 聞こえない波の音楽」というワンフレーズ。決して現実の香りはしないけれど、エルフ耳の少女が魔法をぶっ放す世界じゃない、みたいな。初めて聴いたときメロディと歌詞のセンスが綺麗すぎて息を飲みました。

Phantom Joke / UNISON SQUARE GARDEN
話は変わって邦楽のお話。Phantom Jokeはスリーピースロックバンドの最高傑作だと思っています。えげつないリズムを刻むドラム、舌を噛みそうになる歌詞を歌い上げるボーカル、やばい楽曲の作詞作曲を担ったベース。田淵さんの頭の中は一体どうなっているのか。しかし真にやばいのはBメロの入り。転調どころかリズムがまるごと変化して、AサビからBメロつながる数秒のギターは、まるでイントロまで巻き戻ったような感覚さえ覚えます。1曲の間にこれほどまでにリズムが変化する音楽を、私は聴いたことがありません。

FISH TACOS PARTY / [Alexandros]
メロディラインがめちゃめちゃ好きで、毎日聴いている1曲。アウトロで響くギターのメロディが何回聴いてもエモい。ハイトーンな声色で英語を軽やかに歌う川上さんの歌声と、低すぎず高すぎず、中音域で鳴り響くギターの音色がパズルのピースみたいにカチッとハマって音のうねりに進化する感じがすごく好きです。洋楽と邦楽の英歌詞の違いについて、私はまだ深くないので語ることができないのですが。彼らの音楽はそういった隔たりを取っ払ってすんなり入ってくる風に感じます。

私の好きな歌詞のお話、アニメのスパイスを添えて。今日びアニソンと邦楽の違いなんてあってないようなものだけど、アニソン歌手のアルバムはそう聴くきっかけがないのではないでしょうか。今回のレコメンドを入り口に、少しでも多くの方が聴いてくだされば幸いです。次はもっと邦楽の話をしようかな。802でヘビロテかかるようなやつ。

阿部から丹へのリプライ

Aoi / サカナクション
丹さんの挙げている「深く青いという 絶高の世代」のところ、最初「Let Go? 英語?」みたいに思って歌詞見たんですがこれ日本語なんですね。この“Aoi”は初めて聴いたのだけど、サビでの解き放ち方が面白いなと思いました。言葉としては同じ日本語でも、格式高い文体の内省を丁寧に歌うクワイア→フィルインから一気に解き放たれるエモーショナルな心情の移り変わりがうまいなあと。プロダクション自体の変化もそうなんですが、文体と歌い方でそれを表現してるのがかっこいいし、これはライブたまらんやろなあと。あとやっぱフック、引っかかるポイントをつくるのがうまいですよね山口さんは。多分Radioheadみたいなともすれば難解な音楽に憧れる人間の共通の悩みとして「大衆性 vs 芸術性」みたいな観念があると思うのですが、彼らは最先端でその解決し難い課題に立ち向かっている人達だなと思っています。またライブ観たい。

oI / SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
この方はまったくの初対面です。なんというかDÉ DÉ MOUSEにも近い意味内容以前の響きの面白さですよね。でも意味こそはてんでわからんものの歌詞という文字情報に乗った0と1のひんやりした感じや切なさが伝わってきます。そこにmizukiさんの快活な歌声とアコギが絡んできていい感じ。そう考えた時に人間味をどう捉えるかっていう観点がフッと出てきて、「君の不都合」の妙なピッチの上げ方が肝なんじゃないかとか思ったり、「alt-esc-Command」ってどういうショートカットだっけって思って小一時間調べたけど見つからないので余計謎が深まったりとか。深読みさせてくれる曲っていいですよね。

五月の魔法 / Kalafina
サビで「高める/盛り上げる」ではなく「深める/沈み込む」に移行する曲が結構好きなんですがこの曲がまさにそれで、ゴージャスというよりも寄り添うようなオーケストレーションとアンサンブルもそれを引き立たせていて、自然と世界観に入り込めます。正直いうとこの手の楽曲に感じる「アニソン味」みたいなものが苦手だったんですが、この曲は意外なほどスッと入れた、それは多分丹さんが言うところの空想世界のリアルではなくこの世界にコネクトするリアリティがあるからなんじゃないかなと思いました。ありがとうっす。

Phantom Joke / UNISON SQUARE GARDEN
やばいとかじゃなくてもうちょいあるでしょうよ丹さん、なんて思ったけど確かにこの臨場感と迫力には語彙力を失うな(笑)。とはいえ僕はテクニックそれ自体よりもそこに何が表象されているかに興味があるので、最初少し訝しげに聴いてたんです。でも圧倒的手数と変拍子多用でドラスティックに移行しながらもグルーヴ感をそのまま持続させているから自然と身体が反応するし、正確にリズムキープをしながらも画一的なノリに当て込めないゆとりを持ったリズム隊の演奏は、窮屈さを感じることもほとんどない。いや、すごいな。多分これは譜面以上の難しさがあるし、学生時代に「ユニゾンがコピーできない」と嘆いていたバカうまベースの友人の気持ちもちょっとわかった気がします。

FISH TACOS PARTY / [Alexandros]
いつだったかのCOUNTDOWN JAPANで当時[Champagne]だった彼らを観たことを覚えています。EDM感が強いキャッチーなフレーズとロックの躍動感がうまくミックスされててフェスで観たら気持ちいいやろなあと改めて思いました。でも全体を貫かれてる聞こえるんだか聞こえないんだかわからんアコギの質感がこの曲を一気に広げてるなあと感じるんですよね。“ol”もそうなんですがエレキではなくアコギで弾くから生まれるドライヴ感ってあると思うんですよ。あと僕は日本人と外国人の英語詞には発音以上に節回しや文体に違いを感じるのですが、川上さんやエルレの細美さん、さらに言えば日本のパンクロックはそのある種のいなたさみたいなものを大きな武器にしているように思うので、優劣とかではないそれぞれの良さやなあと感じています。

あとがき

今回強く思ったのは「僕のようなやつの方こそ根が深くて厄介だな」ってこと。なまじ色んな音楽を聴いてるつもりでいるが故に「ああいうのは僕に合わない」という固定観念をいかに積み上げているか。今回じっくり聴くことで、バイアスまみれだったんだなということを実感できた気がします。なんとなくわかった気になってスルーしてたけど、まだまだ僕の知らない音楽の良さはあるんだなあと改めて。

この企画は元はと言えば「丹さんに色んな音楽を知ってもらおう、ひいては日本の音楽しか聴かない人にも色々聴いてもらおう」みたいな僕の願望から始めた部分があるんですが、いやはや、僕の方が学ぶこと多いなと。ありがとうっすよ。こんな風に教える側/教わる側ではない対等な距離感でこれからも楽しんでいけたらと思います。では来月また!

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