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自分を一番苦しめていたのは自分の言葉

響子はここ最近寝てばかりいる。
朝8時に起きてシャワーを浴びて、ご飯を軽く食べてまたベットに潜る。
頼まれていた最低限の仕事を少しだけして、また布団をかぶる。
11時から15時くらいまで寝続ける。

響子は思う。
こんなことをするために自分は頑張ってきたのか。
大学時代のサークル、インターンシップ、海外留学。
ベンチャー企業への就職、フリーランス、離島暮らし。

「こんなはずじゃなかった。」
「もっとキラキラと働いているはずだった。」

自己嫌悪に陥る。
昔に描いた理想と、現実とのギャップ。
自分が向いているものや望んでいるものがわからなくなる。

響子が調子を崩すときは、決まって上司から返信が来ないときだ。
1日経っても既読スルー。
返信が来ても響子の質問には答えてくれず、自分の要求だけを伝えてくる。

「嫌になる。」
「立派な社会人であればこんなこと受け流しているんだろうな。」

上司から一言返信が来ただけで響子は起きようという気になる。

「こんなにも振り回されるなんて。」
「なんて幼いんだ。」
響子の昼寝はいわば不貞寝である。

仕事をしなければならないのに、したくない。
何もやりたくない。
何も考えたくない。
思考力ゼロ。
不貞寝をし続けてちょっとだけ気づいた。

「こんなはずじゃなかった。」
「自分はもっとバリバリ働いていたはず。」
「仕事しないといけないのにできない。」
「他人の気分に振り回されてやるべきことができてない。」

こんな声を自分にかけているのは自分自身だった。
ベットの上に寝ている自分に自分がまたがり、首を閉めている絵が浮かんだ。
自分のことを一番責めていたのは他でもない自分だ。

響子は自分でつけた傷でぼろぼろだった。

「ごめんなさい。」

自分に小さく謝って、鏡の前に立ち、頬まで伸びた前髪を眉の上まで短く切った。

前髪を切ったからといって何かが劇的に変わるわけではない。
それでも、なりたい自分の姿に少しだけ近づいた。

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