小説「仇討ちのブラッドフラワーズ③」~ジョジョの奇妙な冒険より

 こんばんは。私です。あれからどれくらい経ったのだろう。沈む夕日をいくつ数えただろう?などと、長渕剛さんの「乾杯」みたいになってますが。
 
 お名前を頂いたしやってみよう!と思って書き始めた「ジョジョの奇妙な冒険」の二次創作。あぐねてあぐねて、季節は秋を迎えてしまいました。今年中に終わるのでしょうか?ディマイヤの行く末を、皆さんにお伝えすることは出来るのでしょか?
 過去のを読んでから、続きをどうぞ。

                Ⅲ             
 
 アニキの部屋で、ある仕事のメモを見つけた次の日。ディマイヤは、クアラルンプールを経て、タイへ向かう電車のなかで目的の男たちを見つけた。アニキは、暗殺の依頼を誰かから受けていたようだった。

 ひと月ほど前に、突然アニキが、「どでかく儲けそうな仕事を依頼されるかもしれない」と言いのこして、10日ほど姿を見せなかった時があった。帰ってきたアニキは、これまでの不遜な態度のかわりに、より怒りっぽくなり、なにかにおびえるような態度を見せるようになった。ディマイヤが機嫌を取ろうとしたら、あのゼリーで首を絞められた。
「オメーのような役立たずの出る幕じゃねえんだ……オレが三人ともやってやる!」……そのやり取りが最後だった。

 部屋は荒れていたが、3枚の写真と、メモを見つけるのには苦労しなかった。メモには、3人の男の写真が添えられ、名前と簡単な情報が記されていた。Mr.DIOという名前も記されていたが、それは関係がなさそうである。3人の名前の下にはそれぞれ、「強大な力」、「念写」、「炎」とあった。念写?念を写す……。それは、もしかして。ディマイヤは自分のペンのことを思い出す。自分のペンは、念じたままに出し入れできて、自分の意思で消せる文字が書ける。アニキのゼリーもそうだ。そんなアニキに依頼が来たということは……。この3人も、僕やアニキと同じような能力が使えるというヤツら、なのか。

 しかし、物売りに扮して、彼らと同じ列車に潜り込んだディマイヤは新たな問題に直面していた。

「増えてるじゃないか!なんだ、あの二人は!」

 ジョセフ・ジョースター。一行のリーダーらしい白髪の老人。体格が良く、顔つきや所作は若々しく陽気で、70歳に近いようには見えなかった。
ジョセフの半分くらいの年齢に見える、モハメド・アブドゥル。占い師らしいが、職業の選択を間違えたかのような肉体で、座席に窮屈そうに体を押し込めている。
 そして、ジョセフの孫であり、年齢でいえば、アブドゥルの半分くらいでしかない、空条承太郎。一行の中で一番若いはずなのだが、もっとも落ち着いて見えた。こんな旅など慣れっこだ、とでも言うように、奇妙な帽子を目深にかぶって、車窓の外に顔を向けて寝ている。服装も帽子と同じくらい奇妙なものだった。軍服なのだろうか。彼もまた、恵まれた体格だった。 

 屈強な男が三人。それだけでも、ディマイヤの心をひるませるのに十分だったのに、三人のはずの標的に、二人の男が加わっていた。
 承太郎と同じくらいの年齢の、赤っぽい色の髪をした男。舌先でチェリーをもてあそんでいる。よく見ると、服装も承太郎と似ていた。
 もう一人は、ヨーロッパ系の若い男で、銀色に塗った柱を頭にのせたような、奇抜な髪形をしていた。彼も陽気なタチらしく、大げさな身振りを交えて、ジョセフと談笑している。
 
