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『愛なき世界』 三浦しをん

道端のお花に「わぁかわいいわね」と心の中で語りかけるくらいには植物が好きだが、昔理科で習ったような気孔やメンデルの法則なんかに全然興味はない。でもそういうことまでひっくるめて植物にときめいて研究をしている人たちが集うT大松田研究室が今回の舞台。近所の美味しい古びた洋食屋さんの藤丸くんが出前のついでに、この世界に足を踏み入れる。

辞書や駅伝、文楽、林業、同人誌と、決して超メジャーではないけれど驚異的な魅力があって、そこに熱意と愛情を注ぐ人たちを描くしをんさん。植物の研究って何をするのか、何が楽しいのか、どんな人が集まっているのか、ということが読んでいると次第にわかってくる。詳しく実験方法が書いてある箇所は結局斜め読みで理解ができなかったけれど(というか私に理解する気がなかった)、ストーリーに関わる大事なところはしれっと変なあだ名(デカパイとか)をつけたりして、私のような門外漢もフォローしてくれる。そんなこんなで読み進めていくと、そこに情熱を傾ける人たちがだんだんと愛おしくなってくる。

音楽とかもそうだろうけれど、私は時々、本からヒントや力をもらうことがある。途中、ある実験でアクシデントを活かすか、プランを活かすかという選択を迫られる箇所がある。私はちょうどこれが今自分の環境と符合する気がして、彼女の迷いや選択、決断に勇気をもらった。

『愛なき世界』これも色々考えられる味わい深いタイトル。装丁もとっても綺麗。場合によっては「変人」と一括りにされてしまうこともあるだろう、植物に魅入られた人々のキラキラが美しくて尊くて、好きになってしまう一冊。

118 愛なき世界


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