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映画「ザ・サークル」からスマートシティを考える

 今回は2017年に公開された映画「ザ・サークル」の感想を書きます。なぜ2017年の映画を今更話すのかというと、2020年の今になってからこの作品を見たほうが、当時よりリアリティを感じられると思ったからです。


あらすじ
 超巨大SNS企業「サークル」の社員となった主人公メイ(エマ・ワトソン)は、やがて会社の影の側面を知ることになり…。


 僕はこの映画をネットの評価が低いという理由で今まで見てきませんでした。しかし、2020年の今になってこの作品を鑑賞して見てみたら、現代を考える上でかなり興味深い作品だと感じました。今日はそれについて書きたいと思います。

VLOGのようなディストピア

 主人公メイは、「サークル」の社員として、奮起して働き始めるのですが、物語の中盤で、会社のサービスとして「シーチェンジ」という名の超小型カメラを装着し、SNS上で自らの生活を24時間公開することとなります。これは経験の共有が基本的な人権だというサークルの思想に基づくサービスです。メイは朝起きた瞬間からVLOGを撮っているかのようにフォロワーに語りかけていました。しかし、当然ながら生活を公開するということはメイ自身のプライベートがなくなることを意味します。この映画ではSNSで監視され続ける負の側面を描がかれているように感じました。それはディストピアとも言えるものだと思います。

スマートシティはディストピアなのか

 この映画、2017年時点では、当事者意識を持って鑑賞するのが難しい作品だったと思います。メイは「サークル」の社員として監視生活を受け入れますが、映画の視聴者は普通に生きていたらメイのような状況になることはないと思うでしょう。SNSをやっていない人からすれば、全く関係のない話です。

 しかし、2020年の現在、AI、Iot、スマート○○といった言葉が世の中に浸透し、それらの新テクノロジーを実現するには、個人情報をビッグデータの一部として提供しなければならないということも知られ始めていると思います。スマートシティの推進が進めば、個人情報の提供は他人事ではありません。自動運転や遠隔医療の実現には、個人の位置情報や健康状態を政府や企業に提供する必要があります。便利さの代償として個人情報を提供できるかどうかを私達は考える必要があります。

 この映画では、液体センターを飲み込んで健康状態のデータを企業に提供し、健康問題の予防に活用するといった技術が登場しました。これはもはやフィクションの話ではなくなってきていると思います。健康のためにプライバシーを犠牲にできるかを真剣に考えなければならない時代がすぐ近くまで来ているのです。

 さらにこの映画で興味深いには、国の選挙登録にSNSのアカウントを利用し、効率的な事務を実現しようとするアイデアが社内会議の議題として上がっていました。これは、選挙という民主主義の根幹を成すような重要な事務を1社の民間企業に委任するのを意味していると思います。スマートシティを推進することになれば、国の事務を民間企業にどこまで任せていいのかを議論することも今後の課題となってくると思います。

「ザ・サークル」には正解は描かれていない

 この映画には、明確な正解が結論付けられてはいません。分かりやすい敵は出てこないし、モヤモヤするような終わり方をします。今、現実で行われているスマートシティの議論も分かりやすいものではありません。だからこそこの映画はリアリティがあり、視聴者に考えさせる余地を与えています。

 スマートシティについて「よく分からないけど面白そう」「良く分からないし不安」などの感情を持っている人にこの映画をおすすめします。スマートシティについてのイメージが湧いてくると思いますし、議論のたたき台となると思います。

まとめ

 この物語が射程にしているのは、SNSやVLOGのような娯楽コンテンツだけでなく、ビッグデータを活用したスマートシティのような将来の社会インフラにも波及するものだと思います。今だからこそ見る価値がある作品だと思うので是非見てほしいです。

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