読書日記 2023年11月・文学フリマ大阪11で買った本の感想②
9月の文学フリマ大阪11で買った本たち、感想第2弾です。
ずいぶん間が空いてしまいました。
読むのはわりと早いのですが、書くほうが遅くて……。
かなり時機を逸した感はあるのですが、アップしておきます。
『はぐれ文芸部XX』二十周年記念誌
はぐれ文芸部Xさんの二十周年記念号、ド派手なキンキラキンの表紙!
文フリ会場でも目立っておられました。
新作の小説と詩6編と、過去作から小説7編が収録されています。
特に気になった作品を二つ挙げておきます。
「今日もあたしは平和を燃やす」(墓村弘武)
やはり物書きとして気になるのは、同じ物書きについて書かれたお話。
タイトル、格好良いですね(その意味については、ぜひ本編をお読みになってお確かめを)。
大学時代の同級生から「あたし」が依頼されたのは、とある作家の手書き原稿を取りに行く、という仕事。
今時、アナログな手書き原稿を手渡しオンリー。その上、
「自分が気に入った初対面の相手にしか原稿を渡さない」
というから、何ともややこしそうな作家さん。
ひなびた温泉地に逗留中というその作家を訪ねてみると……?
主人公の「あたし」のクールな語り口と、個性的な作家とのやりとり、楽しく読ませてもらいました。
そして「なぜ書くのか」という真摯な問いかけ。
自分自身も「なぜ書いているのか?」と、つい考えてしまいましたね。
「約束」物樹諒成
こちらは二十年前の約束にまつわるお話。
大学時代に仲の良かった男性から、卒業の時に「二十年後にさ、また会おうよ」という約束を持ちかけられた灯里(あかり)。
その男性とは「もう付き合っちゃえよ」と周囲から言われるほど親しい仲だったけれど、結局、在学中に告白することも、されることもなかった。
そして二十年経って、今日がその約束の日。
O・ヘンリーの「二十年後」を思わせるような設定です。
しかし「二十年後」とはまた違った驚きの結末が待っていて、素敵な読後感でした。
また、こちらの作品は「二十周年記念誌とのことなので、自らの課題として二十というワードを入れまくりました」とのこと。
冒頭の一文からして「駅まで歩いて二十分、会社の最寄り駅まで二十分、そこからさらに徒歩二十分で会社に着く」なので、すごいです……!
実は私の所属同人誌『カム』でも、vol.20発刊時に「二十」をテーマに掌編小説フリーペーパーを作りました(2022年9月文学フリマ大阪にて配布)。
その時もここまで「二十」にフィーチャーした作者はいなかった(笑)。
どうせやるなら徹底的に~、のお手本を見せてもらった気がします。
ちなみに、その時に私が書いた掌編小説はこちらから読めます。
(便乗して宣伝!)
そのほか、過去作からは
「旅と少女と世界の終わり」(ヤン)
「散りゆく桜を待つ季節」(墓村弘武)
を特に面白く読みました。
『しんきろう』十周年記念号
こちらも記念号、十周年です。
詩、短歌、散文とさまざまな文章が収録されていますが、どれも作者さんの個性が伝わってくるものばかりでした。
印象に残ったものをいくつか挙げておきます。
小説「里帰り」(ゴタンダクニオ)
祖父の初盆に、海辺の田舎町に帰省した主人公・キヨタカ。
母に「足引っ張られんときよ」と言われながらも、海水浴にでかけた浜辺。
同年配の男から親しげに話しかけられるが、「郁夫」と名乗るその相手が誰なのか思い出せなくて……。
短いお話ですが、暑い真夏の海辺の空気感がよく伝わってきて、物語の背景奥深くにあるものを読者に想像させてくれます。
「里帰り」というタイトルも、キヨタカと郁夫との会話も、一度読んだ後にあらためて振り返ってみると、とても切ない。
しかし最後のしめくくりは叙情的になりすぎず、一種の「軽み」を加えていて良かったです。
(もし自分でこういうお話を書くとしたら、いささかしめっぽいまま終わってしまいそうです。なるほど、こういう書き方もあるのか……と勉強になりました)
散文「『あなたは山になる』についての質問と答えへのこたえ」(保田大介)
こちらは何とも不思議な文章です。
舞台作品「あなたは山になる」の来場者へのアンケートの答えと、それに対する作者さん(舞台に出演)の答え、で構成されています。
一瞬、そういう体裁をとったフィクション?と思ったのですが、そうではなく、実際に行われた舞台作品と、実際に行われたアンケート、それに対する作者さんの思索の結果としての文章でした。
その舞台を鑑賞したわけでもない自分が読んでも意味がないかな?と思ってしまいました。
が、作者さんの静かでゆるりとした文章に心惹かれ、読み進めていくと、これがなんだか面白い。
それはアンケートの答えとそれに対する答えが、単に舞台作品にとどまらず、世の中について、人と人とのつながりについて、幸福について……と普遍的な事柄を見つめ直し、考えを深める内容になっていたからです。
とても不思議で、そして素敵な文章でした。
短歌「選挙歌(カー)三十首」(佐藤瑞穂)
短歌三十首、すべてが選挙にまつわるものです。
それも投票する側ではなくされる側。
市議選に立候補され、見事当選された作者さんがその経験を歌に綴ったもの。
選挙という、詩や短歌からは遠いところにある(ような気がしてしまう)題材を扱っておられるのは、とてもめずらしいのでは。
また、その短歌が状況説明だけに流れず、その時々の作者の感情を上手く織り込んでおられて見事だと感じました。
いくつか、好きな歌を。
握手した手の頑丈さ温かさ期待の大きさ心許なさ
赤い傘さして私の声を聞くあなたひとりの街頭演説
「さっきもう入れてきたよ」とすれ違う人から給油される一票
以上になります。
文フリ大阪で買った本、ほかにもまだあるので、できればあともう一回くらい感想文をアップしたいなと思います。
(あくまで、できれば、ですが……)
(了)
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