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【47エディターズ】12月公開の47リポーターズを振り返る 万博、宝塚、発達障害から奈良のシカまで

共同通信では、注目ニュースの背景や、知られていなかった秘話、身の回りの素朴な疑問などを深掘りしたインターネット向けの記事「47リポーターズ」を随時配信しています。

当コーナー【47エディターズ】では、現場の記者が書いた記事の最初の読者であり、その狙いや内容を精査し、時に議論を交わして編集を重ねたデスクが、12月に出した47リポーターズを紹介します。


■ドラフトで6人指名の快挙「プロ野球に一番近い」と言われる徳島の独立リーグ球団 高校時代は控え、道半ばで諦めた選手…結果残し開いたプロへの道

野球の独立リーグをご存じでしょうか。2005年に四国で誕生したのを皮切りに、関東甲信越、関西などに広がっています。多くの選手は、阪神や巨人といった人気チームを抱える「プロ野球」すなわち日本野球機構(NPB)入りを夢見てプレーしています。その目標を最高レベルで実現しているのが、徳島市に本拠地を置く「徳島インディゴソックス」です。2023年秋のドラフト会議で6人が指名を受ける快挙を達成しました。実に11年連続でNPBに選手を送り込んでいる希少な球団です。

徳島支局の米津柊哉記者が背景を探ると、質の高い選手が集まることで生まれる切磋琢磨、球団社長とNPBスカウトの密なコミュニケーションなど「指名される理由」が見えてきました。特筆されるべきは、一度は競技を退いた選手を説得し再起させる球団社長の熱意です。この記事は華やかさとは無縁の独立リーグで夢を追う男たちの姿を克明に伝えています。 (浜谷)

■大阪万博、500日前にこの状態で本当に開催できるのか(後編) 「万博は儲かるという意識を捨てる」「熱狂は期待すべきではない」…関係者に聞かせたい、専門家2人の貴重な提言

2025年大阪・関西万博の開幕まで500日を切ったタイミングで配信した前後編シリーズのうち、後編です。大阪社会部の伊藤怜奈記者が万博の歴史に詳しい大学教授と、今回の万博の会場運営プロデューサー、2人の専門家へのインタビューをまとめました。 

大阪に勤務していて「万博」の話題を持ち出すと、必ずと言っていいほど1970年の大阪万博に話が及びます。その頃まだ生まれていなかった私には、残念ながら「当時の熱気」と言われてもぴんとくるものがありません。半世紀を超えて万博が戻ってくると聞いても、当時と今とでは時代の背景も異なるし、万博に求められる役割や意義も変わっているのではないだろうか、というのが偽らざる思いでした。 

 来る2025年に大阪万博を開催する意義はどこにあるのか、歴史的に見て今回の万博をどのように位置付ければいいのか。こんな「そもそも論」を読者に伝えたいと、私より一回り以上若い「Z世代」の伊藤記者が素朴な疑問を専門家にぶつけてくれました。 (関)

 万博協会が抱える課題をまとめた前編の記事はこちら 

前後編の内容を記者が解説したポッドキャストはこちら 

記者がなぜこの原稿を書いたか、その思いを自ら明かすnote「私が書いた理由」も公開中です。併せてお目通しいただければ幸いです。 

 ■「聖域」と化したタカラヅカ 経営トップの寵愛を受け、いつしか構造的パワハラの温床に 宝塚歌劇団が舞台を守るために必要なことは何か

大阪経済部の浜田珠実記者が自身と大阪文化部の取材内容を合わせて書いた記事です。2023年9月、そら組の俳優だった当時25歳の女性が自宅マンションで急死しました。警察は自殺の可能性が高いとみています。弁護士を交えた調査で歌劇団内部に巣くう苛烈な上下関係が浮かび上がりました。

100年以上の歴史を持ち抜群の知名度を誇る歌劇団で起きた事案。週刊誌がセンセーショナルな報道をする中、浜田記者は問題の構造に目を向けました。なぜ阪急電鉄の一部門に過ぎない歌劇団がグループ内でガバナンスの及ばない聖域と化したのか。創設以来、経営トップの寵愛を受けてきた背景を解き明かし、悲劇が繰り返されないよう抑えた筆致で転換を促しています。

同質化した集団の内部では時として独善的な慣行や人権侵害がはびこります。歌劇団にとどまらず、外部の目が届きにくい組織で苦しんでいる人は多いのではないでしょうか。普遍的な問題として読んでいただけると幸いです。 (浜谷)

