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選手たちを狙う盗撮、悪質なSNS投稿 若手記者2人が性的画像問題を追いかけた理由 「アスリート盗撮」著者インタビュー【前編】
こんにちは。共同通信・大津支局の三村舞です。
私は2021年春に「運動記者」として入社しました。
共同通信の記者には、広く様々な分野を担う「一般記者」のほか、スポーツを専門とする「運動記者」、カメラマンを指す「写真映像記者」、図表などのビジュアル素材をつくる「グラフィックス記者」、「校閲記者」などの職種があり、それぞれが別採用になっています。
私のような運動記者には、若手の時期に1~2年ほど地方支局で勤務する仕組みがあります。運動部では携わることのない事件や行政の取材を経験し、また運動部に戻っていくというキャリアパスです。現在の私はその支局勤務のまっただ中。いつもは滋賀県内で事件や裁判、街の話題などを取材しています。
さて、そんな私が今回の note でご紹介するのは、運動部の先輩たちが手がけた「アスリートの性的画像問題」に関するキャンペーン報道です。
女性選手が競技中の様子を隠し撮りされ、SNSなどで性的なコメントを付けて拡散される。そうした被害がスポーツ界全体に広がっていることを取り上げ、対策の必要性を訴える記事を数多く配信しました。
2020年秋に始まった一連の報道はネット上で特に話題を集め、JOC(日本オリンピック委員会)や各競技団体、警察当局が規制強化に動き出すきっかけとなりました。昨年9月には、取材内容をまとめた「アスリート盗撮」(ちくま新書)という書籍も刊行されています。
このキャンペーン報道、実は今の私とあまり変わらない入社2年目と3年目の女性記者2人が中心となって取り組んだものなんです。
2人は当時、地方支局から本社運動部に戻ってきたばかり。そんな若手がこの大きな問題にどう取り組んだのか。選手たちから証言を得て、記事として配信するまでにどんな苦労があったのか。個人的にも気になる「取材の裏側」について、筆者の鎌田理沙記者と品川絵里記者にインタビューしました。
スポーツの現場に身を置く選手や関係者はもちろん、それ以外の人たちにも伝えたい「性的画像問題」の実態と記者の思い。2回に分けてお伝えします!
■ プロフィール
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鎌田 理沙(かまた・りさ) 1995年生まれ、東京都出身。高校では陸上部で短距離走をしていました。大学ではスポーツ新聞部で箱根駅伝などを担当。2019年に入社し、松江支局、本社運動部を経て現在は名古屋支社運動部。 最近サーフィンを始めました。
品川 絵里(しながわ・えり) 1996年生まれ、東京都出身。中学・高校では創作ダンス部、大学は少林寺拳法部に所属。2018年に入社し、大分支局、本社運動部などを経て現在は名古屋支社運動部。趣味は宝塚歌劇。和希そらくん、優希しおんくんを応援しています!
■ コロナ禍の社員寮、語り合ったジェンダー問題
――お二人が性的画像問題の取材を始めたのは本社運動部に異動して間もない時期だったと聞きました。まずは、どんな経緯でこの問題に取り組むことになったのか、そのきっかけを教えてください。
鎌田 取材を始めたのは2020年夏ごろでした。私と品川さんは、ちょうどその年に支局から本社の運動部に異動してきたんですけど、当時は新型コロナが流行し始めた頃で、運動部では取材機会がほぼなかったんです。
スポーツの大会は中止だし、外で誰かに話を聞いて記事を書く機会もないし。やってることといえば、決められたシフトの日に会社に行って内勤作業をするくらい。それ以外の日は時間を持て余していました。
地方支局にいる同年代の記者たちはちゃんと記事を書いているのに、私たちは東京に来たものの、ほぼ何もしてなかったんです。その頃は2人とも都内の社員寮に住んでいたので、よく一緒にご飯を食べながら「2、3年目なのに、このままでいいのかな?」っていう話をしていました。
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品川 本当に暇だったんだよね。私自身も「ヤバいな」っていう意識がありました。だから何かやろうと思って「ジェンダーの視点から、女性アスリートの健康問題とかで連載ができないかな?」って話をしました。そしたら、鎌田記者が「ジェンダーの問題なら、こういう話もある」と言って、性的画像問題の取材を提案してくれた、という流れです。
