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新作二本『ベルファスト』『ニトラム』を観てきた

先ずは25日に公開された映画『二トラム』を鑑賞。同日公開の『ナイトメア・アリー』『ベルファスト』の方が個人的な優先順位は高かったものの、時間が合わなかった故、本作を先に。

オーストラリアで実際に起こった無差別銃乱射事件、「ポート・アーサー事件」の犯人を描いたこの映画。

息をのむとはこのこと。劇場が静まり返る、そんな映画だった。ただひたすらに不穏で陰鬱。そして不快な音響。それらはと対照的な劇中の美しい景色の数々。主人公の行動と内面の対比の象徴ともとれる。か?

(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

ストーリーはスリラーではなく大真面目なヒューマンドラマ。複数の人物の内面を描く構成はドキュメンタリーにも近いと感じた。しかしながらドキュメンタリーに近い見方をしてしまうのはいささか乱暴、そう感じさせる描き方がなされている(特に人物描写)。あくまで脚色ありきという点は意識すべきだろう。

主人公は明らかに周りとは違う。そんな彼は社会からの孤立しており、且つあからさまに避けられている。彼のケアをする両親にのしかかる負担、そして歪んでゆく家庭。偶然現れるヘレンという名の裕福な女性。

(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

状況は決して好転などしない。誰かがどこかで判断を間違っていなければ。そんなことも口には出せないようなもどかしさ。どうすればよかったのか。

社会的システムの欠陥、と言ってしまえばそれまで。現代にも十分起こりうる出来事だろう。容易に人を死に至らしめる銃を所持できる社会、金さえあればなんでもできてしまう社会。そんな外側、その更に外側ばかりに焦点を当ててもしょうがないんじゃないか、そう感じた。

この部分を深堀り出来るだけのものは持ち合わせていないので、この辺で。そう言えば。「狂気」という単語は使いたくないが、ゴッホを描いた『永遠の門』にも似ているところがあるのかな、なんて考えたり。

最後にはなったがケレイブさんをはじめとして、俳優陣の演技が本当に素晴らしかったです。


次の日…


冒頭でも触れた『ベルファスト』を鑑賞。

鑑賞前に情報をあまり入れておらず、ベルファストという北アイルランドの街の持つ時代背景は理解せぬまま会場入り。幸い売店で作品のパンフを購入したので、そちらで詳しい背景を知ることが出来た。想像していたのと全然違った… とヒヤリ。

そんなこんなで上映開始。

席数がギリギリだったこともあり、最前列、それも端の方の席に座ることになってしまった。画面上の垂直が斜めに見えるし… 見にくい… 

(C)2021 Focus Features, LLC.

でも、この席だからこそ見えた光景もある。位置の関係上スクリーンを見る際、どうしても首から上を斜めに向けなければならない。その視界に入るのが観客席だ。白黒の画面の光に映し出される人々のシルエット、そして聞こえてくる笑い声。まるでこの場所も作品の一部なのではないのか、そんな不思議な感覚に襲われた。

激動、という言葉とは少し違った、それでも間違いなく混乱の時代を生きたケネス・ブラナーの少年時代を描いた自伝的作品である本作。悲しくも美しい物語。そしてそこに、確かにある温かさ。素晴らしい作品だった。

(C)2021 Focus Features, LLC.

子供から見た戦争、或いは闘争という面で『ジョジョ・ラビット』と似たような作品になるのかな、とも考えていたのだが、当たり前のように戦争と民衆同士の対立という構図は似ても似つかない。

じわじわと日常を包囲していく暴力。その描写は作品冒頭から印象的に描かれる。ドラゴン退治の盾が一瞬にして暴動の中で飛び交う石から身を守る盾になる。そんな暴動があった後も、主人公の少年らは学校で勉強したり、帰りに万引きして怒られたり。家族と映画館に行ったり、楽しく会話を交わしたり。

(C)2021 Focus Features, LLC.

そんな平和な日常と平行線で、分断による暴力が横行しているのがなんとも現代に通ずる。作品内は宗教間の対立を描いていたが、これを少し拡張してイデオロギーの対立と捉えれば、むしろ少し前までのアメリカの情勢に重なるのかな。

なんにしても現代社会と重ねざるを得ない出来事を描いているこの作品だが、終わり方も含めて不思議と悲壮感は感じさせない。思わず微笑んでしまう会話や、じんわりと胸が熱くなる会話。作品内において映画が不安定な日常を忘れさせてくれるものであったように、本作も暗い雰囲気にしたくなかったのかな、なんて。ヴァン・モリソンの曲を聴きながら。

(C)2021 Focus Features, LLC.

いつにもましてやんわりとした感想ですが、ここらで。同じモノクロ作品の『ROMA ローマ』も最初から観直さないと。最後までお読みいただき有難う御座いました。


追記!!!

ケネス・ブラナー監督、2022年アカデミー賞脚本賞の受賞おめでとうございます!

作品賞の『コーダ あいのうた』をはじめとして、各賞を受賞した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、『DUNE デューン 砂の惑星』、『クルエラ』、『ドライブ・マイ・カー』もおめでとうございます!

まだ観てない受賞作品も多いので、機会があれば早いうちに観たいですね…


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