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【随想録#25】本に囲まれて/warriors dreams

誰もいない図書室。授業の無い、空き時間に忍び込んで電気もつけずに椅子に座って天井を見上げる。教員をしていて良いことも悪いこともあげればキリがないが、良いことの一つに図書室という空間を好きな時に利用したり、時と場合によっては独り占めできるということがある。

ーー困ったら図書室

社会科を教えていて、ちょうど単元と単元の間など、私も生徒もおたがいに小休憩を挟みたいというーー都合の良いーー阿吽の呼吸が成り立つときがある。そんなときは図書室に子どもたちを1時間、本だけの世界に閉じ込めてしまう。

ーー興味のあることから社会は広がる、広げる、深まる、深める

図書室に来たときの私の口癖である。歴史、地理、公民の本に留まらず、動物や科学、マンガ、アニメ、文学に至るまで全てのコトを包含するのが社会科。だからどんな本でもいい、全て社会だからと大風呂敷を広げる。

その本の良さや、自分の興味があることに論理武装をして、班の人たちに伝える、という学び合いの時間にする。良いと思ったことをメモさせながら。子どもたちは図書室を楽しそうに練り歩いて、あーでもないこーでもないと本と友達と戯れあっている。

図書室に来るの初めて、という子もいた。図書室のベテラン勢は得意げに、本を探している子に指南をしたりなんかしていて、人と出会い、本と出会いのサイクルがクルクル回っていて、良い空気が1時間流れているのが目に見える。

『平城京のごみ図鑑』
『西洋絵画の見方』
『食べられる生き物事典』
『歴史のごはん 鎌倉・室町時代』
『フルートとトランペットの歴史』
『汚れちまった悲しみに』
『りんごとともに』
『本土空襲全記録』
『食生活の100年』
『こども六法』
『みための心理学』
『未来のために学ぶ四大公害病』
『ぐんぐんうまくなるサッカー』

子どもたちは思い思いの本を選んで読んでいた。へぇ、そうなんや、知らんかった、という声があちこちで聞こえて心地よい。

デジタルな時代に、時代だからこそ、大切な本という、図書室という、人類の知の泉に触れさせよう。インターネットがない頃には、何か分からないことがあれば親は図書室へ行って調べて来いとよく言ったものである。しかし今では図書館教育などは流行らない。流行にはならないけれど、不易がここにはある。

図書室のエアコンは少しカビ臭いと子どもたちから不評ではあったが、久々の活躍に図書室の照明がいつもより明るく感じたのは気のせいか。

私と言えば、誰もいない小説のコーナーで、良い書き出しの本を物色していたのだったーー子どもの先生どこ?の呼び声には流石に応えながら。

誰もいない図書室。
子どもで賑わう図書室。
どちらも心がぽんぽんと弾む。
夏めく、昼下がり。
ひとりきり、みな、ふたりきり。

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