鎌田 私の大学時代の同期で、盗撮被害に困っていた女子選手の話をしたんですよね。「アスリート盗撮」の本にも書いたんですが、彼女は隠し撮りされていることに気付いていて「本当に気持ち悪い」「競技に集中できない」と悩んでいました。
そういう選手が他にもいるんじゃないか、これも広い意味ではジェンダーの問題って言えるんじゃないかと思い、品川さんに提案したのが最初です。
――大学時代に聞いた話がきっかけだったんですね。そもそも、品川さんがジェンダーの問題に取り組もうと思ったのは、何か理由があったんですか。
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品川 私は大学時代、少林寺拳法部に所属してたんですけど、その頃の経験がベースにあるのかなと思います。
少林寺拳法部は男女一緒の部活なんですが、女子が少ないんです。私の学年だと男子が6人、女子は3人。数が少ない上に、体力的には女子の方が劣るから、同じ練習メニューをやると「女子は能力が低い」と見られがちで、ひどい下ネタの話題が飛び交うこともありました。
あと、大学時代に仲の良かった友だちがチアリーダーをやっていて、彼女から「性的な目線で見られるのがすごく嫌だ」っていう話も聞いたことがあったんですね。鎌田記者の提案を聞いた時に、その時のことも思い出しました。
そういう経験が重なって、スポーツの現場のジェンダー問題に関心を持つようになったのかなと思います。
■ オリンピック委員会が動く大ニュースに
――実際の取材はどこから始めたんですか。
鎌田 まずは、最初にお話しした大学時代の同期の女子選手に話を聞きました。彼女からさらに取材先を紹介してもらって、いろいろな人に話を聞くうちに、一人の選手から「陸連(日本陸上競技連盟)のアスリート委員会に、盗撮被害についての意見書を提出しようと思っている」という話を聞いたんです。
その時に「これって、もしかしてニュースなんじゃないかな」って思って、書籍の共著者になってる田村崇仁デスクに相談したのが、大きな転機になりました。
品川 ご飯を食べながら、田村さんに「こんな動きがあるんです」って伝えたんだよね。そしたら「その話、めっちゃいいじゃん」って言ってくれて。まあ田村さんは口癖のように何でも「いいじゃん」って言うんですけど(笑)。
その時に「やっぱりこれはニュースなんだ」って自信を持ちました。意見書は形を変えながら、どんどん大きな話になって、最終的にはJOCに持ち込まれることになったんです。
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鎌田 陸連側を取材するようになった頃から、陸上とJOCの取材班を仕切る益吉数正キャップにも合流してもらって、4人で取材を進めるようになりました。
益吉さんの裏付け取材で情報を固めて、2020年10月12日に「JOCが性的画像問題の対策に乗り出す」っていう第一報を配信した、という流れです。
――取材を始めた当初は、こんなに大きな問題になるとは思ってなかったということでしょうか。
鎌田 そうなんです。社員寮で品川さんと話し合っていた頃は、性的画像問題にここまでのニュース性があるとは思ってなくて、いわゆる「話題もの」の記事を1本配信できればいいかなと思ってました。
実際に取材を始めてみたら、偶然にも選手たちが意見書を出すタイミングと重なり、どんどん大きな話になったという感じです。
■ 難航したアスリートインタビュー
――さきほどの第一報からキャンペーンが始まるわけですが、その後は何本くらい記事を出したんですか。
鎌田 さっき配信記事のデータベースで確認したんですが、「性的画像」というキーワードでヒットする記事のうち、私たちが直接関わったのは新聞向けの記事だけで50本くらいですね。これらを再構成する形でネット向けにも何本も書きました。
最初の半年くらいは、おびただしい量の記事を出しました。とにかく、いろんなところに取材の申請を出しまくって、インタビューして、文字起こしをして。そういう作業をずーっとやってたような気がします。
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――大変ですね。あちこちに取材したということですが、誰に取材するかはどうやって決めたんですか。デスクからアドバイスがあったのでしょうか。
品川 競技団体の担当者の方は、当時の運動部長に紹介してもらったり、各競技を担当する先輩記者に紹介してもらったりしました。こういう組織に取材しようというのは、ある程度自分たちで決めて、実際に担当者に連絡を取るときは、周囲に助けてもらいながら取材したという感じです。
