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薬と再生医療―①再生医療の基礎と幹細胞―

こんにちは!


きょうです!


今回から

私の研究の専門分野である


「再生医療」と「お薬」


についてお話しようと思います。

再生医療という言葉を聞いたことが
ありますか?


今まで治せなかった病気やケガを
直すことが出来る可能性がある

夢のような医療分野です


日本が世界に誇る再生医療の世界を
分かりやすく説明しようと思います。

この記事は10分で読めます!

是非、あなたの10分を私にください。

薬と遺伝子


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目次

1.再生医療ってなに?
2.体の再生力の源
3.細胞
4.細胞のルーツ「幹細胞」
5.細胞を作る
6.iPS細胞


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1.再生医療ってなに?



再生医療は、体の中にある「生きた細胞」を使って、これまで治らなかった病気や怪我を治療しよう、という新しい医療です。これまでの薬では治らなかった病気や怪我が、「生きた細胞」を治療に使うと治すことができることがだんだんわかってきているのです。


薬とは「治療のために使うアイテム」です。ですから、治療に使うアイテムという意味から、細胞は「次世代の薬」だと考えられています。


錠剤、粉薬、点滴薬。そういった薬の最も新しいジャンルとして、「生きたヒトの細胞」が広がりつつあるのです。


実際、もう日本でも「生きた細胞」は薬として販売されています。まるでSF(サイエンスフィクション)の映画のようですね。


この記事では、再生医療という分野のなりたち、おもしろさ、そして困っていることを解説しながら、「薬」や「治療」という分野で求められている新しい「ものづくり」について紹介したいと思います。


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2.体の再生力の源


私たちの体には、傷を修復・再生させる力があります。
切り傷はいつの間にかふさがって治りますし、折れた骨もいつかつながっていきます。肝臓は、手術で半分以上を取ってしまっても、また元に戻っていきます。


これは、私たちの体を構成している細胞が、一生懸命働いて、トラブルに陥った環境を「再生」してくれているからなのです。


ところが、どんな傷でも治るわけではないことも私たちは知っています。


傷は、深ければ跡が残ります。神経が傷つくと痺れが残ります。脳や脊椎が損傷を受けてしまうと、現在の医療では元に戻りません。


この再生能力の差は、一体何が原因なのでしょうか。


そのカギを握っているのが、私たちの体の中にある「細胞」です。

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3.細胞


細胞は、私たちの体を構成する生きた粒(ツブ)です。


ニワトリの卵やイクラは、肉眼で見える細胞の1例ですが、多くの細胞は数十~百ミクロンですから、肉眼でこのツブツブを見たり、感じたりすることはできません。


細胞は、栄養を取り込み、老廃物を排出しながら、生きています。お互いにくっついたり、つながったり、分裂して増殖したり、アメーバのように動き回って生きています。


もちろん、その動きはとてもゆっくりですから、普段私達が感じることはないのですが、顕微鏡で細胞のビデオをとって早回しをすると、細胞は一つ一つが意思をもった生き物のようにうごめいています。


そんな生きた細胞が、私達が病気になったときや怪我をしたとき、これを治療しようと一生懸命働いてくれる仕組み。それが私達の体の「再生の力」の源なのです。



では、細胞はどこからやってくるのでしょうか?



私達の体には、細胞が数十兆個もあると言われていますが、全ては「大元」まで遡ると「受精卵」という1つの細胞へとたどり着きます。


筋肉も、歯も、神経も、全然異なる様相を示すこれらすべての大元は、たった1つの細胞だったのですから、生命は本当に不思議ですね。


見方を変えると、大元である受精卵という細胞は、どんな細胞でも作り出せる細胞、とも言えます。


受精卵から、人間のすべてのパーツが出来てくるのですから、
「受精卵を研究したら人間のパーツを全部作る秘密がわかるに違いない」
と考えるようになったわけです。


このような細胞を研究して、人がどうやって形作られていくのかを解き明かすのが
「発生」という分野の研究になります。

受精卵

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4.細胞のルーツ「幹細胞」


受精卵の何が「体を全部作るパワーを持っているのか」という研究が進み、やがて研究者は、受精卵の一部の細胞だけ取り出しても、いろいろな体の細胞が作り出せることを知りました。


