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【エッセイ】サザエさん症候群

亡き父は、サザエさんが好きだった。
なんの変哲もない日常をおもしろおかしく、ときに感動を交えながら伝える。よくできた話だと母に力説していたらしい。これを聞いてから、私もサザエさんの見方が変わり、途端に好きになった。父が言ったからということもあるが、歳を重ねるごとにサザエさんの素晴らしさを感じている。

サザエさんの時間になったので、彼に見るよと伝えると、彼はこう言った。

「俺ら会社員はさ、サザエさんを見るとサザエさん症候群で明日行きたくなくなるんだよ〜」

そうだった。サザエさん症候群があった。

個人事業主になってから土日関係なく働く私にはご無沙汰な言葉だった。クライアントのオフィスに行くのは自分の予定次第。取材で外出することもあるが、取材のほとんどがオンラインなので外出自体が少ない。1週間の大半が在宅勤務の私には、サザエさんを見ても「明日行きたくない」と思うことがないのだ。

とはいえ、私もかつては会社員だったし、もちろんサザエさん症候群経験者だ。だから、彼の気持ちはわかる。

けれど、彼の言葉に言い返したくなった。
最近仕事で忙しく、ストレスが溜まっているのを知っているから、元気づけたいと思った。そこで、私なりにエールを贈った。

「サザエさん症候群はわかるけどさ、見方を変えてみたら? あぁ明日が始まる、じゃなくて、また明日から1週間始まる、良い1週間にしよう!って」

なんと優しい彼女ではないか。我ながら良いことを言ったと自惚れたが、本当にこう思う。

嫌だと思ってしまうときは誰にだってある。けれど、見方を変えれば浮かない思いも意欲に変えることはできる。

逃げたくても逃げられないときは、自分の心持ちや考えを変えるしかない。

そんな気持ちで渾身の言葉を贈ったのだが、彼の反応はイマイチ。なんだよぉと思いながらサザエさんを一緒に見ていると、思ったよりもサザエさんを楽しんでいる彼がいた。

波平が自分のへそくりをフネと一緒に観劇するために使ったくだりに「波平優し〜」と声をあげていた。見ながら憂えるよりも、笑ってくれるならそれでいい。

サザエさん症候群になるのは痛いほどにわかる。けれど、個人的にはサザエさんをもっと見てほしい。驚きや感動、優しさなど、幸せと感じることは身近なところに転がっている。幸せを見つけるのは自分次第ということに気づかせてくれる。それがサザエさんだ。

サザエさん症候群の人ほど見てほしい。見ているうちに、身の回りにある幸せや楽しさを見つけようと思えるかもしれない。そうすると、物事を見る角度が変わって、心が少し軽くなるかもしれない。サザエさん自体はとても素晴らしい作品だから、サザエさんを見て元気になってほしいと切に願っている。




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