鎌田 一方で、選手たちの取材は、ちょっと工夫が必要でした。最初のうちは知り合いに紹介してもらった選手たちに話を聞いてたんですけど、取材が進むと、途中からは全くつながりのない人たちに話を聞くことになるんです。
そういう方たちからみれば、私たちって「赤の他人」じゃないですか。だから警戒心を持たれたり、正面から取材しようとして断られたりすることも多々ありました。
そういう時は、まずは所属チームの監督にお願いするとか、時間をかけて少しずつアタックするとか、色々な手法でアプローチしました。すごく手間はかかるんですけど、チャレンジする価値はあったと思います。
品川 各競技のトップ選手だった人たちに話を聴く「アスリートインタビュー」の企画をやった時は、アポが全然とれなくて、すごく苦労した記憶があります。
なかなか取材を受けてもらえなかった背景には、過去に被害を受けた経験があるということが広く知られると、2次被害につながりかねないという事情もあったと思います。アスリートの側からしたら、取材を受けるメリットはほとんどないですしね。
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鎌田 ただ、そんな中でも「もっとこの問題を知ってほしい」と言って取材を受けてくれている方たちもいたんですよね。そういう方たちには、覚悟を持ってこちらの質問に答えてくれているんだなと感じました。本当にありがたかったです。
■ ネット記事の反響、広がる共感
――ネット向けに配信された記事には、たくさんのコメントが付きましたよね。反響をどのように受け止めていますか。
鎌田 最初は新聞向けの記事だけを配信していたんですが、その頃は思ったほど大きな話題にはなりませんでした。記事は掲載されるんだけど、1面とか目立つところに載せていただけることは少なくて。
注目されるようになったのは、ネット向けに長い記事を出してからだと思います。いろいろなコメントが付いて話題になるにしたがって、しだいに新聞でも扱いが大きくなってきたように感じました。
品川 ネット上のコメントには、一部に「そういう露出度の高い格好をしているのだから仕方ないだろう」というような内容もあったんですけど、全体としては私たちの問題意識に共感してくれる人が多かったんです。
「この問題はなんとかしなきゃいけない」とか「選手自身が意図していない形で性的に消費されるのはおかしい」といったコメントが、思ったよりもたくさん寄せられたのが印象に残りました。
――一連のキャンペーン報道によって、スポーツの現場にも何か変化はあったのでしょうか。
品川 取材に行く試合や大会の会場で、無断撮影の禁止を周知する看板が増えたり、配布されているプログラムに「性的画像の撮影はダメ」っていうチラシが入っているのは頻繁に目にするようになりました。
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鎌田 一番最初に取材した選手が教えてくれたんですけど、地方の小さな競技会場にも性的画像問題に関するポスターが貼られるようになったらしいんですね。その地域の競技団体が頑張ってるんだと思いますが、そういうのも一つの変化なのかなと感じます。
あとは東京五輪の禁止事項に「観客による迷惑撮影の禁止」という項目が入ったことも大きかったと思います。最終的には無観客での開催になってしまったので実効性はなかったのですが、発表された当初はニュースとしてかなり大きく取り上げられました。
品川 私が報道の力を一番実感したのは警察の動きかな。特に京都府警はすごく力を入れてるんです。府の迷惑防止条例違反で女子選手の下半身を撮影していた容疑者を摘発したり、啓発活動を積極的に進めたり。そうした動きが出てきたのを見ると、私たちの報道にも意味があったのかなと思いますね。(続)
インタビューの後編はコチラ↓
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<聞き手>
三村 舞(みむら・まい) 1997年生まれ、神奈川県出身。中学・高校はオーケストラ部、大学では応援部でフルートを吹き、スポーツの応援をしていました。2021年に入社し、同年11月に本社運動部から大津支局へ。運動不足解消のために始めたホットヨガで筋肉痛に悩まされています。
< 皆さんのご意見、ご感想を是非お聞かせ下さい >
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