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時速何キロが心地いい?

響子は22歳のとき、ネパールにいったことがある。
大学を休学し、1年ほど働いていた。
何もない自分への焦りや環境への不安を原動力にほぼ毎日休まず働いた。
社長も厳しく、同僚も優秀だったこともあり、かなり鍛えられた。
アドレナリンが出っ放しで、充実感に満ち溢れ、日本へ帰国してからも、ネパールで培った自信と将来への希望に満ち溢れていた。

希望の会社にも入社できた。
もう悩んでいた頃の自分とは違う。
未来に何の不安もなかった。

ネパールから帰ってきたばかりの響子は、時速80キロで走っていた。
決断も対応もスピード重視、連絡が取れないクライアントには直接足を運んだし、締め切りは必ず守り、相手の動きが止まっていると躊躇なく催促した。

しかし海外で働くのと日本で働くのとは勝手が違った。
顔色や機嫌を伺わなければいけなかったり、少しでも言い方が違うと怒られるから行動する前に逐一確認を取ったりしなければならない。小さなミスもできない、自分で判断して行動できない。それがとても面倒だった。
インターンと就職という違いもあるだろうが、ネパールで経験した仕事のやり方が通用しないことを徐々に知った。

次第に、響子の走る速度は遅くなった。70km、60km、50km、。
いつの間にか今は40kmで走っている。
私はバリキャリに憧れていたんじゃなかったのか?
こんな働き方で良いのか?
昼夜問わず80kmのスピードで働いていた自分の方が別人で、本来はゆっくり働きたい人だったのか。

自分がどんな働き方をしたいのか、響子は迷子になった。
こういうときはどうやって選択したら良いんだろう。

そもそもどうしてバリキャリに憧れたんだろう?
思い返しても、特別な理由が思い当たらない。
facebookの友達には起業家が多い。
学生時代、積極的に社外活動をしていたからだろう。
だから何のプロジェクトも課題感も持っていない自分に危機感を抱いてしまう。自分も何かやらなきゃ。でも、何を?
自分には起業してまでやりたいことはない。
何のためにバリバリ働きたいの?全くわからない。
今まで生きがいは仕事のなかにあると思っていた。
でも追い求めるほど、コレジャナイ感が拭えない。
私の幸せは仕事にないのかもしれない。
もっと違うところにあるのかもしれない。
夕日が落ちるその瞬間に、綺麗だなと思える心の余裕を持てることが、もしかしたら自分にとっての幸せなのかもしれない。

人と比べず、自分の心の中だけに聞いてみる。
それはなんて難しいんだろう。なんて勇気がいるんだろう。
でも、やらなきゃいけないんだ。

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