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【食エッセイ】死ぬまで食べ続けたいパスタ「メランツァーネ」@国分寺 「メランツァーネ」

誰にでも、これを食べたら元気になるという食べ物があると思う。それは好物だったり、食べたら体調が良くなるものだったりさまざまだろう。

私の場合はこれ。地元国分寺にある老舗イタリアン「メランツァーネ」の看板メニュー「メランツァーネ」。

メランツァーネとはイタリア語でナスのこと。

初めて食べたのは小学校低学年のとき。近くの音楽教室でバイオリンを習っていて、その帰りによく母と食べに行っていた。

当時はお子ちゃまだから、たらこスパゲッティとかミートソーススパゲッティを食べていた(昔はパスタではなくスパゲッティと呼んでいた。時代を感じる)。

私がミートソースを頬張る横で母が食していたのがメランツァーネだ。私は食いしん坊だから自分が頼んだものは誰にもあげずに一人で平らげたい人。だから、人のものには興味がない。しかし母はその逆で「一口ちょうだい」がお決まりだ。昔はこれが大嫌いだったわけだが、このときだけは感謝している。言われなければ、私はずっとミートソースを食べていたかもしれない(言っておくが、もちろんミートソースも美味しい)。

一口もらって衝撃が走った。

う……うまい!!!

ニンニクとアンチョビが奏でるなんとも言えない絶妙な味わい。アンチョビをそのまま食べたらきっと嫌いになっていたけど、オイルベースのシンプルな味に絶妙に溶け込んでいるから、変なしょっぱさがない。さらに、ニンニクの旨味と香りがうまいこと混じり合って、素晴らしき化学反応を起こしている。


主役のナスは艶々の紫にオリーブオイルが染み込んで青みがかった果肉が美しく、家では再現できないジューシーな仕上がり。グジュグジュ感は一切ない。

とにかく、それまでに食べたことのない美味しさで、子どもながら驚いた。

それからというもの、ここで食べるのはメランツァーネ一択。いっつもこればかり食べているから、母が「たまには違うの食べたら?」と心配するくらい。でも、これ以外絶対に食べたくないのだ。私が人生で最も食べたパスタはメランツァーネと断言できる。

どれだけこの味に支えられたことか。仕事で疲れたときも、全てが嫌と感じたときも、これを食べたらホッとして、たちまち元気になった。

昨日で仕事がひと段落つき、妙にお腹が減った。気がついたらメランツァーネを2カ月ほど食べていない。たまらなく食べたくなって、すぐに店に向かった。

まずは駆けつけ一杯。白ワインなのにガブガブ飲んでしまった。
大盛りを食べたいところだけど我慢して中盛り。

久しぶりのメランツンァーネ。このシンプルな見た目から想像できない美味しさが口の中で繰り広げられる。

一口頬張ればもう止まらない。ニンニクの香りが食欲をそそるそそる。一口食べるたびに旨みが溢れ、私の末端神経、血管まで旨味が行き渡り、私のエネルギーとなっていく。食べるほどに充電されるようなイメージ。美味しいし生きてて良かったと思える味。私にとってメランツァーネは単なる好物ではない。食べれば生きる活力が湧き上がってくるパワーフードなのだ。

国分寺に住む限り食べ続けたい。いや、これを食べるために国分寺に住み続けるのだと思う。もしどこかに移住しても、必ず食べたい味。最後の晩餐ではもちろん食べたい。メランツァーネはそれくらい私にとって欠かせない。

食べ終わった後の満足感はしばらく続く。そして、また私は頑張れる。国分寺に来たらぜひ食べてほしい味だ。これを食べずして国分寺のイタリアンは語れないぞよ。

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