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岩合光昭が初監督!「全シーンに猫が登場する映画」メイキング秘話 vol.2

岩合光昭さんの写真展『ねことじいちゃん』でのギャラリートークの続きです。猫たちの厳しいオーディションの様子が凄いです。猫って演技、できるんですね! うちの子は「おいで」さえ聞いてくれませんでしたけど…(遠い目)

アイドルみたいな、すごい猫が現れた!

岩合さんのお話:最後に100匹以上オーディションして5匹だけ残ってもらって、その最後に出てきたのが今回主役に選んだ「ベーコン」という猫です。〈写真を見せながら〉この子が(主役の)「タマ」に選ばれました。なぜ彼を最終選考に残したかというと、やはりすごく人懐こくて、僕を見るなり胸の中に飛び込んでくるような猫だったんです。その見ている時に飛行機が真上を飛んだり、車も通ったりしたんですけどまったく動じない猫だったんで「この猫だったら照明を当ててもたぶん動じないだろうな」と。

僕はその時、思わず声をあげた

最終判断は東京の映画会社の会議室でした。照明やカメラ、スタイリスト、メーキャップの方だとか総勢20名くらいのスタッフが壁に張りついて、ベーコンを見下ろしているんですね。その中、フロアに出てきたベーコンがどうしたかというと、スタッフ一人一人の足元で挨拶を始めたんです〈会場どよめく〉ええ、みなさんと同じように、スタッフの中には「すごい猫だね!」「アイドルみたいだな」とか言う方もいました。
でも最後にもう一つ試してみたくて、(立川)志の輔さんにもその会議室に来ていただいていたので「志の輔さんとベーコン君、一緒に歩いてください」とお願いしました。それで脇に置いて志の輔さんが歩き始めたら、ベーコンが一緒に歩いてくれるんです。で、会議室の真ん中に来てベーコンが何をしたかと言うと、師匠の顔を二回、見上げたんですね。僕はその時、思わず声をあげて「本番でよろしくお願いします!」と〈会場笑〉もうそれでこの猫に決まったという感じですね。

ただ一つ心配だったのがキジトラ模様です。みなさんTVコマーシャルなんかでご覧になるのは白っぽい猫が多いと思うんですけど、キジトラ猫はどちらかと言うと黒いんです。照明に映えないんじゃないかと思って照明のチーフに「どうですか?」と相談したら「ベーコンのおなかの毛に白いのが残っているんで大丈夫です。逆光でも映えますよ、立体感もつけられます」とおっしゃったんで、「じゃあ決まり」とベーコンになりました。

「本当に猫が演技するの?」と尋ねられたら…

僕は猫も大切ですけど、島で撮ったという事をとても大切にしたいと思いました。それで島の自然について考えていたら「水だ!」と思ったんですね。島で生まれて育つということは、島の水を飲んで育つこと。なので最初の食卓のシーンで大吉さん役の(立川志の輔)師匠が台所で朝食を用意するんですが、味噌汁の湯気なんかも、その島の水なんです。そのシズル感(=瑞々しさ)みたいなのを大切にしたいなと思いました。
それでそこに朝食が用意されたら(ベーコン演じる)タマがお魚をめがけてポーンと飛び乗って、大吉さんが「こらこら、タマ」みたいなことになるんですけど、本当に脚本に書かれている通りにタマが演技をしてくれるので師匠もびっくりして「本当にこういう猫、いるんだね!」と。

最初に「脚本では猫が演技をしているようだけど、本当に演技するの?」って聞かれて、僕は監督である以上「しない」とか言えないので「します!」と〈会場笑〉はっきりと断言をしました。

オス猫は、美人キャストがお好き?

師匠は大吉さんになりきろうと、おそらく脚本を50回以上読んでこられていて、タマとの関係がとても大切だと思っていただいたようです。控え室でも自らタマを抱いて「タマ」といつも声をかけていただいてました。そして撮影が進んでいく中で、3日目くらいにヒロイン・美智子役の柴咲コウさんが来られたんですが、師匠の膝の上にいたタマが柴咲さんの顔を見るなりポーンと飛び降りて、柴咲さんの方へ走って行っちゃったんです〈会場笑〉師匠も「…君もオスだな、仕方がないなあ」と〈会場笑〉

「監督は、猫しか見ていない」と拗ねられて

本当に柴咲(コウ)さんは猫好きで「ずっと猫のセラピーを受けていたみたいな感じで、撮影があっという間に終わってしまいました」とおっしゃっていました。本当に表情が柔らかくなって「(大河ドラマ『おんな城主 直虎』の時の)直虎と違いますね」と言ったら「直虎も優しい人なのよ?」と返されたんですけど〈会場笑〉猫に集中されると余計に美しさが際立ってくるようでした。僕は(誰かが)何かに夢中になっている様を見るのが大好きなので「映画のカメラを意識しないでください」とつねに言ってました。

最初のシーンで「カット!」と言ってすごく良いシーンが撮れたと思って「OK」を出しましたら、柴咲さんがモニターのところに近づいてきて「監督」って言われて「はい、なんですか?」「監督は、猫しか見ていなかったんじゃないんですか?」と言われまして〈会場笑〉そうかもしれないなと思ってすごく反省しまして、次のシーンからキャストの方のこともすごく一生懸命見るようにしました〈会場笑〉

私は先ほどの味噌汁の話もそうですけど、猫が島の水を飲むシーンをすごく大切にしていたんです。子猫が手水鉢のところで水を飲むシーンがあるんですが、子猫がパチャン!って落ちてしまう。その時すかさずパッと手を伸ばしたのが柴咲さんでした。

最終回vol.3に続きます。

写真集『ねことじいちゃん』の方も拝見させていただきましたが、もう自然すぎてどこまでがドラマなのか全然分からなかったです…!(そして岩合さんにいただいたサインがとってもかわいかった。ありがとうございます)

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