 最初に彼らの横を通り過ぎた時は、驚きのあまり声が出そうになった。一人対三人、不利なのは承知で、一人ずつなんとか始末する方法を考えてはいた。しかし得体のしれない二人の男が増えているとは……!ジョセフたちと一緒にいるということは、彼らもまた、何らかの能力を持っていると想定できる。あいつらは、まさか、五人がかりでアニキをやったのだろうか?そうにちがいない。アニキのゼリーに勝てる奴はまずいないだろう。
 いや、だけど。僕やアニキの知らない、もっとすごい能力を持つ奴がいるとしたら?それがあいつらだとしたら?ディマイヤの胸中に、混乱と畏怖が広がっていく。自分自身の血液を使う「ブラッドフラワ―ズ」は最後の手段である。それはどうにか使わずに、彼らを倒せると思っていた。

「そのチンケなペンはよーッ、せこいとこが唯一の取り柄だよなあ。相手の力を気づかれないうちに奪っちまえるとこがよ。もっとも、タネがわかっちまえば、おめーがボコボコにされてアウト!だがよ!」
 
 アニキの言ってたことは、正しい分析だった。「能力を持つであろう者」が五人。そいつらを確実に葬りさるにはどうすればいいのだろう。メモによると、三人はエジプトまで旅を続けるそうだった。そこに何があるのかはわからないし、しかも、日本から来たなら飛行機で行けばいいものを、酔狂にも鉄道を使っている。次の大都市であるクアラルンプールに着くまでには、まだ少し時間がある。計画を練り直すか。そう考えたその時。フランス男とおぼしき陽気な声が、ディマイヤを呼びかけた。

「ねーッ!そこの兄さん!なんか売ってんだろッ?ちょっと俺たちに見せてくんないかなー?」
 
 まずい!見られていたのか!聞こえないふりをしていったん逃げるか?いや、かえって怪しまれる?ディマイヤの体と心は、一瞬固まってしまった。
「ポルナレフ、デカい声を出すんじゃあない。観光じゃないんだぞ?」
 低い声ではっきりと聴きとれなかったが、アブドゥルという占い師の男が、フランス男をたしなめたようだ。

「あーあー。悪かったよ、そういや、新入りの挨拶ってやつがまだだったな、と思ってね。皆に飲み物でもおごってやるよ。もちろんアブドゥル、あんたにもさ」
 フランス男は派手な身振りで今にもこちらに向かってきそうである。しかたない!ディマイヤは腹をくくった。ここは、様子見をするんだ。幸いにも、売り物としてコーラを用意していた。一応、五本ある。

「はーい!タダイマ!行くネー」
 
 片言を装いながら、彼らに一瞬背を向けて、ディマイヤは準備していた、見えないペンで文字を書いた紙をポケットから引っ張り出した。主に、日本人旅行者に見せていた文字だ。意味は未だ分からないけど。今まで使用した回数は、これが一番多い。この文字はなぜか、日本人の虚を突くようなのだ。ディマイヤが振り向くと、フランス男が手招きしている。

「ねーお兄さん、飲み物あるかい?」
「ハイハーイ、ありまスよー。お待たせー」
 
 フランス男の英語は、ディマイヤより幾分マシ、という程度のモノだった。なんとか聞き取れるだろう。

「あーん、コーラしかないのかー。まあいいか。みなさーん。ムッシュポルナレフからのご馳走ですヨーっ」
「やれやれ、うるさいやつじゃ。しかしのども渇いたな……いただくとするか。ホレ、花京院、承太郎を起こしてやれ」
「承太郎、ポルナレフのおごりだそうですよ。いただきましょう」 

 ジョセフと、カキョーインと呼ばれた青年が、窓際の席で目を閉じていた承太郎に声をかけると、ううっ、と唸り声をあげて、承太郎が帽子の奥の目を開いた。ディマイヤに鋭い目を向けてくる。その鋭さは、今まで見てきたどんな悪党の目線よりも、恐ろしいものに感じた。

「ま、みなさん乾杯といこうじゃないか。で、お兄さん、いくらだい?」
 
 承太郎の視線に射すくめられて、ディマイヤはびくついてしまった。

「待ちな……ポルナレフ」
 
 財布を出しかけたポルナレフを、承太郎が呼び止めた。ドスの利いた声だった。利きすぎてるくらいだった。

 (続く)

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