見出し画像

『賢者の石、売ります』/『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』朱野帰子

『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』とタイトルを改名した小説がTwitterでバズっていたので、読んでみた。図書館にあった元のタイトルの方だけど。私にとってとてもタイムリーな本だった。

あらすじは改名後のタイトルが示す通り。主人公の賢児は子供の頃から科学が好きな文系科学オタである。彼が「似非科学」とされるマイナスイオンをはじめとした美容家電の部署に異動になり、科学的根拠がない製品を断罪していこうとする。一方彼の姉や母は、父がガンで死にそうになると科学的根拠のない怪しげな食品や薬にお金をつぎこむタイプである。賢児の父は、岩石の研究家やファンが集まる石の店を開いていたが、彼の死後は姉によって「根拠のない」パワーストーンショップになってしまう。

科学と、民間療法含む得体のしれない、でも魅力的な力。私もこのバランスについて、自分なりの考えを練っている。私は今39才で、より良い人生を求めて自己啓発とスピリチュアルと健康オタクに30代を費やした。30代後半に周りを見回してみると、何もしない人のほうがより良い人生をおくっていることに気づき、そんな自分を客観的に眺められるようになった。

2019年1月、7cmの子宮筋腫が見つかったので、これまでに培った圧倒的健康オタクの知識と経験を活用して色々なケアをした。スピリチャル界で子宮筋腫は女性性の抑圧という説がある。あるヒーラーは「それはあなたの我慢が形になったものだから、クリアできれば自然になくなる」と言った。そんなにおなかが痛くなかったので、9か月放っておいたら筋腫は7cmから10cmに急成長した。1.5倍くらいの成長、すごい。逆にここまで大きくなると手術への迷いがなくなるので、2020年2月に手術を受けることにした。西洋医学ありがとう。これ、死ぬ病気じゃなくてよかった。癌とかで手遅れにならなくてよかった…と、私は賢児とは逆方向で、自説を他人に押し付け、自分も窮屈で辛いという経験をしてきたのである。痛いしキモいし周りが迷惑。

賢児の姉、美空は出産を控えており、「帝王切開だと母性がわかない」「母乳で育てないと子供がだめになる」といった話に翻弄されている。一方で、賢児による理詰めの話では出産に関する不安は癒えない。子供を持つ友人から「予防接種を子供に受けさせていないと知るや、仲間を見つけたと思い凄い勢いで自然派育児について説いてくるママ」や、「子供の医療費は無料だから、軽い風邪であっても何でも病院につれていって薬を飲ませるママ」の話を聞いて、う~ん、と思ってしまう。要はバランスだ。私は自分の頭で考えること、自分とは異なる意見もムキにならずに許容できること、が大事なのだろうと思うようになった。

私がドはまりしていた証明しがたい魔法のようなもの、とエビデンスが要求される科学。私は科学にはまる賢児に自分と同じものを感じる。「知らないものを知りたい。ロマンの世界に身を置きたい。世界と人間の凄さに屈服したい。」科学も、見えないものを見ようとする熱い人たちの集まりである。廃れてしまったけれど、魔法と科学を混ぜようとした錬金術も、金を作って金儲けをしたいという気持ちだけではなく、ワクワクするような好奇心があったのではないだろうか。

読み終わって思う。「ねぇ、賢児くん、私たち良い友達になれそうじゃない?」

※ちなみにP社のマイナスイオンドライヤーを持っていますが、髪のさわり心地が良くなります。泊まりに来た友達も使って褒めるくらいです。

149 『賢者の石、売ります』/『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』朱野帰子

#賢者の石売ります #科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました #朱野帰子 #文春文庫 #科学 #本 #読書感想文 #book

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?