■「初診は2年後になります」親が絶句する児童精神科の実態 子どもの発達障害なかなか診ず…実はパンク状態、その深刻な背景

親というのは子どもの発達や成長のことを毎日気にしているもの。子どもの様子に不安を感じて病院に電話したところ「2年後に来てください」と返されたら、絶望しますよね。発達障害が巷で言われ始めたのは2000年代半ばぐらいでした。すでに20年近く経過しますが、社会での体制整備は追い付いていないようです。自らも子育て中の大阪社会部・禹誠美記者は、こうした実情に問題意識を持って取り組んでくれています。(真下)

以下は禹記者のコメントです。

記事には発達障害の子を持つ保護者を中心に、共感の声が数多く寄せられました。また、この問題の背景には専門医不足だけでなく、教育現場の深刻なリソース不足も絡んでおり、福祉や教育に携わる関係者からも大きな反響がありました。児童精神科医の方がインタビューの中でおっしゃっていた次の言葉は新たな視点を与えてくれるものでした。「社会が寛容性や違いを抱える力を失っている。多様性や違うのが当たり前なんだとの前提が欠けている」。普通とは何か。障害とは何か。発達障害疑いの子どもが増える中、社会のあり方そのものが変わっていく必要があるのではないでしょうか。

■奈良の鹿は「神の使い」…なのに虐待? 保護団体、収容しすぎで過密、栄養不足 背景に深刻な農業被害

奈良支局の佐藤高立記者と大河原璃子記者が、多くの日本人が修学旅行の記憶などとともに親しみを持っている奈良のシカの知られざる“葛藤”を取り上げた記事です。最近、全国で問題になっているクマやイノシシなどによる被害と共通する面がある一方、歴史や文化とのかかわりがケースを複雑にしています。奈良と言えばシカ。その当たり前の光景の裏側にある事実に目を向けるきっかけとなるのではないでしょうか。

奈良のシカの虐待の判断に用いられたのは、動物の福祉をめぐり5つの自由を定めた国際基準です。

JAL機の事故でペットの機内持ち込みが注目されました。奈良のシカのケースとは焦点が異なり、さまざまな要素が絡む問題ですが、人間と動物の関係性についての意識の変化を考えさせられました。

今回は、奈良支局全体でストレートニュースの発信に取り組むとともに、佐藤記者は47リポーターズの執筆に着手。コンパクトにまとめた特集記事を新聞用にも出稿し、さらに子ども新聞向けの解説記事も準備中です。一つのケースを多角的に深く取材し、幅広い媒体で記事を出すことで、よりたくさんの人々に届けたいと思っています。(中田)

■税金を投入する価値ある?万博会場を歩いたら思ってもみない「声」が聞こえてきた 大屋根は「断片」、広がる更地…「国民不在の国家プロジェクト」

こちらも大阪社会部の伊藤怜奈記者執筆、関が編集を担当した「万博もの」です。開幕500日前を迎えた会場の最新状況を、現地に入った記者の目を通して描くルポになっています。 

「現地報告」を意味するフランス語の「ルポルタージュ」、略してルポ。いろいろな種類がある記事の中でも、私が好きなタイプの一つです。記者の感性次第でどこに注目するか、何を面白いと思うかが変わってくるので、同じ現場を見ても記者によって全く異なる記事になると思います。それがルポの醍醐味ともいえるでしょうか。  

今回の記事では、万博を象徴する環状の巨大木造屋根「リング」の建設現場を歩いています。伝統的な技法で組んだ木材の木目やにおいまでも伝わるような、巨大構造物のその威容が感じられるような記事になっていればうれしく思います。ちなみに、洋菓子が登場する最後のくだりは記者の発案によるものです。 (関)

■命を突然絶たれた兄は、患者たちの「恩人」だった 大阪・北新地ビル放火殺人 遺志を継いだ妹が、2年たってやっと口に出せた「生きていてほしかった」

2021年に起きた北新地ビル放火殺人事件で、犠牲になったクリニック院長の妹・伸子さんの2年間を、大阪社会部の石田桃子と安部日向子記者がまとめた記事です。初稿を一読した時、取材した石田記者が、伸子さんと気持ちがシンクロするほど深く関わってきたと思いました。そういう記者の原稿に出会えるのは喜びであると同時に、デスクとして責任も感じます。

書かれている内容は当初から十分でした。それでも原稿に手を入れたのは、石田記者と伸子さんの「距離を取る」ためです。書き手の感情が強く入っていると、何も知らない読者はついていけません。共感してもらうため、深くつきあったからこそ淡々と書いてもらいたいと思いました。

