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読書日記2024年5月 『吉原花魁日記』など 

5月の読書日記です。
読んだ中から印象に残ったものについて書いていきます。
今月は(今月も?)ジャンルばらばら、あれこれ読み散らしております~。
取り上げている本は、下記の通り。

『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日』(森光子/朝日文庫)
『春駒日記 吉原花魁の日々』(同上)
『猫の文学館Ⅰ・Ⅱ』(和田博文編/ちくま文庫)
『予言怪談』(田辺青蛙・他/竹書房文庫)

『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日』『春駒日記 吉原花魁の日々』(森光子/朝日文庫)

こうの史代さんの装画は可愛いのですが、内容は

大正時代に吉原へ売られて花魁として働き、そこから逃げ出した女性の日記文学。
以前に読んだもので、今回は再読です。
4月に読んだ『恋紅』が吉原遊郭の娘が主人公のお話で(少し時代は違うけれど)、遊女側のお話もあらためて読みたいなと思いました。
筆者の森光子氏は、群馬県の貧しい家庭の生まれ。父が借金を残して亡くなってしまったため、生活がさらに困窮。
19歳の時、母と妹のために吉原へ身売りし、花魁・春駒として生きていくことになります。
ちなみに「花魁」とは江戸時代には一部の高級遊女の呼称でしたが、時代が下ったこの頃には、遊女の細かい地位の区別はなくなっており、皆が「花魁」と呼ばれていたようです。
貧しい家庭環境で育ったものの、光子さんは本を読んだり自分で文章を書いたりするのが好きな文学少女でした。
遊女の仕事をしながらも、毎日の出来事を日記に書き記すことで、つらさを紛らわし、日々を乗り切っていきます。
おかげで後世の私たちにもその暮らしの実情が伝わるというわけで、こうした遊女の生活を体験者側からこまごまと書き綴った記録は、なかなか他にはないのではないでしょうか。
楼主からの非道な扱いや金銭面での苦しさ、お客とのやりとり、朋輩との友情や確執など、非常に生き生きと描写されています。
やがて柳原白蓮を頼って吉原を脱出し、自由廃業することになるのですが、その脱出行も、結果はわかっているのに「はたして無事に逃げ切れるのか?」と思わずハラハラしてしまう書きぶりでした。
馴染みになったお客とはしんみりと人生について語り合ったり、失礼なことを言われて腹を立て言い返したりする場面もあるのですが、基本的には、やはり遊女という立場はままならない……。
ひとりの人間としての自由や尊厳を奪われるとはどういうことか、痛いほどに伝わってきました。
日本の女性史、ことに売買春や遊郭の歴史に興味のある方には、ぜひお読みいただきたい本です。

『猫の文学館Ⅰ・Ⅱ』(和田博文編/ちくま文庫)

猫は可愛い、猫は正義

こちら、ヒグチユウコさんの素敵な表紙と「猫」テーマに心惹かれて読んだのですが……
楽しんで読むのがちょっと難しい部分があり、実のところ、飛ばし飛ばしでしか読めませんでした(そんな本を紹介してすみません……でも良かった面もあるので)。
短いエッセイや随想風の小説が収録されているのですが、少し古い時代のお話が多くてですね。
「仔猫がたくさん産まれてしまい、貰い手がないから風呂敷に包んで捨てにいく」「老いた猫が粗相をするので風呂敷に包んで捨てにいく」といった話が結構出てきて、つらいのです……
一昔前は猫の扱いなんてそんなものだったんだろうとは思うのですが、今の感覚で読むと、ちょっと。
そして「布で包まれると猫は大人しくなる」という真理は今も昔も不変なんだな、と思うと(我が家でも猫に薬を飲ませる時はタオルで包んで大人しくさせます)、少し微笑ましいような、やはり物悲しいような……。

そういったお話が多い中、Ⅰに収録されていた村上春樹の「人喰い猫」は少しテイストが違っていました。
いかにも村上春樹らしい短編で、わけあって家族も仕事も捨て、恋人(というか不倫相手)のイズミとともにギリシャの島へやってきた「僕」が遭遇する不思議な物語。
猫は少ししか出てこないので、これ「猫の文学かな?」という気もするけれど、強いインパクトのある役回り。
タイトルも確かに「人喰い猫」以外にはありえないな、という感じでした。
また、Ⅱの巻末に載っていた編者・和田博文さんのエッセイも印象的。
飼っていた猫たちへの深い愛が伝わってきて、同じくらいに悲しみも深く感じさせられるお話でした。

『予言怪談』(田辺青蛙・他/竹書房文庫)

予言、当たっても当たらなくても怖いですね

実話怪談、大好きです。
だいたいどんなものでも好きなんですが、「予言」というテーマと怪談って相性が良いんだなと感じた一冊でした。
未来を知りたい、というのは人間の飽くなき欲望なのでしょう。
しかしやはり知らずに生きていくほうが幸せか……と思ったりしてしまいました。
いくつか、特に怖かった・面白かったものを。
田辺青蛙「赤い田んぼ」
妊娠中に赤い田んぼを見てはいけない、流産してしまう、という伝承のある家に育った母から聞いた話。あなたを妊娠していた時実は、と聞かされるのって結構怖いですね。
話のはしばしに民俗学的な要素が感じられ、そこはかとない不気味さも漂っていました。
吉田悠軌「籠目」
こちらも民俗学的な雰囲気があって好き。百物語の会で語られていた「籠をかぶってくるくる回る遊び」にまつわる物語。それとよく似た話を別の人から聞いて……。
話の発端も、籠をかぶった子どもがくるくる回っている、という情景も幻想的でとても良かったのですが、後味はやっぱり薄気味悪い。
雨宮淳司「骰子(シャイツ)」
家庭教師をしてくれていた叔父が持っていた、奇妙な骰子(サイコロ)。それには占いにまつわる不思議な話があって……。
占いというものの奥深さ、恐ろしさを感じました。有名な「高島易断」が出てきます。一度このサイコロで未来を占ってみたい、などと思ってしまったのですが、やめておいたほうが無難なんでしょうね。
夜馬裕「天女の願い事」
実家の裏山に祀られている、願い事を叶えてくれる天女。「愛する家族に囲まれて、最期まで幸せに暮らせますように」と願ったはずなのに、なぜか不吉な予知夢ばかり見てしまい、しかもそれが的中してしまう……。
少し長めのお話で、ミステリ的な面白さもありました。教訓、人ならざるモノへの願い事は慎重に。

5月の読書日記は以上です。
6月もすでに半ば、いろいろ読んでおります。
また来月まとめて書きたいと思いますので、どうぞよろしく。
(了)



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