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死ななきゃいいんだよ

独りで生きていくことですら余力のなかった私が、いつの間にか3児の母になっている。

口に入れるもの、身に着けるもの、細やかな挙動
そのどれ一つも見逃してはいけないと、命を預かるプレッシャーと戦っていた

一人目までは

2人目を無事産み落としたときに私は悟った。
人は死ななければいいのだ

赤子は嫌なことがあれば泣いて知らせてくれる。
空腹も然り、体調不良も然り、だ

少しのケガでは死なない
破傷風で死んでしまうような衛生状態の国ならば、もっと生めよ育てよの風潮が根強く残っていただろう

その証拠に幼少期ぽっきりと腕の骨を折った私が、今も少しずれてくっついてしまった腕のままでピンピンとしぶとく生きているのだから。

そしてたまの冷凍食品で死ぬことはない
レトルトの離乳食なんて、栄養バランスがプロの手で整えられている素晴らしいものではないだろうか。
私はあんなに完璧なとろみをつけることはできないし、すんなりと口に馴染む様なまろやかさになるまで食材を濾すことなんてできない
瓶から食べさせたら洗い物だってしなくていい。
冷凍食品はそのままゴミ箱に入れるだけで、キッチンに水滴すら残さない。

もしも母乳が出なくたって、ヤギの乳を調達したり、近所の人で母乳が出る人を探さなくとも、粉ミルクという甘く衛生状態の良いものがある。

母乳で育った私が健康に賢くなったかというとそうではなく、立派に中卒だ。

ちなみにミルクで育った友人は、国立大学へ進学し海外留学を経ていまや立派な大卒のキャリアウーマンだ。

あらゆる情報が垂れ流され、選択肢の多い自由が差し出される現代の中で、手抜きを許さないひたむきな人の心が、いつか限界を迎えてしまうのではないかと心配になってしまう


母乳は出たが、いつもピリピリして神経質でヒステリックに騒いでいた母親とは、成人を迎えてしばらくしてからもう、疎遠を通り越して他人だ。

母親からの笑顔は、いくつになっても子の支えとぬくもりになり、いつか自分が愛するべき存在へ同じように笑いかける強さになることを、私は知っている。

もし今この時、命を預かるプレッシャーで心を締め付けている人がいるのならば、いつか思い出してほしい。

とにかく死ななきゃいいんだよ

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