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クリエイターと価格設定の悩み。価格設定もアートかもしれない。

こちらは、いつか自分で事業をやってみようという方や、既に事業を行っている方向けに「経営とお金」という視点から、普段の生活や事業に役立ったり役立たなかったりするような「問い」について考えてみようというnoteです。

改めまして、一般社団法人コンセントの菅野です。銀行員、会社員を経て、現在は地域密着で法人・個人事業主向けの経理財務サポートを行っています。

今回も、よろしくお願いいたします。


はじめに

クリエーター、アーティスト、デザイナーなどの定義は、ある程度の共通認識はあるかもしれませんが、その意味は文脈によって様々です。

この記事での「クリエーター」の定義は、アート(的な概念や手法)を手段として創作・制作活動を行う方とさせて頂きます。

※「アート」の定義もやり始めると話が始まらないので、ここでは触れません。


クリエーターと価格設定の悩み

街や公園を歩いているとクラフトマーケットなどのイベントを目にすることが増えてきました。素材やデザイン、世界観など出展者の方々の想いが込められた作品を見て回っていると、あっという間に時間が過ぎていきます。

お客さんとして色んなブースを見て回るのは、ただただ楽しいだけなのですが、出展する側の視点からすると、ブースに立ち寄って貰えるか、気に入って貰えるか、購入して貰えるか、という部分も気になるところかと思います。

私の場合は何かを創作・制作するわけではなく、そのような何かを生み出す方々の裏方のお手伝いをすることが仕事なので、共感するのはおこがましいのですが、やはり、自分の作品やサービスに自分で値段を付けて世に出すのは、とても勇気がいることだと感じます。

また、作品の適正価格とは?、、といった技術面に加えて、果たして自分の作品に値段を付けて良いのだろうか、、といった心理面でも神経を消耗します。実際、経営支援をさせて頂くなかでも「価格設定」というトピックは必ず話題になります。

今回は、そんな価格設定の悩みについて考えてみたいと思います。


そもそもお金を頂いて良いの?

価格設定の前に、まずはそもそも自分の作品に値段を付けてお金を貰って良いのだろうか?、、ということについて考えておきたいと思います。

結論から言うと「自信を持って稼いでください!」という話なのですが、これは、いったんお客さんの目線から考えると納得しやすいかもしれません。

仮に自分が誰かの作品にお金を払った場面を想像するとどうでしょうか。もしかすると、その作品の機能性や実用性に価値を感じたかもしれません。または、作品の世界観や外観、質感に感覚的に共感したのかもしれません。あるいは、実用性と感性のバランスが自分にとって心地良い作品だったのかも。。

そうして作り手の立場に戻ってみると、自分の作品も誰かにとっての心地良いモノになるイメージが思い浮かぶのではないでしょうか。

このように考えると、自分の作品に自分が納得できる値段を付けることに対する違和感が多少は和らぐのではないでしょうか。その値段も含めて価値を感じてくれた方と作品の出会いは、双方にとってとても幸せなことじゃないかと思います。


価格設定の方針

そうすると今度は、自分の作品の値段をどうすれば良いのか、自分(とお客さん)が納得できる値付けなんてできるのか?、、という問題が出てきます。

この問題に対して万人に共通する答えは無いので、ここでは自分にとっての値付けについて考える「とっかかり」を探っていきたいと思います。


自分の人生における、創作・制作活動の立ち位置は?

価格設定の方針を決めるために、まずは自分の活動の重心が「自分」「人」「お金」のどこにあるのかについて、改めて確認しておくことが重要です。

【問1】
人のために作るのか、自分のために作るのか?

【問2】
その活動で生計を立てる必要があるか?

この2つの質問について考えることで、自分の重心が見えてくるかと思います。そして、答えによって次の4つのタイプに分かれます。

A 人のため×生計たてる
B 自分のため×生計たてる
C 人のため×生計立てない
D 自分のため×生計立てない

そして、どのタイプかによって、価格設定の方向性も決まってきます。それぞれのタイプについて見ていきたいと思います。

「A 人のため×生計たてる」タイプの場合

作品を買ってもらうことで生計を立てる必要があるため、何を作るか、いくらで売るか、の両方について真剣に考える必要があります。

例えば、生きていくために最低で毎月20万円稼ぐ必要があり、作品の原価率30%だとすると、毎月29万円くらいの売上が必要になります。(※イベント出展料やECサイト運営費用除く)

そして、毎月29万円の売上を目指すときに、1000円の作品を290個買ってもらうのか、5000円の作品を58個買ってもらうのか、というようなところから、じゃあ自分はどうする?、、と考えていきます。

もしこのような形で考えた時に、そんなの自分の作品じゃないとか、創作・制作のモチベーションやアイデアが湧かないという場合は、もう一度最初の質問に戻って、自分のタイプが本当は何なのか、についてもう一度考えてみても良いかもしれません。

もしかすると、何か別の仕事で必要最低限の収入を確保することで、本当に自分がやりたかったことが実現できるといった道もあるかもしれません。

「B 自分のため×生計たてる」の場合

自分が感じたことを作品として表現し、それが市場に受け入れられて評価され、価格が付くことで収入を得る。

言葉にするとシンプルですが、その結果を狙って自分の世界観で勝負するというのは、もはやそれは生き様です。この場合は値付けについて考えるというよりは、生き様に殉ずる覚悟が必要になるのではと思います。

天才モーツァルトもパトロン確保に苦労したことや、商業音楽家として成功を収めたベートーヴェンの資金調達の話は、アートで生計を立てることの大変さを象徴する興味深いエピソードだと感じます。