さらに、同じような能力を持った細胞は、体の至るところからも見つかりました。骨の中、脂肪組織、血の中など、受精卵の中以外にも、すごい能力を持つ細胞が存在したのです。


受精卵そのものではないけれども、どんな細胞も作り出せる(万能な)細胞は、「幹細胞」と呼ばれるようになりました。


どんな細胞でも作り出せる幹細胞が、実は体のいろんなところにいるということは、体の修復や再生の源になっているかもしれないと研究者は考えました。


体の傷や病気を治療するため、生きた組織を他から持ってきて補強しようという試みは、移植医療として昔からありましたので、同じように
「幹細胞を移植したらいいのでは?」
という治療の研究が進みました。


研究の結果、幹細胞を移植すると、移植部位の再生が促進されて症状が改善することがわかってきました。幹細胞は確かに、体の修復や再生の大事な存在だったのです。


また、幹細胞はいろいろな細胞の大元ですので、幹細胞から人工的に「好きな細胞」を作ってそれを移植するという研究もたくさん行われるようになりました。


神経が足りない部位には、神経細胞を、
軟骨が欠けたときには、軟骨細胞を、
心臓が弱ったら筋肉細胞を移植する、
という治療が生まれたのです。



結果として、細胞を使うと、今まで治らなかった病気や怪我が治ることが、どんどん証明されることとなりました。


まさに「細胞の再生パワー」を借りた治療、これが再生医療(細胞治療とも言います)なのです。

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5.細胞を作る


細胞は、私達の体の中でこそ生きて活動していますが、体の外でも「生かして飼う」ことができます。この「飼う」ための技術が、細胞培養です。


実際のところ、カエルやマウスなどの動物細胞は、100年も前から体外で培養されてきました。


体外で細胞を培養できるようになって初めて、我々はいろんな病気のメカニズムや、薬の研究開発がより深く行えるようになりました。多くのノーベル賞も細胞を培養した研究から生まれるようになりました。


さらに培養技術が発展すると、今度は細胞を観察するための研究材料としてだけではなく、ものづくりのためのツールとして使う技術が発展しました。


体の中で細胞は、とても複雑な形をもつたんぱく質をどんどん作り出して、周囲に提供しています。遺伝子を人間がデザインすれば、好きなものを作り出すことも可能になるわけです。


このパワーを借りて、1970年ごろからは、動物細胞を工場で大量に培養して、細胞にお薬になるたんぱく質(ホルモンやワクチンなど)を作らせる産業が発達しました。(この種類の薬はバイオ医薬品と呼ばれます)


細胞が作るたんぱく質は、実際に体の中の機能調節を担っていますので、人工的に作った化学物質でできた薬よりも、優れた効果が多いことがわかってきました。


現在、世界で最も売れている薬をランキングすると、トップ10位中ほとんどの薬が「細胞を使って作られた薬(抗体やワクチンなどのたんぱく質)」となっているほどです。


このような状況に加えて、細胞を使うと薬では治らなかった病気や怪我が治る、とわかってきたので、
「ヒト細胞をいろいろな治療に使いたい!」
「もっともっとヒト細胞が欲しい!必要なときに、好きなだけ欲しい!」
と考える人が急速に増えてきました。


まるで、マンガのマッドサイエンティストのような展開になってきたのです。


科学には、パラダイムシフトと呼ばれる大きな時代の変化が顕れることがあります。昔はわずかしかなかったものが、急に膨大に世の中に出回り、社会を変えることがあるのです。