手直しを巡って石田記者と衝突もしましたが、はっきり意見を言ってくれたことで考え方がよく分かり、互いに言いたいことも言えて良かったと思っています。公開後に記事を改めて読んだ時、大切な人を突然失った遺族が、どういう思いを抱えて生きているのかを隣で見ていたように知ることができ、読めて良かったと石田記者に感謝したくなりました。(斉藤)

以下は石田記者のコメントです。

昨年4月下旬、先輩記者の紹介で初めて伸子さんに会いました。それ以来、取材や取材ではない時も含め、伸子さんと月1回程度会いました。伸子さんはいつも「誰かのためになりたい」と考えており、私は取材の中で、その思いが実る瞬間に幸運にも立ち会うことができました。伸子さんの涙を見ることはそれまでほとんどありませんでしたが、その瞬間の彼女の涙に、これまでの歩みの苦労や思いの強さを感じずにはいられませんでした。
記事にすることで、改めて伸子さんの気持ちを受け止め、丁寧に伝えたいと思い、執筆に取り組みました。とくに、真摯に活動に取り組む伸子さんの姿や、人となりがにじみ出るよう、読者の方に伝わるように書きました。
容疑者は社会的に孤立を極めた末に犯行に及んだとされています。「二度と同じような事件が起きてほしくない」。伸子さんはそのような思いで昨年12月ごろから、刑務所からの出所者らの話を聞き、支援するボランティアにも乗り出しています。今後も伸子さんの思いが少しずつつながっていくように伴走していきたいと思っています。

■「発達障害ビジネスだ」専門医が批判、学会も認めない療法を勧めるクリニックの実態 患者の頭に「磁気刺激」、治療代に高額ローン組ますケースも

大阪社会部の小林知史記者と武田惇志記者の記事です。この手の”発達障害ビジネス”は、当局の規制がなく、学会のガイドラインもむなしく、野放し状態になっているのが実情です。TMSは、抗精神病薬の副作用に苦しむ患者が多い精神医療の世界では、「体に負担の少ない」画期的な治療法として注目、期待されていますが、何に効くのか、どうして効くのか、今の医療ではまだ判然としていない部分も多いです。医療行為であるからには安全性と効果についての科学的知見が欠かせませんが、エビデンスが追い付いておらず、一部を除いて自由診療ですので、患者サイドは自己責任で医療を受けることになります。高額の施術費を支払ったのに効果が実感できず、さらにはどこにも訴える場所がなく、「泣き寝入り」している方も多いのではないでしょうか。

この手の医療に、疑問符を突き付ける報道はこれまでほとんどありませんでした。今回、小林、武田記者は粘り強く関係者を当たり続け、なんとか初報にこぎつけました。読者の方からはご意見や情報を多数お寄せいただいています。今後も継続して取材します。(真下)

以下は小林記者のコメントです。

TMSが発達障害に効くと謳うクリニックが美容業界の関係企業だと知ったのは昨年夏のことです。患者、医師、専門家や関係企業の関係者にも取材を進めて慎重に取材を重ねてきました。
精神医療の病院には藁にもすがる思いで患者が訪れるといいます。クリニック関係者は「 自由診療だ」と主張していますが、治療効果を疑問視する専門家らの指摘もあがっています。「時間や気持ちも返してほしい」という記事中の女性の言葉が印象的でした。

■「ゲノム編集」食品は果たして普及するのか 浸透の鍵は「悩みの解消」、まずは抵抗少ない分野から

血圧を下げる成分「GABA」を多く含むトマト、筋肉量を増やしたマダイ……「ゲノム編集」という遺伝子を改変する技術を応用した食品が少しずつスーパーの店頭に並ぶようになりました。ゲノム編集が生み出す変異は、自然界に本来存在しない遺伝子組み換え食品と異なり、偶発的に起こり得る事象です。偶然に頼ってきた変異を社会課題の解決に向けて人為的に起こす点にゲノム編集の本質があります。米国の科学者が簡便かつ安価に実践できる技術を開発し、世界的な広がりを見せています。 

日本では依然として消費者の間に抵抗感があるものの、キユーピーと広島大のグループが2023年にアレルギー物質を減らした卵の研究成果を発表すると好意的な反応が多数寄せられました。こうした受け止めから、大阪経済部の浜田珠実記者は社会課題の解決に資するという切り口なら人々の興味を喚起できると考え執筆しました。食の選択肢を増やすことに意欲を持つ事業者や消費者の反応を冷静に分析する研究者らが記事に登場します。 

人類は長い歴史の中で品種改良を重ね、コメや小麦の収量を増やしてきました。ゲノム編集はこうした営みの延長線上にあります。この記事が理解の一助になることを願います。(浜谷)

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