「C 人のため×生計立てない」
「D 自分のため×生計立てない」の場合

一方で、作品で生計を立てないとなると話は変わります。

そもそも値段を付けて販売する必要は無いかもしれませんし、原価で販売するのも自由(同じカテゴリーの方は嫌がるかもしれませんが)。逆に高額な設定をしても良いですし、あるいはNFTで販売してみても良いかもしれません。

もし何らかの評価やフィードバックを得たいと考えた場合でも、必ずしも金銭的な評価にこだわる必要はありません。自分が求める種類の評価に向かって直接的に活動することができます。

ただ、言うまでもありませんが、最低限の衣食住を確保する何らかの収入源が無いと持続不可能なスタンスでもあります。


価格設定の判断基準を持つ

ここまで、価格設定の方針を決めるために、4つのタイプについて見てみました。ここからは、自分の作品で生計を立てるための、自分の作品に値付けする際の判断基準について考えていきます。

価格設定に答えがあれば楽なのですが、せめて自分なりの判断基準を持つことで、試行錯誤しながら自分なりの答えに近づいていけるのでは、と思います。

世の中には、市場(マーケット)が存在しない、つまり値段が付いていないものは(ほぼ)ありません。なので、自分の作品が流通している市場で、どのような値付けが行われているかを見ることが、自分なりの判断基準をもって価格設定するための第一歩となります。


具体的には?

例えば、少しノウハウ的な話になりますが、市場をチェックするときのポイントとして、市場内の作品を次の4つの視点から見てみると、その市場ならではの切り口や価格帯の特徴が見えてきます。

あるモノの価値は、①基本価値②便宜価値③感覚価値④観念価値という4つの要素で捉えることができる、という考え方が実践的で参考になります。(※和田充夫「ブランド価値」)

※参考
ブランド研究における近年の展開 : 価値と関係性の問題を中心に
(著:青木 幸弘, pp53-55)

http://hdl.handle.net/10236/7291


各要素について見ていくと、

①基本価値
そのモノの本質的な機能や品質。例えば「Tシャツ」であれば、生地のカットや縫製に問題が無く、ちゃんと衣服としての機能を果たせるかどうか、といった存在意義。

②便宜価値
そのモノを使用・消費するにあたっての便宜性。例えば、そのTシャツはどこでも買えるのか、着心地、耐久性、コスパはどうか、といったプラスアルファの価値。

③感覚価値
そのモノを使用・消費するにあたっての感覚的、デザイン的な魅力。例えば、そのTシャツの色や形状、生地の質感が魅力的か。手に取りたくなるようなパッケージになっているかなど、そのモノ自体から受ける感覚的な印象。

④観念価値
そのモノ自体ではなく、コンセプトそのものが生み出す価値。例えば、そのTシャツのデザイナーや製造メーカーの世界観やストーリーに共感できるかどうか。CMやドラマ等で見かけて気になっている、などなど。

まとめると、①と②は「効用=製品力」③と④は「感動=ブランド力」とも捉えることができます。


簡単マーケット調査表

市場をチェックする時は、自分と同じカテゴリの作品を見ながら、勝手に点数をつけながらゲーム感覚で見てみるのがオススメです。

手書きでも良いので次のような表にまとめてみると、自分の立ち位置や、人気作品の立ち位置、あまり売れてなさそうな作品の立ち位置、そして、チャンスがありそうな立ち位置が見えてくるかもしれません。


(例)簡単マーケット調査表

    基本 便宜 感覚 観念 (メモ)
作品A    1     1    3     2 ←品質が残念
作品B    3     1    1     1 ←100均で良い
作品C    2     2    2     2 ←特徴無し
自分       ?     ?     ?     ? ←自分は?


価格設定も、やっていることはアート説

ここまでずっと、活動方針について考えたりマーケットについて調べたりと、インプット的なことをやってきました。このようなインプットを経てはじめて、アウトプットとしての価格設定に対する自分なりの答えが出てくることになります。

ここまで書いてきて、勝手ながら、価格設定とクリエーターの創作・制作活動は同じかも?、、と感じました。なにも無いところから何かを創造することは基本的には不可能で、自分と外部との相互作用の結果として、創作・制作物が生まれると思います。

ということは、すでに創作・制作活動を行っているクリエーターの方は、普段のインプットに加えて、自分の活動方針と市場の状況をインプットすることで、「価格」も作品の一部として一緒にアウトプットすることは、意外と自然な営みなのかも、、とクリエーターでは無い立場から勝手に感じています。


さいごに

ちょっと長くなってしまいましたが、「そもそもお金を稼いで良いのか?」「作品で生計を立てたいのか?」「市場の中での自分の立ち位置は?」、、これらの問いを自分にぶつけてみることで、自分の作品の価格設定について考えるきっかけや、とっかかりになれば幸いです。

これらの問いについて自分なりに考えた後であれば、ブランディングやマーケティング、価格設定についてなど、具体的なノウハウや答えはネット上でも本でもたくさん見つけることができます。

そうして自分なりに「これだ!」と思った答えは、例え万人向けに書かれた答えと同じだったとしても、それは自分だけの答えになります。あとは自信を持って進み続けることで、問いと答え、そして自分と作品も磨かれていくのかもしれない。。

そんなことを、価格設定の悩みというテーマを出発点に、色々と考えさせて貰いました。

ごあいさつ

最後までご覧頂きありがとうございます。

岩手県盛岡市を中心に地域密着で活動していますが、県内のみならず、ぜひ全国の都道府県の方々の「経営やお金」にまつわるお話も伺ってみたいと思っています。

また、事業をやってみようとお考えの方や、既に事業を行なっている方からのご感想、ご意見やご質問、「これについてどう思う?」といったお話についても、お気軽にご連絡ください。

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