細胞は、まさにそんな存在となりつつあります。


薬の多くは昔、小さい分子量の化学物質ばかりでした。


しかし、細胞でタンパク質が作られるようになると、新しいジャンルの薬として前の薬では治らなかったものが治るようになり、大量生産が求められる時代が来ました。


今、細胞は、化学物質やたんぱく質では治せなかった病気や怪我が治る可能性を示しています。細胞は、これまでの薬と違って「自走して動いてくれる」ような機能があります。また、自分自身が分裂・増殖し、その場の環境に適応しながら体を「自己修復」してくれるような機能もあるのです。


つまり、細胞は「次の新しいジャンルの薬」として、世界に求められ始めたのです。

これは、歴史の中でも、とても新しいムーブメントだと言えます。

培養

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6.iPS細胞


再生医療は、細胞を使った治療です。私達の体の中で活躍している細胞を、人工的に体の外で培養し、活性化させたり、機能を高めたりして治療に使います。


ところが、ヒトの細胞を培養するのは、とても難しいことでした。


まず、体の中にある多くの細胞は、体外で人工的に培養を長く続け過ぎると、元気がなくなってしまうのです。増えなくなったり、本来もっている治療のための機能が落ちたりしてしまうのです。


つまり、培養して増やせる細胞の数には限界がありました。


再生医療の治療では、大量の細胞が必要です。治療のタイプによっては、何億個も必要になります。細胞を増やしきれず、十分に数が準備できないのはとても困ったことなのです。


また、治療に欲しい種類の細胞が、なかなか手に入らない、ということも大きな問題でした。


私たちの体の中の細胞は、赤ちゃんのような幹細胞からスタートして大人へと育ち、いろいろな仕事に特化して就職していきます(この過程は分化と呼ばれます)。しかし、一度分化してしまった細胞は、職場(細胞が働いている組織)にしかいないので、欲しい細胞は組織を手術で取るしか手に入れる方法がなかったのでした。


ところが、脳神経の細胞が欲しくても、元気な人から脳神経をとってくることはできません。心臓の治療に必用でも、だれかの心臓から細胞を奪うことはできないわけです。


このような問題や悩みを大きく解決したのが、京都大学の山中伸弥先生が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞: induced pluripotent stem cell)でした。



iPS細胞の技術とは、簡単に言えば「一度仕事についてしまった細胞の人生を、赤ちゃんの状態まで巻き戻す」技術です。(この技術は、リプログラミングとも言われます)


この技術は「欲しい細胞は、元気な組織を傷つけてしか得られない」という常識を粉々に吹き飛ばしました。


どんなに入手が難しいと考えていた細胞でも、皮膚や脂肪など、手術で手に入る細胞があれば作れてしまうことになるからです。分化した細胞を、初期状態に巻き戻してiPS細胞を作り、それを元にして欲しい細胞を作れてしまうのです。


これまで、いろいろな細胞を作るために受精卵(命の始まり)を使わなければならなかったことに比べ、iPS細胞はいろいろな細胞を入手する革新的ツールとなりました。


さらに、iPS細胞の特性は、細胞増殖の限界という縛りも取り払うものでした。


iPS細胞のような幹細胞は、ほぼ無限に増えるのです。


大量に増えるし、どんな細胞でも作れる。iPS細胞はヒト細胞を培養していた研究者にとって最高のアイテムとなりました。


細胞を治療に使う再生医療、そして薬の研究者や生命メカニズムの研究者にとって、iPS細胞は四次元ポケットのようなものです。どんな細胞でも、無限に出してくれるのですから。


このためiPS細胞が発表された2006年以降、再生医療は急速に、遠いSF的なお話ではなく、実現可能な新しい夢の技術となったのです。


再生医療

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今回は以上です。


次回は、「iPS細胞」について

詳しくお話出来たら嬉しいな
と思っています。


少しでも、
「再生医療って面白いな」
「興味あるな」

と思っていただけたら嬉しいです。

ありがとうございました。



きょう

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