「 ひそやかに私を守り、満たすものを 」

深い思考の中で長い時間をかけて育まれ、静かに強く根付いていったものは本当に魅力的だと思う。
色んなものが簡単に手に入る時代になった。ワンクリックで知れるし、目にすることができる。手に入れることだって簡単だ。
 
反対に、時間をかけること、手探りで頭を悩ませながらじっくり歩みを進めること、静かに確かに自分の物にすることができなくなっていっている気がする。意味を持たず、無駄のようで、心細くて、簡単で便利な道が煌びやかに広く開かれているからこそ余計に、そこで踏ん張り続けることができなくなってしまうのである。
 
流行。おいしいもの、可愛いもの、楽しいこと、おしゃれなこと。
調べて、お金を出せば、手に入る。
ただ、それでは味わいの深さは皆同じになってしまうのではないだろうか。それらで満たしていく心は、本当に満足できているのだろうか。
知識の育みや貯えがないと味わうことのできない楽しさを味わいたい。見ることのできない世界を目にしたい。心を満たす術をもって痛い。私はそう思う。
そのためには、「時間」がいる。ワンクリックではなく、まず時間を費やさなくてはならない。でもそれは、世界を何倍にも増やしてくれるのだと思う。
 
博士の愛した数式を読んだ。
博士は「数学の世界」を知っている。博士は、数学の美しさを伝え、数学の世界へと周りを静かに誘いう。
 
知識を増やすこと、知ることは、世界をより一層美しく見せてくれる。ということをこの本でも教えてくれる。
今までは、気に留めなかった者たちに命が宿る。意味を孕み、立ち止まらせてしまうほどの魅力を持つ。心に静かに根付いていく。
「君はルートだよ。どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルートだよ。」
「博士は腕を一杯に伸ばし、長い足算を書いた。それは単純で規則正しい行列だったどこにも無駄がなく、研ぎ澄まされ、痺れるような緊張感に満たされていた。」
「表向きの役割に忠実でありながら、裏に隠された本来の意味を健気に守り支えていた」
数字や数式に美しさや、楽しさや、素敵さを見出すことができたとき、世界の幅は静かに広がる。
 
もうひとつ深く奥まったもので、自分の人生を心を満たしてあげたいと思うのだ。
静かに時間をかけて根付いたものは、簡単に壊れたり崩れたり、他に犯されることもない。
他に自慢したり、見せつけたり、言葉を必死に並べて語ることでもない。
それは、自分の中に密やかにあり続け、支える存在となりえるのだと思う。

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