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『正欲』朝井リョウ

朝井リョウのエッセイとラジオが大好きだ。へなちょこで、くだらなくて、下世話な彼。そういえば彼の小説をちゃんと読んだことがない。友達が「今『正欲』を読んでいる」っていっていたっけ。

これは、私にとってすごい小説だった。とてもお勧めなので、これから読む人の邪魔にならないよう、極力あらすじには触れない。朝井リョウ、お腹弱くてアメリカでもトイレを詰まらせていたのに、あんた、すごいよ!!!心から賛美する。

小説の序盤で、ある犯罪により成人男性3人が逮捕されるニュースが引用される。私は影響を受けやすいのでダウナーな創作物を避けている。「まずい、これは鬱展開かもしれない」と感じたのだが、読み進むのをやめられなかった。

読みながら、世間における大多数との間に違和感を感じる登場人物に私はとても共感する。だが、読み進めていくうちに「私はここまでじゃない、この人とは違う、一緒にしないで」と線をひいて、全力で自分をマジョリティ側に置こうとした。以前、紛争解決をしている永井陽右さんがインタビューで「多様性とはそもそも、自分にとって都合の悪い人の存在も認めること」と発言していて、心にひっかかっていた。ダイバーシティ容認気取りだったが、都合が悪くなった途端に手のひらを返した私を、こういうことか、と思う。

例えば、問題を認識すらしていない、話が通じない上司に、プライドを傷つけずに課題を理解させ思慮を促すことは難しい。この小説では、登場人物と展開、そしてタイトルが、気が付かないうちに私にテーマを理解させ、考えさせるように、さらには著者が考える改善の手がかりまで入念に練り込まれていた。

「良い気分になる以外に、どうして小説を読む必要があるんだろう?」と鬱展開を危惧した時に思った。いわゆる人情話のほっこりした読後感のようなものは得られなかったが、そんなちっぽけなものにとどまらない問いかけをもらった。すごい、朝井リョウ。ありがとう。

『正欲』朝井リョウ

#正欲 #朝井リョウ #読書感想文 #本 #小説 #映画化

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