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『ちはやふる』1-44巻 末次由紀

何度嗚咽したかわからない。ここまで44巻、20回は下らないだろう。百人一首を愛おしむ若宮詩暢(しのぶ)に、叶わなかったあの人の想いに、ついに叶ったあの想いに。

競技かるたに打ち込む高校生たちを描く『ちはやふる』。アニメ映画化もされる人気作である。気づいたときには40巻を過ぎていて手をだせなかったのだが、読んだ。すごかった。

「競技かるたのマンガ」と聞いても何が醍醐味なのか、読む前に全く想像がつかなかった。お正月のかるた取りを思い浮かべても、マンガのストーリーとして成立するかわからなかった。読むと、おそろしく研ぎ澄まされた、奥深い世界だということがわかる。例えば、かるたは読み上げられた最初の一文字、二文字で、選手たちは下の句を判断し手を伸ばすが、音によっては声になっていない時点でも聞き分ける。読み手にも高度な技術が要求され(元は選手だという)、選手たちはその個性を聞き分ける練習までする。手の伸ばし方、防御の仕方、札の配置、心理戦…と勝つためのポイントがいくつもいくつもあるのだ。

またこの作品のすごいところは、私には感知できない世界を感知する人々の視点がわかること。音や音楽を聞くと色を感じる「共感覚」を持つ人がどう世界を感知しているか、共感覚を持たない私はわからない。一流スポーツ選手の動体視力を私は知ることができない。末次先生はそれを、マンガにして見せてくれる。ゾーンに入ると次に読まれる札が光って見える、というのはその例の一つ。選手様々な感知の仕方があって見事でため息が出てしまうのだが、まだ読んでいない人のためにネタバレを避ける。

そして、なんといっても私がたまらないと感じるのは、末次先生の登場人物たちへの愛。このマンガにはかるた部の先輩、後輩、他校の生徒と、高校生がかなりたくさん登場する。さらに先生、指導者、保護者を加えるとすごい数の人間が出てくるのだが、その一人一人がしっかり描き分けられている。性格や、思い、エピソード、と全員がしっかりストーリーを持っている。これは末次先生が実際に会った子供や、お母さん、かるた選手、先生たちをしっかり見ている、愛しているからだと思う。誰もが幸せになってほしい、でも全員は勝てない。勝てなかった子も、かるたと共に過ごす中で育んだものがあって、それを末次先生は拾い上げ、磨いて、エピソードにする。かつて、山田詠美先生を「世界を作る女神のようだ」と思ったことがある。末次先生も、壮大な『ちはやふる』世界を司る女神。厳しさもある。だけどなんて温かい、豊穣な世界を創り出すのだろう。連載も「終盤に入った」という本作。リアルタイムで追いつくことができて本当によかった。

(余談:先日前を歩いている女子高生のカバンにスノー丸のマスコットがついていて話かけそうになりました・・・)

マンガ411-454.『ちはやふる』1-44巻 末次由紀

●末次由紀先生の記事

マンガサイト『アル』に書いた「ちはやふる基金」のこと

●第1巻

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#ちはやふる #末次由紀 #マンガ #読書感想文  #マンガ感想文 #かるた


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